第79話 クジラVSロボット

 まるで怪獣映画のポスターのような光景だ。


『クジラVSロボット!』『B級映画でありそうな構図だ……』『ちょっと男心をくすぐられるw』『俺もロボット乗りたい!』『身体は闘争を求める……』『クジラさんがんばえー!!』


 火山を背負ったクジラが、人型のロボットへと飛び掛かる。

 ヴォルグジラはその巨体をうねらせて体当たりを仕掛けた。


「どぅわぁー!?」


 対するロボットは奇声を上げながら拳を突き出した。

 それはパンチとも言えないようなものだった。

 喧嘩に慣れてない人が、やけくそ気味に手を前に出しただけ。

 狙いも何もないその拳は、ヴォルグジラには当たらない軌道を描いている。


『操縦してるやつ下手くそかよwww』『変われ! 俺が操縦する!』『素人感すごいな……乗ってるやつは探索者ですらないのか?』


 ガクン!

 しかし、ロボットの拳は軌道を変える。まるで無理やり修正されたように。

 ドガン!!

 ハンマーで岩を殴りつけたような音。ロボットの拳が、飛び掛かって来たヴォルグジラの側面にフックを決めた。


「グォォンン!!」


 ヴォルグジラは、ほら貝のような鳴き声を上げながら地面に倒れた。

 ヴォルグジラの皮膚は岩のように固い。

 しかし、その皮膚を超えて体に衝撃が加わったのだ。


『脳を揺らされたか!?』『立つんだクジラー!!』『ロボットの動きおかしくなかった?』『なんか無理やり動かされた感あったよな』『AIによる補助とか?』


「おお!? 当たったぜ!?」

「いいから! さっさと逃げようぜ!」


 人型ロボットの搭乗者は、自分のパンチが当たったことに驚いている。

 それをせかすように叫び、サソリ型が動き出した。

 サソリの尻尾を自身の背中の牢屋に伸ばす。

 そのまま子供ヴォルグジラに尻尾を近づけると。

 バチン!!

 電球がショートした時のように、まばゆい光が走った。


「きゅっ!」


 子供ヴォルグジラは小さな叫び声をあげると、ぐったりと動かなくなった。

 子供が静かになったとこに満足したのか、ロボットたちはガチャガチャと歩き始める。

 しかし、その方向はダンジョンの出口ではなかった。


「あいつら……ドコに向かってるんだ?」


 丈二はその様子を見て、配信のコメントを思い出す。

 『他にダンジョンの入り口があるのではないか』そんな趣旨のコメントだ。

 そんな馬鹿な。とも思うが、別に入り口があったとすると説明が付きやすい状況だ。


 彼らはその別の出口に向かっているから、本来の出口とは違う方向に歩いている。

 それに、ロボットを持ち込めたことも説明できる。


「……アイツらも追いかけたいんだけど、ヴォルグジラも放っておけないよなぁ」

「それでは、『チョコ』に追いかけさせましょう」


 クーヘンは黒猫の斥候に指示を出した。

 黒猫のチョコはサッと音もなく走り出す。

 すぐに黒い岩に溶け込んで見えなくなってしまった。


『黒猫の子はチョコちゃんって言うのか!』『そういえば、探索隊の子たちは名前出てなかったよなぁ』『そのうち紹介してくれぇ!』


「ありがとう。それじゃあ、俺たちはヴォルグジラの方に行こうか」


 倒れたヴォルグジラには目もくれず立ち去っていくロボットたち。

 ロボットたちが離れたことを確認すると、丈二たちはヴォルグジラに近づいた。

 意識はあるようだが、ぐったりとしている。目立った外傷はないが、やはり内側にダメージが行ってしまったのだろうか。

 

「今から回復してやるからな」


 丈二はヴォルグジラに回復魔法をかける。

 ヴォルグジラは意識がはっきりしてきたようだ。

 焦点の合った目で丈二たちを見る。

 敵意はないようだが、ドラゴンやスライム、犬猫たちを引き連れた丈二に怪訝そうな眼を向けた。


「俺たちは敵じゃないから、暴れないでくれよ?」

「きゅおーーん」


 ヴォルグジラが鳴いた。

 しかし、丈二にクジラ語は分からない。

 なので、会話はクーヘンに頼むことにした。


 わうわうと、クーヘンはヴォルグジラと会話を繰り広げている。


『稀に良くあるモンスター会話タイム』『可愛いからヨシ!』『これ、なんで異種間で喋れてるんだろうな?』『モンスターだし、精霊がどうのこうのとか?』


「話がまとまりました。子供を取り返してくれたら、こちらの願いを聞いてくれるそうです」

「……子連れを連れて帰るのはたぶん駄目だけど、友だちとか紹介してもらうか。ありがとう、クーヘン」


 子供ヴォルグジラの討伐は禁止されている。

 同じように捕縛も駄目だ。

 手名付けて連れて帰る行為が禁止されているかは分からないが、おそらく駄目だろう。

 このヴォルグジラの友だちでも紹介して貰えれば可能性はあるだろうか。

 なんて丈二が考えていると。


 ヴーヴー。

 クーヘンが腰に下げている小さなバッグが震えた。

 クーヘンはそこからスマホを取り出す。

 電話がかかってきたらしい。人差し指で画面をタッチする。

 慣れないおじいちゃんがスマホを操作しているようだ。

 スマホからは、にゃーにゃーと声が漏れている。

 チョコからの連絡だろう。


「どうやら、先ほどの奴らが怪しい動きを始めたようです。急いで追いかけましょう」

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