第84話 焼き魚
丈二のチャンネルに『ヴォルグジラがやって来た!!』というタイトルの動画が投稿予約された。
その待機所では、いつものように公開を待っている視聴者たちがコメントを打ち込んでいる。
『新作動画マダー!?』
『画面にカウントダウンが映ってるでしょ。あとちょっと我慢しなさい!』
『お、ヴォルグジラも手懐けたのか!』
『この間は変なのに絡まれてたから心配してたわ』
『キビヤックだっけ。切り抜きで見たわ』
画面に映っていたカウントダウンが終わり、動画が始まる。
「ぐるぅーー!!」
「きゅおーーん!」
カメラに映ったのは、ライオンくらいのサイズ感のクジラ。
そして、それに追いかけられているおはぎだ。
二匹は追いかけっこをしているらしい。
バタバタと空中を駆け回っている。
「いやぁ、二匹とも元気だなぁ」
画面の隅には丈二が映っていた。
追いかけっこをしている二匹の様子を眺めている。
『いきなり仲良し!!』
『マジで子供の追いかけっこだなwww』
『小回りの差でおはぎちゃんが有利か?』
『あれ、子供のヴォルグジラって捕獲しちゃダメなんじゃ……』
「どうも皆さん。丈二です。今回はヴォルグジラの親子が来てくれたので、二匹を紹介しようと思ったのですが……」
チラリと画面が動く。
丈二の斜め後ろには、巨大なヴォルグジラが居た。
草原の上に腹を乗せて、ぼんやりとおはぎと子供を眺めている。
「子供ヴォルグジラの方が、おはぎにちょっかいをかけて遊び始めてしまって……まぁ、二匹ともまだ小さいですから仕方ないですね。子供は遊ぶのが仕事ですから」
追いかけっこをしている二匹。
おはぎが小回りを活かして、くるりと方向転換。
体の大きなヴォルグジラはすぐには方向転換できない。
そう思ったが、空中に飛び上がり、体をひねりながら一回転。
まるでイルカショーのような動きをして、おはぎを追いかける。
『すげぇ⁉』
『金取れるレベルの動きだったwww』
『迫力あるなぁwww』
「あ、ちなみに子供ヴォルグジラの捕獲は禁止されています。今回はヴォルグジラの生態研究のため特別に許可を頂きました。皆さまはご注意ください」
『ご注意言われてもwww』
『そもそも、モンスターなんて懐かねぇよ(泣)』
『涙拭けよ』
『ヴォルグジラの生態研究かぁ。動物園みたいになってきたなwww』
丈二は母ヴォルグジラに近づくと、その体を撫でた。
ヴォルグジラはあまり気にした様子もない。チラリと丈二を見ると、再び子供たちを眺めていた。
「母ヴォルグジラの名前は『たいやき』です。よろしくな」
「きゅおん」
たいやきは、よろしくと短く鳴いた。
『たいやきwww』
『クジラの名前がそれで良いんかwww』
『まぁ、ヴォルグジラさん自身は文句もないみたいだし……』
「そして、子供の方の名前は『どらやき』です。どらやきー!!」
丈二が名前を呼ぶと、どらやきは勢いよく方向転換して飛び込んできた。
その勢いのまま丈二の腹にヒット!!
「ぐほぉ⁉ こ、こんな感じで元気いっぱいの子です」
さすがに加減はしてくれている。……はずだ。
しかしその巨体から繰り出される体当たりは強力。ちょっとだけお腹が痛くなる。
『元気良すぎだろwww』
『でも、この間はいじめられてたからな。元気になって良かった!!』
きゅうきゅうと額を押し付けるどらやき。
その頭を丈二は撫でる。
「ぐるぅ!」
どらやきの頭におはぎが飛び乗った。
『僕も撫でて!』と丈二に向かって頭を差し出す。
「よしよし。おはぎもどらやきと仲良くしてあげてな」
「ぐるぅ!!」
『分かった!』おはぎは元気よく返事をする。
二匹の仲は心配なさそうだ。良い友達になってくれるだろう。
丈二は忙しく両手を動かす。
二匹の頭を撫でるのも大変だ。
「そんなわけで、新しい仲間たちもよろしくお願いします」
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