第67話 共生関係?

「いやー、大変な目にあったな……」


 丈二たちは薬草栽培の研究所に戻って来ていた。

 

 マタンゴたちとキノコによって占拠されてしまった森。

 このままでは木の伐採もままならない。

 なんとかして、マタンゴたちの対処をしなければならない。


「……駆除するしかないかなぁ」


 こわがりがマタンゴたちに立ち退き交渉をしたのだが、あえなく決裂。

 マタンゴたちはキノコの巨人を作り出して、丈二たちを襲ってきた。

 言うことを聞いてくれないなら仕方がない。

 森はおはぎダンジョンにとって、貴重な資源と土地である。

 マタンゴたちに渡すわけにもいかない。

 駆除をしなければならないかと丈二は考えていたが。


「ちょっと待って欲しいですにゃ」


 ミントが駆除に待ったをかけた。


「気づいたんにゃけど、森に『メディッキュ草』がたくさん生えていたにゃ」


 メディッキュ草は丈二たちが栽培しようとしている薬草だ。

 現時点では上手く行っていない。

 生えていた場所から移してしまうと枯れてしまうからだ。


 しかし、メディッキュ草はそもそも森を中心として生えていた薬草。

 森に生えているのは不思議ではない。

 いや、ミントは”たくさん”生えていたと言っていた。

 メディッキュ草はまばらにしか生えていなかったはずだ。

 だからこそ安定供給のために栽培を目指している。


「森の地面にいっぱい生えてたにゃ。以前では見られなかった光景にゃ」


 そう言われて丈二は思い出す。

 キノコにばかり目が行っていたが、確かにメディッキュ草の白い花も咲き誇っていた気がする。

 大繁殖したきのこたち。それと同じように繁殖したメディッキュ草。


「キノコたちがメディッキュ草の栽培に関係していると思うのにゃ」

「つまり……キノコとメディッキュ草が共生関係にあるとか?」


 共生関係。

 生物が他の生物から利益を貰って生きていることだ。


 昔のお魚映画で主演も務めたクマノミなんかが有名だ。

 クマノミはイソギンチャクを住処とする。

 イソギンチャクには毒針が付いているため、他の生物は近づけない。

 だがクマノミは特殊な粘液のおかげで針に刺されない。

 これのおかげでクマノミは安心安全な住居が手に入る。


 似たような関係が、キノコとメディッキュ草の間にあるのかもしれない。

 たしか、メディッキュ草からは謎の魔力が検出されていたはず。

 その魔力の出所が、キノコたちなのかもしれない。


「そう考えると、いきなりメディッキュ草が生えてきたのも理解できるな……」


 森のあたりに行けるようになってから、メディッキュ草が生えてくるまではタイムラグがあった。

 その理由がキノコたちなのではないだろうか。

 猫族たちと共におはぎダンジョンにやって来たキノコたち。

 彼らが繁殖して、メディッキュ草に魔力を供給できるようになるまで時間がかかった。

 それが原因で、後になってメディッキュ草が生えてきたのかも。


 メディッキュ草の種がドコからやって来たのかは分からない。

 そもそも、ダンジョンに生えていた木だってドコから来たのかは分からない。

 始めから地面に埋まってたのが、発芽していなかったのか。

 あるいは、キノコと同じように猫族やコボルトの毛に引っ付いてきたのかもしれない。


「ともかく、メディッキュ草を栽培するならマタンゴたちの助けがあったほうが良いかもな」

「僕もそう思いますにゃ」


 丈二の意見にミントも同意する。

 そうなると駆除では駄目だ。

 かといって、森を丸々マタンゴたちにあげるわけにもいかない。

 なんとかして交渉する必要がある。


「方向性としては繁殖を抑えてもらうか……もしくは移住か」


 いや、そもそもマタンゴたちに森を占拠されて困るのは、森の資源が採れなくなるからだ。

 つまりは木の伐採、植物や木の実の採取など。

 そこが変わらずできるのならば、キノコが生えているのは問題ない。

 森に悪影響さえ出なければ。

 だがマタンゴたちだって、森を滅ぼしたいわけじゃないはず。

 森を壊すほどの繁殖はしないだろう。


「これまで通り森を利用するのを容認してもらうのでも良いか」


 まぁ、その辺はマタンゴと交渉しながら決めれば良い。


「あとは、なにを交渉材料にすればいいのか……」

「はい。おやつを上げるのが良いにゃ!」


 サブレがピシッと手を上げる。

 半ばおやつに釣られるような形でおはぎダンジョンにやって来た猫族らしい回答だ。


「でも、きのこたちは何を喜ぶんだ?」


 キノコ向けのおやつなんて丈二には思いつかない。

 マンドラゴラたちは肥料を喜んでいるが。

 キノコにとって肥料に当たる物とはなんだろうか。


 丈二は手元のスマホで調べてみる。

 どうやらキノコの栄養源は、木の根、落ち葉、枯れ木など。


 埋められた死体の上に繁殖するキノコなんかもあるらしい。

 キノコがたくさん生えている所を掘ったら、行方不明者の遺体が出てきた。

 なんて恐ろしい話も出てきた。

 マタンゴたちが、そんなキノコではないことを願いたい。


 丈二は調べた情報を話す。

 またしても、サブレが手を上げた。


「落ち葉や枯れ葉なら、探索隊の皆で採ってこれると思うにゃ!」


 ダンジョンによって、多種多様な植物が生えている。

 マタンゴが気に入りそうな木。例えば魔力が豊富な木など。

 よそのダンジョンに生えているそんな木から、落ち葉や枯れ木を採ってきて交渉材料にする。


「マタンゴたちが薬草栽培に協力してくれれば、安定供給もできる。そんな感じで交渉できるか」


 薬草からポーションが供給できれば、犬猫探索隊も動きやすくなる。

 そうなれば落ち葉や枯れ木の採取もやりやすくなるだろう。

 丈二たちにとっても、マタンゴたちにとってもメリットのある話になる。


「予定よりちょっと早いけど、犬猫探索隊の初陣をしてみようか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る