第80話 圧勝そして非通知

「よし、チョコは向こうの方に居るみたいだな」


 丈二は、ちらちらとスマホに目を向けながら歩く。

 その画面には犬猫探索隊の斥候である、黒猫のチョコの位置情報が映されていた。

 

 犬猫探索隊のメンバーには、GPSタグのようなものを持たせている。

 それは探索者たちが遭難した際に、捜索しやすいようにと開発された物。

 人工衛星なんて存在しないダンジョン内でも機能するように作られている。

 もちろん距離に限りはあるが、それでも広い範囲をカバーしている。


 ちなみにヴォルグジラには、少し遠くの空から追いかけてもらっている。

 背中の火山で目立つヴォルグジラを連れていると、密猟者たちに近づいたことがバレてしまうからだ。


「お、居た居た!」


 黒い岩肌に溶け込むように、チョコが立っていた。

 大きな岩に隠れて、向こう側をうかがっている。


 丈二たちがチョコに近づく。

 チョコは人差し指で『しーっ』と沈黙を示すと、岩の向こう側に目を向けた。

 丈二もチョコの目線を追う。


『チョコちゃん可愛すぎない?』『もっとカメラ目線頂戴!!』


 そこには金属製のポールが建てられていた。

 黒い岩肌で目立ちやすいように、白と黄色で塗られている。

 なにかの目印だろうか。


『アレ事態はただのポールっぽい?』『同じの使ったことあるわ』『なんで何もない所に立ってるんだ?』


 その周りに二体のロボットが立っていた。

 例の人型とサソリ型の奴らだ。

 サソリ型の背中には、子供のヴォルグジラが捕まっている。

 相変わらず、ぐったりとしているようだ。


「おい、早く迎えに来いよ!! こっちはもうポイントに着いてるんだが!?」


 人型の方が一人で怒っている。サソリ型はその様子をジッと見つめていた。

 通話でもしているようだ。

 何かしらのトラブルがあったであろうことは、言葉の端々から想像できる。


「はぁ!? 警察が居て近づくと怪しまれる!? なんで警察なんて居るんだよ!!」


『警察が邪魔になってる?』『ダンジョンの外の協力者と連絡をとってるのか?』『なんかの合流地点なのかね』


「は? 配信されてる? お前、何言ってんだ?」


 人型から配信と言う単語が聞こえてきた。


「ヤバい。協力者に見られてたか……」


『いえーい! 密猟者くん見てるー?』『ジョージ、同接凄いことになってるの気づけ』『SNSのトレンド一位が密猟になってるよ!』『密猟者くんたちバズってるの凄いやん!』『絶対、そんなバズりかたしたくないわなwww』


 どうやら、ネット上で話題になっていたらしい。

 SNSのトレンド一位まで取っているとなると、彼らの協力者に見つかるのは必然だろう。


「こうなったら、気づかれる前に奇襲をかけよう!」


 幸いなことに、ロボットたちは配信の存在を知ったばかり。

 まだ、丈二たちがドコに居るのかを把握したわけではない。

 丈二のその言葉を聞いて、犬猫探索隊が飛び出した。


「人型のほうは、我々が相手をします!」

「なんだ!? 犬と猫!?」


 人型は飛び掛かって来た犬猫探索隊に怯んでいる。

 

「止めろよ! オレ、小さいころ犬飼ってたんだよ! こいつらに攻撃できねぇよ!」


 どうやら、個人的な事情から攻撃できないらしい。

 犬猫探索隊の攻撃から、必死に逃げまどっている。


『草』『気持ちは分かる』『絵面だけ見るとペットと遊んでるみたいだなwww』『犬猫たちは殺す気で行ってそうだけどw』


 人型がひるんでいるうちに、丈二たちは子供のヴォルグジラを助けようと動き出す。


「おはぎ! いつもの行くぞ!」

「ぐるぅ!」


 丈二の掛け声と共に、おはぎが巨大化する。

 

「どうぇぇ!? ど、どど、ドラゴン!」


 太鼓のようにリズムを刻んで、サソリ型は驚いていた。

 いきなり巨大なドラゴンが現れたら、誰でもそうなる。


「グルァァァァァ!!」

「ひぇぇ!!?」


 怪獣も真っ青なおはぎの雄たけび。

 サソリ型は情けない声をあげながら、逃げ始める。

 

 しかし、すでに遅い。

 おはぎの口から閃光が走る。それは幾本にも分裂すると、その数本がサソリ型に迫った。

 狙いは背中の檻。その格子部分を器用に切り裂く。

 ガタンガタンと檻が外れると、衝撃で子供ヴォルグジラが吹っ飛んだ。

 ぼよん。

 地面に激突する直前で、寒天がキャッチする。


『ナイス!』『良いチームワークだ!』


 まだ閃光は消えていない。

 閃光は螺旋を描きながら集まっていくと、再びサソリ型に迫る。

 次の狙いは本体。

 子供ヴォルグジラを助けた今、多少は荒っぽいことをしても問題ない。


 ズドン!!

 閃光がサソリ型に直撃すると、爆発音を響かせた。

 くるくると回転しながら、サソリ型は宙を舞う。

 もはや四肢も尻尾ももがれたサソリ型は、ドカンと地面に叩きつけられた。


「流石はおはぎ! こっちは片付いたけど――」


 ズドン!!

 丈二が犬猫探索隊の様子を見ようとした瞬間。

 空から爆音が響いた。


 見上げると、そこにはヴォルグジラ。

 背中の火山を地面に向けて飛んでいた。

 その火山の火口から、大きな岩石が放たれた。

 狙いはもちろん人型だ。


 犬猫探索隊から逃げまどっていた人型の背中に、岩石が直撃。

 人型はあっけなく倒れると、ピクリとも動かなくなった。





 倒したロボットの中には、やはり人が乗っていた。

 プシューと電車の扉が開くような音を鳴らしながらロボットが開くと、中からよろよろと男たちが出てきた。

 まだ若い。20代くらいだ。

 髪も染めていて、遊んでいそうな雰囲気。

 丈二もまだ20代なのだが、老け顔の丈二と違って若々しい。


 丈二たちは彼らを捕縛。

 念のため、カメラに顔は映さないように配慮した。


「それで? なんでこんなことしたんだよ?」

「知りませんよぉ。俺たちただのバイトなんですって!」


 今は警察が到着するまでの待ち時間だ。

 ただぼんやりしているのも何だったので、丈二は密猟者たちに質問していた。


「SNSで割の良いバイトがあるって紹介されて、ただ言われた通りに動いてただけなんですよ!」


『もろ闇バイトやん』『これはトカゲの尻尾やね……』『どおりで動きが素人臭いわけだ……』『まぁ、ロボット操縦できるバイトって言われたら、やりたくなる気持ちは分かる』


 などと話していると、バイト密猟者たちのポケットが震えた。

 スマホが鳴っているようだ。


「あの、出ても良いっすか?」

「……まぁ良いよ」


 今さらスマホで電話した程度で何が変わるわけでもないだろう。

 丈二が許可を出すと、密猟者はポケットからスマホを取り出す。

 その画面を見て、いぶかし気な顔をした。


「どうしたんだ?」

「いや、非通知っす」


 密猟者が首をかしげながらも応答ボタンを押すと。

 スマホのスピーカーから爆音が響いた。

 これは、たぶん笑い声だ。


「ダァァァァっっっっっっっっはっはっははぁーーー!! 俺様こそが悪の天才犯罪者ァァァァ!! ドクタァァァァァァーーーー!! キビヤック様ダァァァァァァァァァァァァーーー!!」

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