第62話 おはぎ牧場

「皆さんこんにちは! 丈二です!」


 撮影用の球体カメラがふわふわと浮いていた。

 それに向かって丈二は挨拶をする。

 頭の上にはおはぎが乗っていた。だらりとリラックスした様子で、丈二と同じようにカメラを見ている。


 場所はおはぎダンジョンの中。

 今日は天気も良い。ぽかぽかとした日差しが、丈二たちを照らしている。


 カメラの上には、透明なフィルムのような画面が浮かび上がっている。

 そこにはカメラがとらえている画面と、コメントが流れていた。

 現在、配信中だ。

 

「今日は発展してきたおはぎダンジョンを、皆さんと一緒に見ていきたいと思います!」


『おお!』『楽しみ』『いつもより視聴者多くない?』『おはぎダンジョンの全体像を見れるのは、久々だからな』


「いつも、猫族やコボルトたちの作業を動画にはしていたんですけど、全体を見て回るのは初めてですね。ぜひ楽しんで頂けると嬉しいです。それでは行きましょう」

「ぐるぅ!」


 丈二が歩き出す。

 その歩みに合わせてカメラがぐるりと回った。


 見えてきたのは広い畑。

 そこからは緑の葉っぱがキレイに生えている。

 まだ収穫には早いが、近いうちに豊かに実ることが想像できる。

 そこでは、猫族やコボルトたちが作業をしている。


 さらに、その奥には集落が見えた。

 猫族やコボルトたちが行きかっている。


、なぜかダンジョンが大きくなったので、畑もずいぶんと立派になりました」


 本当のところは、なんとなくの理由は分かっている。

 おはぎダンジョンが大きくなった理由は、猫族やコボルトたちがやって来たおかげだ。


 以前、ぜんざいや寒天と繋がりが出来たとき。

 それによっておはぎの魔力が増えてダンジョンが生まれた。

 同じように、猫族やコボルトたちと繋がりが出来たことで、おはぎの魔力が増えた。

 それが原因でダンジョンも大きくなった。

 と言うのが、河津先生の推測だ。


 だが、おはぎがダンジョンの生成に関わっていることはトップシークレット。

 配信ではごまかしておいた。


「現状は猫族やコボルトたちが食べる分くらいしか生産していませんが、そのうち販売もしようと思います。ぶっちゃけ、食費のほうが厳しいので……」


『草』『大所帯だしなwww』『完全に農家やなwww』『家庭菜園から豪農への成り上がり!』『豪農無双!』


 丈二たちはあぜ道を進んで行く。

 すると、猫族やコボルトたちが集まっているのが見える。

 座って一点を見つめる彼ら。

 その目線の先には、みかんの箱の上に乗ったマンドラゴラが居た。


「ほわぁ! ほわほわぁ!」


 マンドラゴラは、なにやら力説しているようだ。


「畑の管理はマンドラゴラに任せています。ぶっちゃけ、俺よりも詳しいので……あれは畑の管理に関する講習ですね。たまにやってるんです」

 

『豪農なのはマンドラゴラたちなのでは?』『相変わらず畑は乗っ取られてるのかwww』『畑を征服したマンドラゴラだけど質問ある?』


「そうだ。あっちの方も見ておきましょうか」


 集落に向かって歩いていた丈二たちだが、道をそらした。

 進んだ先に見えてくるのはカウシカの群れ。

 近くには牛舎も見える。猫族たちが作ったものだ。

 コボルトたちが中を掃除している。


「人手が……猫手が? 増えたおかげで牛乳の生産も安定してきました。新しい命も生まれてますし。さすがに牛乳の販売はハードルが高いので、しないと思いますけど」

 

『猫の手も借りたい状態だったんやなwww』『むしろ、おはぎダンジョンではメインの労働者ですね!』『カウシカの牛乳飲みたい!』『個人での牛乳販売はハードル高いらしい。食中毒も怖いしね』


 丈二は牛舎の奥に進んで行く。

 そこには魔道具によって作られたシャワーが付けられている。

 本来はカウシカたちを洗うために設置したものなのだが。


「今日は、ぜんざいさんが利用してますね」


 泡まみれのぜんざい。

 その周りでは、猫族たちがわしゃわしゃとぜんざいの体を洗っている。

 短い手足を必死に伸ばして大変そうだ。

 ぜんざいはご満悦。

 満足そうに彼方を見つめている。


「ぜんざいさんはシャワーの利用頻度高いんですよね……飯と風呂が生きがいみたいなんで仕方がないんでしょうけど」


『うちのおじいちゃんと一緒だwww』『年取ると飯が一番の楽しみになるからな』『ぜんざいさんの一日の動画待ってます』


 丈二たちは牛舎を抜ける。

 そして集落の方へと向かった。

 集落では、猫族とコボルトたちがせわしなく動き回っている。


 まだ建築途中の建造物も多い。

 建築途中の猫族たち。そこに物資を運ぶコボルト。

 食堂の方からは、大きなトレイを持ったコボルト出てきた。大量の料理を運んでいる。

 まだまだ発展途中のお祭り騒ぎだ。


 集落のあちこちでは、青いスライムが動き回っているのが見える。

 寒天が体を分裂させて、あちこちを手伝っているのだ。

 おはぎダンジョンで一番の働き者は、間違いなく彼だろう。


「もっと腰を入れろ! 攻撃が甘いぞ!」


 そんな喧騒の中に、ひときわ大きな声が響いた。

 集落の端の方には、ちょっとした広場がある。

 そこには木製のカカシが置かれていた。

 そのカカシに向かって、猫族やコボルトたちが武器を振るっていた。


「こっちは訓練場ですね。まだまだ急ごしらえですけど」


 彼らの訓練をしているのがクーヘンだ。

 猫族やコボルトたちの中では、彼が一番腕が立つらしい。

 ちなみに、クーヘンを含めて。みんな少しずつ日本語が喋れるようになっている。


「そのうち、彼らと一緒にダンジョンに向かうつもりです。ただ、いつも俺が付いて行くのも大変なので、なにか方法を考えているんですけどね」


 訓練中の彼らは、ダンジョン探索に志願した者たちだ。

 よそのダンジョンに行って、それこそ普通の探索者のように活動する予定。

 できれば食料用の肉も持って帰ってきて貰いたい。


 ただし、モンスターは探索者登録はできない。

 そのため、現状では丈二が一緒に付いて行く必要があるが。


『テイマー極めてんなwww』『テイマーって言うか、もはや傭兵業みたいwww』『俺の探索に付いてきて欲しい……』


 そして丈二たちは集落の中心へ行く。

 そこは広場のようになっており、中心には透明な木が生えていた。

 ダンジョンの入り口だ。


 丈二は頭の上のおはぎを掴んで、胸元に持ってくる。

 おはぎは嬉しそうに、尻尾をパタパタと動かしていた。


「そんな感じで、おはぎダンジョンは順調に発展しています。今後ともぜひ、応援していただけると嬉しいです」

「ぐるぅ!」


 ちょいちょいっと手を動かすおはぎ。

 手を振ろうとしたが、上手くいかなかったらしい。

 丈二はおはぎの手を掴んで、軽く横に振った。


「それでは、また次の配信で!」

「ぐるぅ!」

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