第72話 キノコと和解せよ

 おはぎダンジョンの森。

 もはやキノコたちに占拠された森の手前に丈二たちはやって来た。

 マタンゴたちと交渉をするためだ。

 今回も交渉役はこわがり。前回のリベンジをしたいと申し出てくれた。


 ついでに、今回は配信もしている。

 丈二の斜め後ろには、カメラがふわふわと浮かんでいた。


『うわぁ、マジでキノコの森だ……』『キノコ王国やん!』『配管工が居そうだなwww』『雰囲気的には不思議の国って感じだけどなwww』


「おーい、マタンゴ居るかー?」

「ほわー」


 丈二たちは森に向かって声をかける。

 すると、森の奥からマタンゴたちが飛んできた。

 まるで宙を泳ぐクラゲのように、ふわふわと。

 数は前回と同じ三匹だ。


 マタンゴたちは、一か所に集まるとふわふわと周りだす。

 それを合図にしたように、森のキノコたちが集まりだした。

 そうして出来上がるのはキノコの巨人。


「うぇ!? いきなりかよ!?」

「ほわー!?」


 丈二たちがやって来たと分かったとたん、排除することを決めたらしい。

 交渉する機会すらもらえないとは。

 キノコの巨人は丈二たちに向かって走り出す。

 ドスン! ドスン!

 重量を感じさせる重い足音が響く。


『ヤバい! 怖い!』『丈二逃げてー!』『恐怖のキノコ人間!』


 前回の様子を思い出す限り、あのキノコ巨人は見た目ほどファンシーな存在じゃない。

 このままぶつかったら、車に轢かれたようにぺちゃんこだ。


 しかし、丈二たちだって無策でやって来たわけじゃない。


「ガルァァ!!」


 走るキノコ人間が、真横に吹っ飛ぶ。

 巨大な狼。ぜんざいがタックルを決めたのだ。


『ぜんざいキター!』『カッコいい!』『流石のパワー!!』『肩にちっちゃい重機乗せてそう』『むしろデッカイ重機でしょwww』


「んごー!?」


 マタンゴたちは、自分体のキノコ巨人が吹っ飛ばされて驚いているようだ。

 しかし諦めてはいないらしい。

 キノコ巨人はむくりと起き上がると、今度はぜんざいに向かって走り出した。

 そして丸太のように太い腕を振り上げる。

 ドガン!!

 火薬が爆発したような音が響く。しかし、当たらなければ意味はない。


 ぜんざいはヒラリと攻撃を避けていた。

 目標を失ったキノコ巨人の拳は地面を叩き、そこに小さなクレーターを作っていた。

 威力は凄い。しかし遅すぎた。


「ガルゥ!!」


 攻撃の反動でがら空きになったキノコ巨人の体。

 その胴体にぜんざいは噛みついた。大きな顎で掴むように。

 そして軽々とキノコ巨人の体を持ち上げると、ブルンと森に向かって投げ捨てた。

 まるでおもちゃを投げる子供のように、乱暴に、あっさりと。


 メキメキ!!

 木々をなぎ倒しながら、キノコ巨人は吹っ飛んだ。

 そして、ばたりと地面に落ちると動かなくなった。


「んごー!!?」


『ツエーー!!?』『犬猫探索隊ってぜんざいコレに鍛えられてるんでしょ? そりゃ強くなるわ……』『ぜんざいさんが悪いモンスターじゃなくて良かった……』


 おそらく、まだまだキノコ巨人は戦えるはずだ。

 そもそも単一の生物ではなく、マタンゴたちが動かしている人形のような物らしい。

 マタンゴの魔力が続く限り動かせるはず。


 しかし、ぜんざいとの力量差は明確だ。

 このまま戦っても勝てる見込みはない。

 マタンゴたちの魔力が尽きるだけ。

 そのことに気づいたマタンゴたちは、逃亡を選んだらしい。


「んごー!!」


 マタンゴたちは慌てたように森の奥へと飛び始める。

 キノコの傘を必死にはためかせていた。

 しかし、逃亡は叶わない。


「んご!?」


 ぼよん!

 マタンゴたちは、見えない壁にぶつかって押し戻されていた。

 そこにあったのは、薄いフィルムのような壁。

 だが、いくらマタンゴたちが体当たりしたところで破れはしない。


「寒天! ありがとう」


 そのフィルムの正体は寒天だ。

 薄く体を伸ばして、マタンゴたちの逃走経路を奪っていた。

 もはや逃げ場はない。頼みのキノコ巨人も、ぜんざいが居ては意味がない。


 丈二はマタンゴたちに近づく。

 マタンゴたちは肩を寄せて、フルフルと震えていた。

 命乞いをするように、情けない鳴き声を上げている。


「んごーー」


 いや、そもそも丈二はマタンゴたちに危害を加えるつもりはない。

 あくまでも交渉がしたいだけだ。


「後は頼むよ」

「ほわぁ!」


 丈二の頭に、こわがりが乗った。

 そっちの方が、マタンゴたちに近づけるからだ。

 そして、こわがりによる交渉が始まる。


「ほわぁ、ほわほわぁ」

「んごー?」


 丈二の頭の上から、ほわほわ、んごんごと声が聞こえる。


『なにを話してるのか分からねぇ……』『とりあえず可愛いわwww』『頭の上で話し合いされるのって、どんな気分なんだwww』


 今回、丈二たちがマタンゴたちに頼みたいことは一つだ。

 それは『森の管理の手伝い』。


 薬草の研究をしてくれている猫族。

 ミントの調査によると、マタンゴたちの存在は森に良い影響をもたらしてくれるらしい。

 薬草が生えてくるのはもちろんのこと。森の木々にもいい影響がある。

 キノコが付いていることで、足りていない栄養や魔力が供給されるとか。

 キノコたちが居ることで、より豊かな森林が築けるらしい。

 かといって増えすぎは良くない。


 そこで、ミントとマタンゴで協力して森を管理してもらおうと考えた。

 本やネットを通じて、植物に関する知識を蓄えてきているミント。

 それとキノコたちを操って森を管理してくれるマタンゴたち。

 彼らが居れば、森林資源に困ることは少なくなるだろう。


 そして、マタンゴたちに森林管理を手伝ってもらう代わりに、丈二たちはキノコハウスを用意することにした。

 キノコたちが生育しやすいように、湿度や温度を管理した家だ。

 トレントたちから採った木で、キノコの原木も用意する。

 マタンゴたちにとっても悪くない話のはずだが。


「んごー!」


 話はまとまったらしい。

 マタンゴたちは受け入れてくれたようだ。

 先ほどまでおびえた様子は消え去った。嬉しそうにこわがりの周りに集まっている。


「マタンゴが協力してくれるのは嬉しいけど……俺の頭の上で遊ばないで欲しい」


 じゃれつくマタンゴたちによって、丈二の髪の毛はくしゃくしゃになっていた。


『草』『丈二の頭は遊び場やwww』『頭に胞子かかってそうw』『そのうち頭からキノコ生えてきたりしてなwww』

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