第69話 紅葉狩り
丈二たち一行は、無事にダンジョンまでやってこれた。
今回やって来たのは森のダンジョン。
外はまだ春だというのに、このダンジョンの木々はカラフルに色づいている。
紅葉時期の観光地さながら。
赤や黄色の落ち葉によって、鮮やかな絨毯が敷き詰められていた。
ダンジョン系配信者の間では、『映えダンジョン』なんて呼ばれているらしい。
確かに景色はキレイで、動画が映える。
しかもモンスターが出現する普通のダンジョンなため、一般人は立ち入れない。
よって映像の希少性もある。
動画を撮影するにはもってこいのダンジョンだ。
「よし、じゃあ配信の準備をするからな」
もちろん、丈二も配信をするつもりだ。
しかし今回の主役はおはぎではない。
「分かりました」
クーヘンが悠々とうなずいた。
今回メインを張ってもらうのはクーヘンを始めとする犬猫探索隊だ。
だが彼らに緊張した様子はない。なんとなくカメラは気になっているようだが。
配信という行為がいまいちピンと来ていないようだ。
「まぁ、カメラのことは気にしないで、やりやすいようにやってくれ。安全第一、危なくなったら下がってくれ。おはぎや寒天がフォローしてくれるから」
「ぐるぅ!」
『まかせて!』おはぎが威勢よく鳴いた。
なんとも頼もしい。
今回、丈二、おはぎ、寒天たちは出来る限り手を出さないようにする。
犬猫探索隊の実力を測ることも目的の一つだからだ。
探索隊は今回が初めての実戦。
と言っても、もとより彼らはモンスターを狩猟していたりした。
それに、ぜんざいにも稽古をつけてもらっていたのだ。
そこらのモンスターにおくれを取ることはないだろう。
丈二としてもそこまで心配はしていない。
「それじゃあ、配信を始めるから並んでくれー」
犬猫探索隊は横一列に並んだ。
ビシっとしたその姿は軍隊のようだ。
彼らはいったいドコを目指しているのか。
訓練の参考になればと思い丈二が見せた、軍隊の訓練映像が良くなかったのだろう。
「じゃ、じゃあ始めるな」
丈二は配信ボタンをタップする。
それと同時にコメントが盛り上がりだした。
平日の昼間だが、そこそこの人が来てくれている。
ちなみに、後日に動画化もする予定。
『犬猫探索隊のお披露目キタ!』『丈二の後ろに並んでるのがそうか!』『軍隊みたいだwww』『俺のところに派遣してくれ! ぼっち探索は寂しいんじゃ!』
「皆さんこんにちは、丈二です。今回は猫族とコボルトによって編成された探索隊のお披露目のために、ダンジョンにやってきました」
丈二は画面からどけて、探索隊を中央に映す。
彼らは微動だにしない。
「そして、今回の討伐目標は『トレント』です。わけあって、彼らの葉っぱや木が欲しいので」
トレントは歩き回る木のモンスターだ。
モンスターだけあって、彼らの体には魔力が豊富。もちろん、その葉っぱは幹にも。
トレントから採れた葉っぱや木を交渉材料にすれば、マタンゴたちも納得してくれるだろう。
『わけあって? またなにか計画してるのかな?』『このダンジョン、トレント多いからなー』『てか背景キレイじゃん!』『めっちゃ行ってみたいダンジョンだわ。でも一般人は立ち入り禁止なんだよね』
「それじゃあ、早速行ってみましょう」
丈二の言葉を合図に、犬猫探索隊が陣形をとる。
前方に大きな盾と槍を構えたクーヘン。その後ろに片手剣を構えたコボルト。さらに弓を構えた猫族。
偵察として軽装の猫族がチョロチョロと動き回っている。
『パーティーのバランス良いね!』『回復役が居ないのがちょっと心配?』『そこはジョージがおるやん?』
少しばかり歩みを進めると、偵察の猫族がクーヘンに報告をしていた。
うにゃうにゃうにゃ。
彼はまだ日本語が使えないため、丈二には何を言っているのか分からない。
「向こうにトレントが一匹いるようです。狩りに向かいます」
「分かった」
偵察の猫族に案内されて一行は進む。
少し歩くと、木々の隙間からトレントの姿が見えた。
樹木に顔が付いたようなモンスターだ。
わさわさと頭から伸びた枝葉を揺らし、枝分かれした根っこのような足をせわしなく動かして歩いている。
ガサガサ!
丈二たちとは反対方向。草むらから音が鳴った。
ビュン!!
風切り音を鳴らしながら、トレントが細い枝のような腕を伸ばした。
目標は音が鳴った草むら。
トレントが腕を戻すと、その手には犬くらいの大きさのコオロギに似たモンスター。
ジタバタとしているが逃げられないらしい。そのまま、トレントの大きな口へと運ばれた。
思わぬところで食物連鎖に遭遇してしまった。
『ひぇぇぇ!!?』『怖い!!』『おはぎちゃんたちを見てると勘違いするけど、モンスターって本当は怖いからな……』
今の光景を見て、探索隊が臆しているのではないか。
正直、丈二はビビっていた。実戦経験の少ない、なんちゃって探索者ではそんなもんである。
しかし探索隊は動じていない。クーヘンはキッとトレントを睨む。
狩人の目をしていた。
「それでは向かいます」
ザッ!
クーヘンたちはトレントへと走り出した。
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