第64話 思わぬ発見

「おはぎ、投げるぞー!」


 おはぎダンジョンの中。

 丈二とおはぎは、ダンジョンのはずれ。

 森の近くでボール遊びをしていた。


 丈二とおはぎで遊ぶときは、よく動画を撮っている。

 だが今回はお休みだ。

 たまには動画などは気にせずに、のびのびと遊ぶのも良いだろう。

 そう考えて、一人と一匹でのんびりとしていた。


「ほら!」


 丈二がボールを投げる。こぶしサイズのボールだ。

 小さなおはぎでも、くわえやすそうな大きさ。


「ぐるぅ!」


 投げられたボールを追いかけて、ダッとおはぎが走り出す。

 ぴょん!

 綺麗な姿勢でおはぎは跳びはねる。

 そして器用にボールに噛みつくと、スタリと地面に下り立った。

 実に素晴らしい動きだった。

 何らかの競技であれば、満点が貰えるだろう。


「ぐるぅ!」

「よしよし、さすがはおはぎだな」


 おはぎは軽やかに丈二の元に戻ってくる。

 そしてボールを渡すと、ジッとボールを見つめる。

 その尻尾はぶんぶんと振られていた。

 まるで『投げて投げて!』と言っているようだ。


「よーし、任せとけ!」


 次はもっと遠くに投げてあげよう。

 丈二は張り切って腕を振りかぶったのだが。


「ぐぇ!?」


 ぐぎり!

 腰のあたりに痛みが走る。

 とっさのことにボールはすっぽ抜けて、森の方へと飛んで行ってしまった。

 丈二はへなへなと、その場に倒れこむ。


「こ、腰がぁぁぁぁ!!?」

「ぐ、ぐるぅ!?」


 ぎっくり腰までは行っていない。

 いや、行っていないはず。

 丈二は自分を信じる。まだ腰をやるほど老け込んでいないはず。

 腰の筋肉がつってしまっただけだろう。

 少し安静にしていれば治るはずだ。


 しかし、おはぎにはそんなことは分からない。

 不安そうに丈二の周りをウロウロとしている。


「だ、大丈夫だ。少し休めば良くなる」


 まるで致命傷を受けた戦士のような言いざまだった

 映画なら死亡フラグだった。


 幸いなことに、丈二はすぐに復活できた。

 少し腰に違和感はあるが、問題なく立って歩ける。


「……帰ったら湿布貼っとこう」

 

 思わぬところで老化を感じてしまった。

 若いころなら、こんなことは無かったはずなのに。

 人生の階段を一歩登った。

 喜ばしいことなのかは分からない。


「とりあえず、ボールを取りに行こうか」

「ぐるぅ」


 丈二たちは森に向かって歩く。

 並んで歩くおはぎは、チラチラと丈二の様子を確認していた。

 先ほどの事もあって、心配してくれているのだろう。


「さて、ボールはどこに……何だこれ?」


 ボールを探して森の中に入った丈二。

 視線を下に落とすと、そこに花の群生地があった。

 小さな白い花。

 それがちょっとした水たまりくらいの広さに咲いている。


 おはぎダンジョンでは見かけたことのない花だ。

 だが、どこかで見覚えがある。

 なぜか強く印象に残っている。

 なんの花だったか。丈二が記憶を掘り進めると。


「そうだ! ポーションの材料になる薬草だ!」


 ポーションとは、生物を癒すことができる薬。

 ダンジョンから採取される特殊な植物を材料に作ることができる。

 この花もポーションの材料にできる植物の一種。

 以前、ダンジョン探索をするにあたって、お金になるからと覚えていた。


「この間、新しく広がって見回ったときには生えてなかったと思うが……」


 猫族やコボルトたちが引っ越してきてとき、おはぎダンジョンは大きく広がっている。

 その時に、新しく広がった場所を見回っておいた。

 当時は見つけられなかったが、実は生えていたのだろうか。

 なんにしても、薬草が見つかったことは幸運なことだ。


「猫族やコボルトたちがダンジョン探索するなら、ポーションは持たせて置きたいよな。自家製のポーションとか作れるか……?」


 猫族やコボルトたちによって編成された探索隊。

 彼らのダンジョン探索も近いうちに行うつもりだ。

 安全のためにもポーションを持たせておきたい。

 あわよくば経費削減のためにも自家製のものを持たせたい。

 もちろん、効果が安定するのならば。


「とりあえず、帰って皆と相談してみるか」


 薬草の利用法については、丈二よりも猫族やコボルトたちの方が詳しいかもしれない。

 帰って相談してみるほうが良いろう。


「しかし、おはぎとボール遊びをしていたおかげで大発見ができたな」


 おはぎは興味深々と言った様子で、薬草の白い花を見ていた。

 クンクンと匂いを嗅いでいる。

 いい匂いがするのだろうか。


「やったなおはぎ、お手柄だぞ!」

「ぐるぅ!」


 褒められたおはぎは、後ろ足で立ち上がる。

 そしてバンザイとするように両手を上げた。

 体で喜びを表現している。


「うぉ!? どこでそんなの覚えたんだ……」


 少なくとも丈二が教えたものではない。

 もしかして、牛巻あたりが教えたのだろうか。

 そう考えたところで、丈二は気づいた。


「もしかして、サブレの真似か?」


 サブレは両手を上げて喜ぶタイプだ。

 『やったにゃー!』と言いながら、両手を上げている姿はもはや見慣れた光景。

 おはぎはそれを真似しているのだろうか。


「ぐるぅ」


 『そうだよ』おはぎはうんうんと頷く。

 やはりサブレの真似だったらしい。

 知らずのうちに新しい芸を憶えているとは。

 丈二はおはぎの才能に戦慄した。おはぎ、恐ろしい子!


「今度、動画でもやってみような」

「ぐるぅ!」


 おはぎはバンザイをしながら、声をあげた。

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