第77話 クジラ

「というわけで、今回は火山ダンジョンに来ています」


 丈二はカメラに向かって、火山ダンジョンにやって来た理由を説明した。

 お風呂を作るため。その手助けをしてくれそうな、モンスターを手懐けられないかと考えてやって来たのだと。

 

 現在、丈二たちは配信中。

 チャット欄はいつも通り盛り上がっていた。


『マグマが真っ赤だ……』『当たり前のように手懐けに来てるの草』『普通は一匹懐いてくれるだけでも運がいいのになぁ……家にも来てくれないかなぁ……』

『暑そう……』『犬猫探索隊は大丈夫か?』『もふ毛が暑そうだよな』


「あ、暑さ対策は大丈夫です。探索者向けの冷却スプレーを持ってきました」


『そんなのあるんだ!』『俺も欲しい……夏場辛いんだよな……』『残念ながら一般向けには売ってないぞ』『準備万端屋根』『準備万端屋根……不思議な呪文かな?』


 ダンジョンの足元はごつごつしている。

 大小さまざまな岩がゴロゴロとしているのだ。気を抜いたら簡単に転びそうだ。

 丈二は足元に気を付けながら、歩みを進める。


「ちなみに、今日会いに来たモンスターは『ヴォルグジラ』ってモンスターで――うぉ!?」


 ドガン!!

 雷でも落ちたのか。そう思うような爆音が響いた。

 びりびりと空気を伝う振動が体を震わせる。

 キョロキョロと辺りを見回すが、音の発生源が分からない。


「上です!!」


 クーヘンが叫んだ。

 丈二がとっさに見上げる。

 もくもくとした黒い火山灰でおおわれた空。


 そこに真っ赤な光点が浮かんでいた。それはよく見れば小さな火山。

 薄灰色の煙で天を突きあげながら、真っ赤な岩石を振りまいている。

 その小さな火山は、とあるモンスターから生えている。そのモンスターこそが。


「ヴォルグジラだ!!」


 潜水艦のようだ楕円形のフォルム。

 火山灰に溶け込むような黒い体。

 大きさはぜんざいを長くしたような感じ。小さめのバスくらいの大きさだ。

 見た目はまさにクジラ。空を泳ぐクジラだ。

 だが、ただの空飛ぶクジラではない。

 火山を背負い、そこから大噴火を起こしている。

 このモンスターが、丈二たちが会いに来た『ヴォルグジラ』だ。


『空に浮かぶ線香花火みたい』『見た目は何となく似てるなwww』『そんな優しいもんじゃないやろwww』『ドッカン線香花火……』『それ、ただの花火では?』


「ってヤバい! 岩が降ってくる!?」


 ぼんやりと眺めている場合ではない。

 ヴォルグジラがまき散らしている溶岩弾。

 その一つが丈二たちの元へと振って来た。


「うぉ!? 衝撃がヤバい!!?」


 ガツン!!

 丈二がとっさに張ったバリアに、溶岩弾が激突した。

 跳ね返された溶岩弾は、ごろりと地面に転がる。

 落下によって勢いの付いた溶岩弾は、それこそ銃弾のような速度で降ってきた。

 危うくバリアが破られそうになって、ヒヤリとした丈二である。


 ぷるん。

 体を伸ばしかけていた寒天が丸い形に戻った。

 丈二が駄目でも、寒天が何とかしてくれていただろう。

 本当に頼りになるスライムだ。丈二は心の中で寒天を拝んでおく。


『ナイスジョージ!』『そういえば、こんな魔法使えたなー』『モンスターの子たちが有能すぎてね……ジョージの出番は少ないよね』


 なんとか溶岩弾を退けた丈二たち。とりあえず、ヴォルグジラの噴火も収まったようだ。

 しかし、事態は何も進展していない。丈二たちはヴォルグジラを手懐けられないかとやって来たのだ。

 とりあえず、なんとか空を飛んでいるヴォルグジラに接触できないか。

 丈二はリュックから望遠鏡を取り出すと、ヴォルグジラの様子を眺める。


「あのヴォルグジラ……なんか怒ってないか?」


 空を飛ぶヴォルグジラだが、様子がおかしい。

 まるで対戦ゲームで負けて台パンを繰り返すように、激しくのたうち回っている。

 その目は激しい憎悪に染まっている気がした。


『確かに、怒ってる風ではある』『あれは手懐けられないやろ……』『なんであんなに怒ってるんだ?』


 丈二たちがヴォルグジラを眺めていると、ビクリとヴォルクジラが何かに反応した。

 そして、尾びれを空中に叩きつけると何処かへ飛び始めた。


 それと同時に、探索隊の猫族たちもピクリと反応していた。

 クーヘンに何やら報告している。


「どうやら、向こうから声がしたようです。『助けを呼ぶような声だった』と」


 どうやら、猫族たちには何か聞こえていたらしい。


『なんで猫族だけ?』『猫の方が耳が良いって聞いたことあるし、その辺の違いじゃね? まぁ、モンスターだから猫の生態は参考程度にしかあてにならんけどね』『助けってなんだ?』


「とりあえず、そっちに行ってみようか。怒ってた原因を取り除いたら仲良くなれるかもしれないし」

「分かりました」


 ヴォルグジラが怒っていた理由。助けを呼ぶような声。

 現状では何が起こっているのか分からない。

 とりあえず、丈二たちは声のした方に向かってみることにした。

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