第75話 風呂作り

「ばう!」


 『温泉に入りたい!』ぜんざいの鳴き声が、丈二家に響いた。

 春の陽気がぽかぽかと気持ちの良い昼下がり。

 ぜんざいは、ぐてんと横になりながらチューナーレステレビを眺めていた。

 そこに写っているのは、ネット配信されている旅番組。

 ちょうど温泉のシーン。

 和の雰囲気が溢れる露天風呂に、おじさんレポーターが浸かっていた。

 特別な許可を得て、ビールを持ち込んでいるらしい。

 『ぷはぁーー!!』と、なんとも気持ちよさそうに飲んでいる。


「ばう?」


 『聞いているのか?』ぜんざいが不思議そうに顔を動かした。

 そのはずみで、ぜんざいのふかふかとしたお腹で眠っていたおはぎが、ごろんと落ちる。『ぐるぅ?』と寝ぼけ眼でキョロキョロと見回していた。


「聞いてますよ。また『クシナダ』にでも行きますか?」


 『クシナダ』は巨大な複合施設だ。冒険者向けの施設も多く。モンスターへのサービスも厚い。

 そこのホテルにはモンスターも入れる大浴場があった。以前にぜんざいたちと行ったこともある。


「ぐるぅぅぅ……」


 どうやら、あまり気に入らないらしい。

 あそこも楽しんではいたはずだ。

 風呂の種類などは充実していた。ぶくぶくと泡の出るジェットバスなんかもあった。

 となると、気に入らないのは。


「やっぱり、大きさが問題ですか?」

「ぐるぅ」


 『そうだ』ぜんざいは残念そうにうなっている。


 現在、丈二家でダラダラしているぜんざいはライオンくらいのサイズ。

 しかし、本来のぜんざいは6人乗りの自家用車くらいの大きさがある。

 魔法によって小さくなっているだけだ。

 そして、小さくなっている状態は窮屈に感じるらしい。


 その状態で風呂に入るのは、膝を抱えて必死に体を縮こませながら入っているようなものだろう。

 どうせ風呂に入るのならば、もっとのんびりと入りたい気持ちは丈二にも分かる

 丈二もなんとかしてあげたいのだが……そもそも、モンスターが入れる風呂なんて聞いたことがない。

 ましてや、フルサイズぜんざいが無理なく入れるような場所はないだろう。

 そうなると、丈二に考えられる方法は一つしかなかった。


「……やっぱり、おはぎダンジョンに浴場を作らないとな」

「それは良いアイディアですにゃー!!」


 ぴょこんと、縁側から三毛猫が顔を出す。

 サブレだった。

 サブレは時代劇の悪徳商人のように手もみしながら丈二に近寄る。


「きっと、猫族やコボルトの皆も喜びますにゃ。みんな毎日お風呂に入りたいですにゃ!」


 おはぎダンジョンへの大浴場の建設は前々から考えていたことだった。

 理由は、猫族やコボルトたちのお風呂事情だ。


 毎日頑張っている彼らは、汗もかくし体も汚れる。

 しかし、現在あるお風呂は丈二家にある一般的な風呂場のみ。

 何十匹と居る猫族とコボルトたちが、毎日お風呂に入るには小さすぎる。

 ついでに水道代もバカにならない。


 なので、現在はおはぎダンジョンの川から汲んできた水による水浴びがメイン。

 それと日によって交代で、丈二家のお風呂を利用している。

 しかし、それではあまりにも不憫。

 どうにかしなければ、と考えていた。


「あ、その件なら、候補のモンスターは何体か探せてますよー」


 パソコンに向かっていた牛巻が、タブレットを差し出してきた。

 そのタブレットには、モンスターの情報がまとめられた資料が映っている。


「お、風呂の運営を手伝ってくれそうなモンスターたちか」

「水を生み出すとか、熱を発生させるとか、そういう生態のモンスターをまとめてみました」


 こうしてまとめられると、結構な種類のモンスターがいる。

 もっとも、上手く懐いてくれるかは分からない。エサなんかで仲良くなれるのならば簡単なのだが……。

 ともかく、チャレンジできる数は多い方がありがたい。


「ばう!」


 『早速行くとしよう!』ぜんざいはいきなりやる気マックスだ。

 ぶんぶんと尻尾を振っている。

 まるで散歩と言われた犬みたいだ。


「いや、さすがにいきなりすぎますって! まずはドコから当たるか吟味しないと!」


 丈二はなんとかぜんざいをなだめながら、モンスターのリストを眺めた。



☆お知らせ


いつも読んでくださってありがとうございます。

5/12からハ〇ラル行ってくるので、しばらくは文量が少なくなるかもしれません。

毎日投稿はなるべく続けるつもりですが、無理だったらごめんね。

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