第88話 卵泥棒

「あ、危なかったにゃ……」

「あの高さから落ちたら怖いよなぁ……」


 ぶるぶると震えるサブレ。

 その頭を、丈二は優しくなでる。


「木に登って卵を取るのは止めた方がいいかもな……寒天の力を借りて登っても、モンスターに襲われたら危ないし」


 空を見上げる丈二。

 空を覆うような枝葉。そこを黒い点が動き回る。

 多種の鳥型モンスターたちが飛び回っていた。


 しかも、ぎゃあぎゃあと騒がしい。

 サブレが襲われてから、この調子だ。


「さっきの騒動のせいか? 警戒されてる気がする……」


『夕方ごろに集まるカラスみたいだ……』

『画面越しでもうるさいなwww』

『うるさい? なにも聞こえないが?』

『お前……鼓膜が⁉』


 サブレが肩を落とした。

 がっくりとうなだれている。


「やっちゃいましたにゃー。ごめんなさいにゃ……」

「気にするな。誰が取りに行っても同じようになってたから」

「ぐるぅ!」


 おはぎも励ましている。サブレのお腹に頭をこすりつけていた。

 おはぎの頭に、サブレは抱き着く。


「ありがとうにゃー!」


『異種間友情てぇてぇ』

『俺も二匹の間に挟まりたい!!』


(しかし、どうやって卵を取るかなぁ……)


 このままでは、鳥モンスターたちの卵を取るのは難しい。

 なんとかして、モンスターたちに見つからずに卵を取る方法はないか。

 丈二は巣を眺める。


「……ん? なんだあれ?」


 丈二は双眼鏡を覗き込む。

 鳥の巣で動く何かが見えた。

 鳥のヒナかと思ったが、違うらしい。


「あれは……蛇? いや、ヤモリか?」


 蛇に手足が生えたような生き物が、ちょろちょろと巣の周りを動いていた。

 キョロキョロと周りを気にしている。

 すごく怪しい。


「うにゃ? カメラをズームしてみるにゃ」


『お、見えた』

『ヤモリにしては細長い。蛇にしては手足が生えてるなぁ……』

『とりあえずヤモリでええやろ』


 ヤモリは巣に頭を突っ込む。

 顔を上げたとき、その口に卵をくわえていた。


「あ、卵食ってる。丸飲みだ……」


 人の頭くらいは大きい卵。

 それを一口で飲み込んでいた。

 のど元を通っている卵の形がくっきりだ。

 苦しくないのだろうか?


『あ、アイツ卵泥棒だ!』

『知ってるのか!?』

『モンスター解説動画で見たことある。鳥モンスターの卵を盗んで、巣に貯めとく生態があるらしい』


 コメントで解説が入れられていた。


「巣に貯めとく……ってことは、卵泥棒の巣にはたくさんの卵があるのか?」

「にゃ!? 卵泥棒の巣を見つければ、一気に目標クリアですにゃ!!」


 ゆで卵に一歩近づいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る