第70話 ぱわー!!
駆け出したクーヘンたち。
ザッと足音が鳴る。
その音が鳴った瞬間。トレントはぐりんと振り向くと、その枝のような長い腕を突き出す。
ガツン!!
クーヘンが盾でその攻撃を防いだ。
『上手い!』『ジャストガードや!』『パリィ!!』
弾かれたトレントの腕が、風に吹かれた頼りない枝のように宙を泳ぐ。
隙だらけだ。
トレントは攻撃を防がれるとは思っていなかったらしい。迷い箸のように、伸ばした腕をどうするべきか決めかねている。
片手剣を装備した犬族が前に飛び出した。
ズバン!!
一太刀でトレントの片腕を切り落とす。
『やるやん!』『腕はトレントの武器だけど、同時に弱点だからな!』『細いから脆いんだよね』『常人から見ると切れそうにないですけど……探索者ってすごいんやね』
「メキィィィィ!!?」
木造の家が軋むような音が響いた。
トレントの叫び声らしい。
トレントは切られた片腕を、無事な方の腕で掴んだ。
切られたと言っても木材。
あのまま振り回しても、こん棒のように使えるのだろう。
「メキメキメキ!!」
トレントは腕を振り上げる。
そのまま叩きつけるつもりのようだ。
あの長い腕を振り回せば、凄まじい遠心力がかかるだろう。
まともに食らえば、ひとたまりもない。
『あわわ、避けて!』『流石にガードしきれないよ!』
だが、犬猫探索隊だって、ぼーっと眺めているわけではない。
ビュッ!!
短い風切り音と共に、矢が放たれた。猫族の子が放ったのだ。
その矢はトレントの顔面へと飛んでいく。
そこに開いている穴。目のように奥から黄色い光を放っている穴を射る。
「メキャ!?」
『うへぇ、想像するだけで痛い』『射撃上手い!』『弓道警察だ! 弓の持ち方がおかしいぞ!』『そら猫やからな。人間とは違うよ』
急所だったらしい。トレントは目をかばうようにして苦しむ。
振り下ろそうとしていた腕は宙ぶらりんだ。
その隙を見逃さなかったのが、偵察の猫族だ。
風のように走り出すと、軽やかにトレントの体を駆け上った。
そして忍刀のような、短い刀に手をかけると。
スパン。居合のようにもう片方の腕も切り落とす。
トレントの頭上へと振り上げられていた腕は、ガランゴロンとトレントの頭を打ち付ける。
『ナイス!!』『動きすげぇ。パルクールとかやってみて欲しい』『偵察猫が好き。クールな黒猫感がたまらん』
これでトレントの一番の武器である両腕は奪った。
しかし、問題はここから。
『しかし、どうやって倒すんだ?』『どゆこと?』『トレントの幹は硬いから、生半可な攻撃じゃダメージ通らないんだよ』『ハンマーとか、打撃系の武器がダメージ通りやすいけど』『こっちの武器は、槍、剣、刀、弓。相性はいまいちだよなー』
武器の相性の問題がある。
だが犬猫探索隊には、なにか考えがあるようだ。
迷う様子もなく、クーヘンが走り出す。
「メキィ!!」
トレントもクーヘンに警戒しているようだ。
手を奪われ、短くないっているが腕は残っている。
その腕をぶんぶんと振り回して、クーヘンを寄せ付けないようにしている。
『リーチが長い!』『これじゃ近づけないやん!』
ビュン!
矢が放たれた。次の狙いもトレントの目。
しかし、二度目は効かないらしい。トレントは体をよじり、目に矢が入らないようにする。
トス!
子気味の良い音を鳴らして、眉間のあたりに刺さった。ダメージはない。
『外された!』『こいつ、学習してやがるぞ!?』
だが隙はできた。剣を持った犬族と、偵察の猫族が飛び出す。
トレントからすれば、この二匹は自分の腕を奪った憎き相手。なんとか打ち倒そうと腕を振るった。
しかし、彼らはおとりだ。
始めからトレントに対する有効打を持っていなかった。
腕を振るったせいで、本体はがら空き。
クーヘンはトレントに駆け寄ると、盾を付けた腕を振り上げる。
ズドン!!
まるでパイルバンカーのように、盾のとがった部分を打ち付けた。
メキメキメキ!!
トレントの体。打ち付けられた部分から亀裂が走る。そして音を立てながら倒れた。
『うおおぉぉぉ!!』『パワーisパワー』『盾でぶん殴るんかいwww』『見事なまでのごり押しwww』
「討伐完了です」
クーヘンは倒れたトレントを見下ろす。
その目からは緊張が途切れていなかった。
残心、と言うやつだろう。
そして丈二は思った。
槍使わんのかい!
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