第87話 ふらい

「そんなわけで、今日はこちらのダンジョンに来ています」


『ゆで卵のためにダンジョンに来る男。ジョージ』

『鳥ダンジョンか!』

『ジャングルって感じ』

『そのダンジョン、足場悪いから気を付けて!』


 ゆで卵企画を考案した丈二たちは、さっそくダンジョンにやって来た。

 そこはうっそうとしたジャングル風のダンジョン。

 猫族やコボルトたちが住んでいたダンジョンにも似ている。

 だが、彼らが住んでいたダンジョンよりも高低差が激しいため、気を抜くと崖から落っこちかねない。


「卵をがっぽり持ち帰ってゆで卵パーティーにゃ!!」


 ダンジョンに付いてきたメンバーは、おはぎ、寒天、そしてサブレだ。

 犬猫探索隊は別のダンジョンへと向かった。

 ダンジョンまでの送り迎えは牛巻がしてくれている。

 

「しかし、あちこちから、奇声が聞こえて来るな……」


 鳥が多いダンジョンだけあって、鳥の鳴き声が響いている。

 ギャー!!

 なんて、悲鳴のような鳴き声も多い。


『奇声www』

『表現に風情がないwww』

『にぎやかなダンジョンだなwww』


「あ、丈二さん。あれなんか鳥の巣じゃないにゃ?」

「うーん? どれどれ?」


 丈二は持ってきた双眼鏡を覗き込む。

 木の高い位置を見ると、確かに枝で組まれた巣が見える。

 あの中に卵があるかもしれない。


「たしかに、巣みたいだけど……あんな高い位置にあるのか……」


 以前、猫族の住処に行ったとき。

 猫族たちの住処も木の上にあり、丈二は寒天の助けを借りて木を上った。

 その時と同じように、木登りをしようと思っていたのだが。


「あそこまで登るのは怖いなぁ……」


 鉄塔くらいの高さは登らなくちゃいけない。

 真っ逆さまに落っこちたらと思うと、ゾッとする。


「じゃあ、僕に任せてくださいにゃ!」

「サブレ⁉」


 サブレは勢いよく木に登り始めた。

 木の上に住んでいた猫族だけはある。

 木登りはお手の物。

 あっという間に、巣へと登った。

 

「ありましたにゃ!!」


 サブレは喜んでいる。

 双眼鏡越しに、両手に卵を持ってバンザイをしているサブレが見えた。


「あ、卵があったらしいですね」


『お、あっさり手に入ったな!』

『サブレちゃんナイス!』


 しかし、丈二たちを見たサブレは体が硬直している。

 バンザイのまま動かない。

 丈二は嫌な予感がする。


「た、高いにゃー!?」


 思ったよりも高かったらしい。

 サブレはぶるぶると怯えている。

 木登りをしたは良いものの、降りれなくなった猫そのものだ。

 しかも、悪いことは重なるらしい。


「ギェー!!」「ギェェ!」


 巣の主が帰って来た。

 デカいワシみたいなモンスターだ。

 それが二匹。夫婦なのだろう。

 卵泥棒のサブレに襲い掛かる。


「わー、止めるにゃー⁉ 丈二さん助けてにゃー!!」

「ヤバい!! おはぎ、助けに行けるか⁉」

「ぐる!!」


 パタパタと小さな羽を動かして、飛び上がるおはぎ。

 しかし、それよりも早く事態は動いた。


「わー⁉ どこに連れてくにゃー⁉」


 一匹のワシが卵を取り返すと、もう一匹のワシがサブレを連れ去った。

 とりあえず、巣から引き離そうとしているのかもしれない。

 

「ぐるぅ⁉」

「おはぎ! サブレを追いかけよう!」


『どこ行くねーん⁉』

『サブレちゃん、ヤバいよ⁉』


 ワシはサブレに興味もないらしい。

 ポイっと空中に捨てられてしまう。


「うにゃー⁉ 落ちるにゃー!!」

「ぐるぅ!!」


 しかし、捨てられたサブレをおはぎがキャッチ。

 背負っていたバッグに噛みついた。


「あ、ありがとうにゃー」


 なんとか無事に、サブレは地上へと帰ってくることができた。

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