第60話 落着?

「作戦大成功だな!」


 地上に降り立ったおはぎ。

 その背中から丈二は下りた。

 回復ブレスの補助をしていたのだ。


 地上には大量のコボルトたちが倒れている。

 先ほどまでの凶暴なムキムキ具合はどこへ行ったのか。

 可愛らしい寝顔をさらしている。

 ふわふわとした毛玉が大量に寝ている。

 見る人によっては、至福の光景だろう。


「やったにゃー! みんな戻ったにゃー!」


 茂みの中からサブレが飛び出してきた。

 その後ろには、他の猫族やコボルトたちが続いている。

 倒れたコボルトたちを運ぶために来てくれた。


 その中には子供コボルトも居る。

 子供コボルトは、倒れたコボルトの一匹に駆け寄った。

 そして、すりすりとその胸元に顔をうずめている。

 あれがお父さんなのだろう。

 ムキムキだった時とはずいぶんと雰囲気が違うが。

 元に戻ってみると、二匹はよく似ていた。


「とりあえず、これで一件落着かな」


 凶暴化したコボルトは、これで全員。

 一匹残らず治療済み。

 ナメクジに取りつかれたことによる後遺症も、問題無い可能性が高いだろう。

 あくまでも、寒天という前例を見る限りだが。


 あとは倒れたコボルトたちを連れて帰って、無事を確認して終わりだ。

 丈二はのんびりと、そんなことを考えていたのだが。


「ほら、アレです! アイツらです!!」

「あ、ちょっと待ちなさい!」


 声が響いた。

 廃ホテルの敷地。その入り口の方から。

 そちらから走り寄ってくる複数の人影。


「うわ、アイツらまた来たのかよ……」


 それは先日からウロウロしていた不良たち。

 その背後には警察官。

 警察官の静止を無視して、走り寄って来た。


「ほら、こいつらです! 早く駆除してください!」


 不良たちはコボルトを指さして騒いでいる。

 どうやら、コボルトに襲われたことを通報したようだ。

 通報さえしておけば、あとは警察などで対処してくれただろうに。

 わざわざ自分たちもやって来たあたり、コボルトが駆除されるところでも見たかったのだろうか。


 不良たちに続いて、二人の警察官たちが走って来た。

 丈二は気づく。

 見たことのある顔だ。


「あ、丈二さん!」


 彼らはおはぎを拾ったときに出会った警察官たちだった。

 婦警とおっさん警官。

 この辺のモンスターに関する通報に対処している人たちなのだろう。

 以前に通報した時、身分証なども見せているため丈二の名前も知っている。 


「わー、大きいおはぎちゃんだ!」

「うお、あの時のドラゴンか!?」


 婦警は大きくなったおはぎを見て、手を振った。

 おっさん警官は巨大なドラゴンに驚いている。


「この短い期間にここまでデカくなったのか!?」

「先輩違いますよ。不思議な魔法で巨大化するんです」


 どうやら、婦警は配信を見てくれているらしい。

 おはぎが巨大化している理由を説明していた。


「お久しぶりです。以前はお世話になりました」

「いえいえ。あれ、どうして丈二さんがここに居るんですか?」

「それがですね――」


 丈二と警官たちが、のんびりと話そうとし始める。

 しかし、それが気に食わないのが不良たち。

 苛立ちを爆発させる。


「いいから、コイツ等をぶっ殺せよ!!」

「……と言われてもねぇ」


 おっさん警官がコボルトたちを眺める。

 半数はのんびりと寝ている。

 もう半数は突然に現れた不良たちに困惑している。


「お前たちが話してたのと違わないか? もっとデカくて凶暴って言ってたろ?」


 現在のコボルトたちに凶暴性は欠片もない。

 大人しく成り行きを見守っている。


「それでもモンスターだろ! 駆除しろよ!」

「まぁ、確かに野生のモンスターは駆除しなきゃならないんだけどよ……」


 おっさん警官は丈二を見る。

 現場の様子から、丈二とコボルトたちが友好的な関係にある事を察したのだろう。 

 どうするのか、目で問いかけてきている。


 このままでは、コボルトたちは駆除されてしまうかもしれない。

 そんなことは見過ごせない。

 丈二はコボルトのリーダー。クーヘンとサブレに顔を向ける。

 二匹は日本語をしっかりと理解している。

 今までのやり取りで状況は把握しているだろう。


「君たちさえよければ、俺の家に来ないか? 今より窮屈な生活になっちゃうけど……」


 猫族もコボルトも。

 丈二は全員をおはぎダンジョンへ招待することにした。


 二匹は顔を見合わせるとうなずいた。


「猫族は皆付いて行くはずにゃ! 皆おやつ食べたいにゃ!」

「コボルト、付いて行く。丈二の役に立つ」


 二種族とも付いてきてくれそうだ。


「も、もんすたーが喋った……」

「夢じゃねぇよな?」


 サブレたちが喋った様子を見て、婦警とおっさん警官が目を丸くしていた。

 丈二に懐いているとは分かっていたのだろう。

 だが、まさか喋るとは思っていなかったらしい。


「いや、ふざけんじゃねぇよ! 俺らはそいつらに襲われたんだぞ!」


 しかし、この状況が気に入らないのが不良たち。

 不満を叫んでいた。


 コボルトが不良を襲ったことは問題になるだろうか。

 丈二はおっさん警官にたずねる。


「何か問題あるんですかね?」

「飼育されてるモンスターなら飼い主に責任が行くが、当時は野良だったんだろ? この場合は問題にはならねぇかなぁ」


 飼育されているモンスターが人に怪我をさせたら、飼い主に刑事責任が行く。

 だが、当時のコボルトは野良だった。

 丈二の責任とはならないらしい。


 それでも、不良たちは食い下がる。


「それでも襲われたんだぞ!?」

「そのことに関しては、君たちが子供のコボルトを襲ったからだよな?」

「モンスターを退治して何が悪い――」

「え、お前ら勝手にモンスターを討伐しようとしたのか? そりゃよくねぇよ。しかも、同族の子供を襲ったらモンスターだって怒るに決まってんだろ……」


 おっさん警官は呆れた様子だ。

 そして、ポンと不良たちの肩を叩いた。


「お前ら、署まで同行な」

「は!? 俺らを逮捕すんのか!?」

「逮捕じゃねーから安心しろ。指導だ。勝手にモンスターを討伐しようとするのは違反だけど、それは一般人を守るためなんだよ。お前らがアホなことしないように指導するの」


 おっさん警官は不良たちの首根っこを掴んだ。

 逃げ出そうとする不良たちだが、おっさん警官はびくともしない。

 もう一人は婦警が拘束。こちらも逃げ出そうとするが動けない。


「ふざけんな! どこに証拠があるんだよ!」

「たった今、自白したろうが……ちなみに、罰金もあるからな」

「はぁ!?」


 不良たちはズルズルと連れていかれた。

 あのままパトカーか何かに乗せるのだろう。


「いい気味にゃ!」

「きゃん!」


 サブレと子供コボルト。

 不良たちにいじめられた二匹は、その様子を見て笑っていた。

 二匹のうっぷんが少しでも晴れたのなら良かった。

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