第61話 毛玉の行進
ざわざわと、丈二の家の前は騒がしくなっていた。
ちょっとしたお祭り騒ぎだ。
理由は簡単。
猫族やコボルトたちが、大量に引っ越してきたから。
家の前には三台の軽トラックが並んでいる。
その荷台には101匹近い猫族とコボルトたちが乗っていた。
わんわん、にゃんにゃんと喋る彼ら。
さらに、その物珍しい様子を近所の人々が眺めていた。
「わんわんがいっぱい!」「ねー、沢山いるねぇ」「牧瀬さんの家、あんなにいっぱい養えるのかしら」「ずいぶん儲かってんだなぁ」
丈二は軽トラックの荷台から下りると、運転席に近づいた。
「西馬さん、急なお願いなのにありがとうございました」
「お礼ならマンドラゴラ印の野菜で良いぜ。カウシカたちが気に入ってるからよ」
軽トラックは西馬に出してもらった。
コボルトたちを治療した後。
猫族とコボルトたちを丈二家に招待することが決まったものの、その輸送手段に悩んだ。
歩いていくには少し距離がある。かといって公共の交通機関を使うと騒ぎになりそうだと。
そこで連絡を取ってみたのが西馬だ。
もしかしたら、カウシカの飼育関連で運送系の人に伝手があるかもしれない。
そう思って連絡をしてみると、なんと軽トラックを何台か所持していると言う。
事情を話すと、急なお願いにも関わらず軽トラックを出すことを快諾してくれた。
そして、連絡を取ったすぐ次の日。
こうして無事に猫族とコボルトたちを招待することができた。
「分かりました。今後は彼らの食事のためにも、生産量を増やすでしょうから。その時には差し上げます」
「おう、楽しみにしてるぜ」
丈二は西馬との話を終えると、荷台に近づいた。
そちらにはサブレやクーヘンたち。
「よし、じゃあ皆を誘導してくれるか?」
「はいにゃ!」
「わかった」
サブレやクーヘンの誘導の元。
猫族やコボルトたちはゾロゾロと荷台から降りていく。
そして、丈二家の庭にあるおはぎダンジョンへと向かっていった。
ふわふわ毛玉の大行進だ。
「うわぁ、話には聞いてましたけど、こうやって見ると圧巻ですね。映画みたいです」
玄関から牛巻が顔を出した。
毛玉の行進に目を丸くしている。
事前に電話をして、猫族やコボルトを受け入れることは伝えていた。
しかし、実際に見ると驚く光景だろう。
「なんというか、毛玉にダイブしたくなりますね」
「危ないから止めとけよ?」
だが確かに、そのふわふわとした中に飛び込んだら気持ちが良いだろう。
彼らは昨日まで野良だったため、臭いがきつそうだが。
「今度、彼らに料理を教えてやってくれよ。頭が良いから、教えたら自分たちでできると思うから」
「キッチンが足りなくないですか?」
現在の丈二家にある調理場は、一般的な広さのキッチンのみ。
大量の犬猫たちの料理をまかなえるようなしろものではない。
「ダンジョンにちょっとした村みたいなのを作る予定だから、そこに広めのを用意しとくよ」
猫族やコボルトたちは手先が器用だ。
猫族は木工。コボルトは石工に優れている。
彼らの腕があれば、ちょっとした住居くらいは何とかなるだろう。
「了解です」
丈二は毛玉の行進の流れに乗って、ダンジョンに入っていく。
すでに入っていた猫族やコボルトたちは、ふらふらとダンジョンを見回っていた。
畑では、犬猫が近付かないように、マンドラゴラがほわほわと威嚇している。
野菜が盗られるとでも思っているのだろうか。
カウシカたちは焦った様子もない。
子供たちに撫でられて気持ちよさそうにしている。
丈二はダンジョンを見渡す。
広い草原。そこに流れる川。少し歩けば森林地帯。遠くには高い山。
おはぎダンジョンは見た目こそ広大。
だが、実際の面積は意外と小さめ。
ちょっとした公園くらいの大きさだ
ある程度歩くと、見えない壁のようなものがあるらしい。
気づけば反対側に周っている。
RPGの世界地図みたいな状態だ。
猫族やコボルトたちの住処は必要だ。
だが、彼らの食料の足しにするために畑も広げたい。
カウシカたちが生活するための面積も確保しなくては。
広い土地が手に入ったと思っていたが、気がつけばカツカツだ。
本当に見た目ぐらい広かったら良かったのだが、無いものをねだっても仕方がない。
ふと、丈二が森の方を見る。
森に入ろうとしている猫族たちが見えた。
実は森の方は、ほとんど奥が無い。
すぐに反対側から出てきてしまう。
そのことを教えてあげようと、丈二は森に足を向けたのだが。
「あれ、あんなに奥の方は行けなかった……」
丈二は走って森に向かう。
そこには赤いコーンが置かれている。
それより奥には行けない。目印として置いておいたものだ。
しかし、猫族たちはそれよりも奥に行っている。
コーンには重りが付いている。風で動くようなものではない。
丈二の記憶的にも、それ以上奥には進めなかったはずだ。
「もしかして……広くなってる?」
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