第89話 黒いアイツ

「よし、こっそり後を付けようか……」

「はいですにゃ」


 丈二たちは、木の影から卵泥棒を観察する。

 卵泥棒は、チョロチョロと木から降りてきた。


「お、思ったよりも大きいなぁ……コモドドラゴンみたいだ……」


 近くで見ると、卵泥棒は意外と大きかった。

 のど元には変わらず卵が浮き出ている。

 スマホで調べたところ、喉のあたりに袋があり、そこに卵を入れて運ぶらしい。


『しかし、卵泥棒ってまんまな名前だよな……』

『正確にはコソドロヤモリって名前だよ』

『草』

『正式名も同じようなもんじゃねぇかwww』


 密林を歩き出す卵泥棒。

 丈二たちもこっそりとその後を追う。


『ステルスゲームみたいだwww』

『ユデタマゴメソッド』

『草』

『ゆで卵の作り方じゃねぇかwww』


 ゆっくりと丈二たちは動く。卵泥棒に気づかれないように。

 しかし、歩きなれないデコボコした道。

 丈二はバランスを崩しそうになり、木に手を当てて体を支えた。


(おっと、危な……ん?)


 ふと、木に当てた手に感触が。

 手の甲をさわさわと触れられるように感じた。

 なんだろう?

 目を向けると。


「どぅわぁ!!!?」


 手の甲には、家で見ることもあるカサカサした黒いアイツ。

 丈二はとっさに手をぶんぶんと振るった。

 そして気づく。


(あ、ヤバい……)


 卵泥棒に目を向けると、目が合ってしまった。

 気づかれた。

 そう考えるよりも早く、卵泥棒は走り出した。


「あ! 逃げるにゃ!!」


 とっさに卵泥棒に飛び掛かるサブレ。

 ロデオのように卵泥棒にしがみつく。

 さらに、おはぎが飛びつこうとしたのだが。


「うわぁ!? くさいにゃ!!」

「ぐるぅ!?」


 卵泥棒から腐った卵のようなにおいが漂ってきた。

 思わず丈二も鼻をつまむ。

 サブレも思わず鼻を抑えて、卵泥棒から落ちてしまう。


「うにゃぁ!」

「大丈夫か⁉」


 ぷるん。

 落ちたサブレは、寒天が器用にキャッチ。

 しかし、卵泥棒は走り去ってしまった。


「あちゃあ……ごめんな。俺が声を出したせいで……」

「しかたないですにゃ。人間はゴキ――黒いアイツが苦手ですからにゃ」


『しゃあない』

『あの状況じゃ声出るわwww』

『画面越しでも叫んじゃったわwww』


「それにボクだって、ただしがみついてた訳じゃないですにゃ!」

「うん? どういうことだ?」

「スマホでボクの位置情報を確認して欲しいですにゃ」

「位置情報?」


 モンスターたちには、迷子になったときのためにタグを付けてある。

 GPSの他に、魔力でも位置を探れる優れモノ。

 ダンジョンの中でも有効だ。


 丈二は言われた通りに、サブレの位置情報を調べると。


「あれ、全然違う所にいるな……もしかして?」

「ふふふ、そうですにゃ! ボクのタグを、卵泥棒に付けておいたのですにゃ!」

「おお!! さすがはサブレだな!」

「ぐるぅ!」


 これで、卵泥棒の巣を見つけることができる。

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