第90話 The Birds

「この洞窟がアイツらの巣か」


 丈二たちはスマホの表示を頼りに、卵泥棒を追ってきた。

 たどり着いたのは洞窟。

 岩肌にぽっかりを口を開けている。


「いざ、突撃にゃ」


 サブレはこしょこしょと気合を入れた。

 中の卵泥棒に気づかれないようにだ。


『なんか、寝起きドッキリみたいなテンションだなwww』

『卵だらけの理想郷まであと一息!』

『がんばれー』


 丈二たちはこっそりと洞窟に入っていく。

 なるべく足音を立てないように、ゆっくりと。

 少し進んだだけで、それは見えてきた。


「卵泥棒と……うわ、卵がいっぱいだ」


 洞窟の奥で寝息を立てている卵泥棒。

 その手前には、枝で組まれたクッションの上に多種多様な卵が並べられていた。

 よくこれだけ集めたものである。


『流石は卵泥棒だなぁ』

『ぐへへ、苦労して集めてくれてありがとよ!』

『お前の集めた卵は、ゆで卵になるのだwww』


「よし、袋に詰めていきましょうにゃ!」


 ちなみに、卵はアイテムボックスに入らない。

 なので、持っていける分だけ袋に詰めていくしかない。

 幸いなことにモンスターの卵は頑丈だ。ちょっと乱暴に詰めても割れはしない。

 丈二たちはリュックに卵を詰めようと、しゃがみ込んだのだが。


 ガサリ!

 背後から音がした。

 丈二が振り向くと、卵泥棒と目が合った。


「ギュエェェェ!?」

「マズい! 仲間が居たのか!?」

「うわぁ!? また臭いのが出て来るにゃあ!?」


 卵泥棒はびっくり。丈二たちもびっくり。

 丈二たちは、卵泥棒が先ほどのような腐卵臭をまき散らすと警戒したのだが。


「あれ? なんか甘い匂いがするにゃ?」

「本当だ。果物みたいな匂いだな?」


 のんきに匂いを確認していた丈二たち。

 反対に、卵泥棒たちはダッと走り出した。

 チョロチョロと天井に開いた穴から飛び出して行った。


「お? 卵はいらないのか?」

「やったー! ゲットだにゃ!」


『楽勝だったな?』

『あ、マズい……』

『どしたん? 話聞こか?』

『アイツらが出す甘い匂いって、特殊なフェロモンのはず……』


 次の瞬間。


 バサバサバサバサバサバサバサバサ!!

 洞窟の入り口から羽音が押し寄せた。


「うにゃあ!? 鳥モンスターたちが押し寄せてきたにゃ!?」

「ウソだろ⁉ 卵泥棒が呼んだのか!?」


 ぷるん。

 寒天が丈二たちを引き寄せる。

 すぐさま体を張って壁を生成。丈二たちを守る。


「あ、ありがとう。寒天」


 寒天の外では、嵐のように鳥たちが飛び回る。

 ホラー映画みたいな光景だ。


 数分後。

 鳥たちが居なくなった後には。


「た、卵が無くなってるにゃあ……」

「鳥たちが取り返して行ったのか……」


『……とりだけに?』

『止めろ!』

『ゆで卵作戦。失敗……』


 空っぽになった卵泥棒の巣。

 丈二たちはがっくりと膝を落とす。


「……ぐるぅ?」


 しかし、ごそごそとおはぎが巣をほじくり返す。


「ぐるぅ!」

「おぉ! まだ残ってたのか!」


 出てきたのは巨大な卵。

 真っ黒な殻に、青いキラキラが輝いている。

 まるで夜空のようだ。


「キレイだにゃー。これを持って帰りましょうにゃ!」

「そうだな。さすがはおはぎだ! お手柄だぞ!」

「ぐるぅ!!」


 よしよしと頭を撫でると、おはぎは嬉しそうに目を細めた。

 ぐるぐると喉を鳴らしている。


『ゆで卵にするのは、もったいないくらい綺麗だなwww』

『これ何の卵なの?』

『マジで見たことないな。もしかして新種では?』 

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