第78話 密猟

 ドッカン! ドッカン!

 爆音と溶岩をまき散らしながら、ヴォルグジラが飛んでいく。

 丈二たちはその後を追いかけていた。

 幸いなことに噴火するヴォルグジラは、とても目立つため追いやすい


 しばらく走っていると、ヴォルグジラは地上に向けて泳ぎ出した。

 そこが目的の地点なのだろう。

 それと同時に、拡声器で増幅したような声が響いた。 


「どぅわー!? 追いかけてきたぞ!!?」

「そいつのせいだろ!! そいつ黙らせろよ!?」

「きゅおーーん」


 声に交じって甲高い鳴き声が聞こえる。

 これが助けを呼んでいた声の正体なのだろう。

 

 丈二たちが声に追いつく。

 ヴォルグジラは、何か大きな影の周りを気をうかがうようにグルグルと周っていた。

 ヴォルグジラが今にも襲い掛かろうとしている影の正体は。


「なんだあれ、ロボット?」


 そこに居たのは二体のロボット。

 金属製ではないように見える。

 骨のような不気味な白。黒曜石のような神秘的な黒。

 表面は二つの素材で構成されているようだ。


 片方は人型。だが人間そっくりではない。ブロックをつなぎ合わせたようなカクカクとした形をしている。


 もう一体はサソリ型。同じように角が目立つ形をしている。

 そして、その背中には檻のような物を背負っており、そこには小さなヴォルグジラが捕まっていた。

 震えたような甲高い声をあげているのは、その子供ヴォルグジラだった。


『なんだあれ!?』『どっかの企業が作ったやつ?』『ゴーレムっぽくね?』『あれ、子供のヴォルグジラって手を出したら駄目なんじゃないの?』


「コメントでも言われてますけど、子供のヴォルグジラって討伐が禁止されてるんですよね」


 丈二は牛巻が作ってくれた、ヴォルグジラに関する情報を思い出す。


「ヴォルグジラって体内に溶岩を蓄積してるらしいんですけど、その溶岩とヴォルグジラの体液が混ざって固まると宝石が出来るらしいんです。でも大人のヴォルグジラだと溶岩の温度が高すぎて固まらない。討伐した後に体が冷えて、運が良ければ採れるらしいんですけどね」


 その宝石は血のように赤い。

 その不気味さと神秘さを併せ持つ美しさから、愛好家も多い。

 しかし、それはヴォルグジラから極稀にしか採れない。

 その希少性もあって、市場では高値で取引されている。


「でも、その宝石が高確率で手に入るのが子供のヴォルグジラなんです。大人よりも子供の方が溶岩の温度が低く、体液と混ざるとギリギリ凝固するかも、くらいの温度らしいんですよね」


 子供のほうが溶岩の温度が低いため、宝石が生成されやすい。

 しかし、子供のころに生成された宝石は、大人になって溶岩の温度が上がると溶けだしてしまう。

 そのため、宝石を高確率で手にれたければ、子供のヴォルグジラを討伐する必要がある。


「それを知った探索者の人たちに、子供のヴォルグジラは乱獲されてた時代があるらしいです。そんなことをしたら、ヴォルグジラの数は激減する。そのせいでダンジョンの生態系がおかしくなる。それが問題になった結果、子供のヴォルグジラと、子連れのヴォルグジラの討伐は禁止されてるんです」


『はえー』『ヴォルグジラが減ると、どんな問題が起こるの?』『ヴォルグジラが食ってるモンスターが大増殖して、外にあふれ出そうになったらしい』『毒持ちで凶暴なやつな』『ガチで危ないじゃん……』


 子供のヴォルグジラに手を出してはいけない。

 それは溶岩ダンジョンに入ろうとしたなら、自然に分かる情報のはずだ。

 ダンジョンに入るまでの認証ゲートにも注意勧告のポスターが貼ってある。

 万が一バレた場合は罰金。さらに、悪質と判断されたら探索者の資格をはく奪される場合もある。

 

「っし! あっち行けよクジラ野郎!」


 しかし、目の前のロボットたち。

 おそらくは中に人が乗り込んでいるだろう彼らは子供のヴォルグジラを捕まえている。

 しかも、ロボットという大掛かりな装備を持ち込んで。


「……もしかして、許可を取って捕獲しているのか?」


『まぁ、あんだけ目立つ装備持ち込んでたらなぁ……』『一般家庭の自家用車よりもデカいし、隠して持ち込むのは無理でしょうな』『ヴォルグジラの研究サンプル的な?』


 とりあえず、丈二はダンジョンの受付に連絡を取ってみることにした。

 ダンジョン内で問題が起きた時のために、ギルドのサイトから各ダンジョンの連絡先は調べられる。

 丈二はスマホで調べると、受付に連絡を取った。

 数回のコールで相手は出た。数分ほど丈二は電話をすると。


「――ええ、はい。分かりました。失礼します……マジかよ。あいつら、密猟みたいですね」


『うわっちゃー……』『面倒な所に出くわしたね』『ジョージはこの後どうするの?』


「俺はとりあえず待機ですね。遠くからアイツらを見張ろうと思います。警察が来るみたいですし。ダンジョンの入り口も固めるみたいなので、逃げ場はないでしょう」


 相手はガチの犯罪者。

 しかもロボットという凶悪な装備を持っている。


「うぉーー!? クジラ怖えーーよ!!」

「お前の方が人型で動きやすいんだから、なんとかしろよ!!」

「ちくしょう!! バイト代倍にしてもらわないと割に合わねぇよ!」


 犯罪者にしてはノリが軽いが……バイト?

 丈二はその言葉に引っかかったが、聞き間違いかなと受け流した。

 密猟のバイトなんてあるわけがない。

 ともかく、ここはおとなしく国家機関に任せるべきだろう。


「でも、あいつらはどうやってあのロボットを持ち込んだんですかね。受付の人は、そんなデカいロボットは見てないって言ってましたけど」


 そのせいで、最初は丈二の冗談なのではないかと思われたほどだ。


『探索者の人が持ってる物入れられる道具あったよね?』『アイテムボックス?』『あのサイズの物をアイテムボックスに入れられるように加工するのは、メッチャ金かかるぞ。わりに合わない』

『他にダンジョンの入り口がったりしてなwww』『二つ入り口のあるダンジョンなんて聞いたことないわwww』『でも、なんらかの方法で不正に入ったのはありえるかも?w』


 他の入り口。ダンジョンへの不正な侵入。

 丈二はなんとなく、その言葉が気になった。

 しかし、そんなことを気にしている余裕は無くなった。


「クルゥゥオォォォン!!」


 甲高い雄たけびをあげながら、ついにヴォルグジラの巨体がロボットたちに飛びかかった。

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