第86話 企画会議

「うーん、もう少しかなぁ」

「ぐるぅ?」


 温泉を見つめる丈二。

 そこにおはぎがやって来た。

 『何をしてるの?』と不思議そうに見つめている。


「これは、温泉卵を作ってるんだ」


 丈二の目線の先には、ミカンでも入っていそうな包装ネット。

 その中には十数個の卵。

 おもりを付けて温泉に沈められている。


 たいやきに頼んで、温泉の温度も七十度ほどに上げてある。

 もう少しで温泉卵が出来上がるはずだ。


「ぐるぅ」


 食べ物を作っていることを理解したおはぎ。

 お座りをして、頂く姿勢だ。


「よしよし、おはぎにもあげるからな」

「ぐる!」


 待つこと数分。

 丈二はネットを上げる。

 持ってきた小皿に、卵の中身を取り出すと。


「おお! 上手いことできたなぁ」

「ぐるぅ!!」


 中身はトロリとしていた。

 とても美味しそうだ。

 丈二はうま味調味料を振りかけると、おはぎの前に差し出す。


「ぐるぅ♪」


 気に入ってくれたようだ。

 丈二も一つ割って。同じように食べてみる。


「うん。鍋で作ったよりも美味しい気がする」


 たぶん、味なんて変わっていないはずだ。

 温泉で作ったという付加価値がそう感じさせるのだろう。

 体験が調味料になっているのだ。


「これ、動画のネタになるかなぁ……」


 ふと思いついた丈二。

 しかし、温泉卵を作るだけの動画……無理だろう。

 いくら何でも画面の変化がなさすぎる。


「そのアイディア頂きですにゃ!!」


 バッ!!

 飛び出してきたのはサブレだ。

 首元に子供用カーディガンを巻いて、頭にはおもちゃのサングラスを乗っけている。

 まるでこてこてのテレビプロデューサー。

 どこでそんな恰好を学んできたのか不思議である。


「おぉ、サブレか。どうしたんだ?」

「温泉卵、作りましょうにゃ!!」

「いや、もう作ってるんだが……サブレも食べるか?」

「頂きますにゃ」


 小皿に温泉卵を割って、サブレに差し出す。

 スプーンを使って美味しそうに食べていた。


「って違いますにゃ!! 動画の話ですにゃ!!」


 温泉卵を食べ終わってからサブレは叫んだ。


「動画? 温泉卵の動画のことか?」


 先ほどの丈二のつぶやきを聞いていたらしい。

 しかし、温泉卵だけで動画を作るのは難しいだろう。

 いくら何でもネタが弱すぎる。

 丈二はそう判断したのだが。


「モンスターの卵で温泉卵を作るんですにゃ!!」

「あぁ、なるほど」


 確かに、それならインパクトも十分だ。

 視聴者の人たちも見に来てくれるだろう。


「どんなモンスターの卵を使うかだけど……」

「調べてみますにゃ」


 サブレは背負ったバッグからタブレット端末を取り出した。

 某有名ブランドの物だ。サブレは禁断の果実を食したらしい。

 肉球を使って器用に操作している。

 そうして数分ほど待つと。


「このダンジョンなんて良いですにゃ!!」

「ダンジョン?」


 サブレが目を付けたのは、モンスターではなくダンジョンらしい。

 タブレット端末の画面を見せて来る。

 ダンジョンの場所もそう遠くない。問題なく行けそうだ。


「鳥系のモンスターが多く生息しているダンジョンらしいですにゃ。そこに行っていろんな卵を採ってくるのが良いですにゃ」

「確かに、いろんな種類で試した方が面白そうだな」


 いわゆる実験検証系っぽい雰囲気の動画になりそうだ。


「そうと決まれば、さっそく探索隊に声をかけてきますにゃ!」


 サブレは意気揚々と走り去った。

 丈二も向かうダンジョンのことを調べておこう。

 そう思ったのだが。


「ぐるぅ!」


 『もっと食べたい!』おはぎがカリカリとズボンを引っかいてきた。


「あぁ、先に温泉卵食べとかないとな」


 まだまだ作った温泉卵が残っている。

 丈二とおはぎは、ゆっくりと温泉卵を楽しんだ。


 ……ちなみに、丈二とおはぎで食べても十個ほど残った。

 残りは温泉に来たぜんざいが食べて行った。

 一口で、殻ごとバリバリと。



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