第58話 撒き餌
おやつによる誘い出し作戦を考えた丈二たち。
さっそく丈二は近場のドラッグストアで、おやつを大量に買い込んだ。
近場に住んでいる犬の諸君には申し訳ないが、仕方がない。
その間にコボルトや猫族たちは、おやつを塗りつけておくための肉を準備した。
それらを合わせて撒き餌を準備。
コボルトたちに、おやつの味と匂いを覚えこませるための物だ。
それを廃墟にばら撒いた時には、すでに日が傾いていた。
「丈二、今日は泊っていくか?」
ダンジョンに帰ると、クーヘンが声をかけてきた。
明日は早い時間から罠を仕掛けに行きたい。
コボルトたちの住処で泊っていくのもいいだろう。
「そうさせてもらおうかな」
「分かった。祭りをしよう」
「……え?」
〇
そうして、コボルトたちの一斉治療を控えた前夜。
その成功を祈願して、小さな祭りが開かれた。
パチパチと燃える炎。
大きなキャンプファイヤーだ。
その周りを猫族とコボルトたちが、踊りながらグルグルと周っている。
どことなく盆踊り風の動き。
猫族が演奏する太鼓のリズムに合わせて、わんわん、にゃんにゃんと歌っている。
おはぎも踊っている輪の中に入って歩いていた。
リズムに合わせて、ぐるぅぐるぅと鳴いている。
あれは楽しいものなのだろうか。
「いやー、猫族とコボルトが一緒に祭りを開く日が来るとは思いませんでしたにゃー!」
サブレがテンション高く話しかけてきた。
片手には例のおやつ。
まるで酒瓶を片手に持った酔っ払いみたいだ。
「どうしてだ? 前は仲は悪くなかったんだろ?」
どこかで聞いた話だ。
猫族とコボルトの間に大きな溝ができたのは、コボルトの凶暴化が起こってからのはず。
それ以前は、そこまで仲が悪いような話ではなかった気がする。
「前は不干渉って感じでしたにゃ」
前までは、お互いに関わらないようにしていたらしい。
なにか大切な時だけ話し合いをしていた。
仲が良いわけではなかったようだ。
「今後は仲良くしていけると、良いんですけどにゃー」
今後、二つの種族がどのように関係を発展させていくかは分からない。
だが少しずつ良くなっていきそうな気がする。
むしろ、問題は外からやってくるのではないかと、丈二は思った。
「……あの不良たちが怖いよなぁ」
不良たちにコボルトの存在を認識されてしまった。
彼らが何かをしなくとも、外にコボルトたちの情報が洩れれば変化が起きる。
コボルトは明らかにモンスター。
モンスターが出現するとなれば、元となるダンジョンが捜索される。
見つかるのも時間の問題だろう。
そうなると、猫族もコボルトも何らかの変化が求められる。
それが良い方向に動けばいい。
だが、場合によっては彼らが辛い目にあうかもしれない。
特に猫族もコボルトも頭の良いモンスターだ。
人間との意思疎通も問題ない。
人で不足が叫ばれる昨今。
人権を無視できる労働者は、喉から手が出るほど求められるだろう。
寿司屋の地下で働かされるカッパの都市伝説みたいに。
このままダンジョンの中で生活していると、乱獲される恐れがある。
「家で全員を保護するのは……」
手懐けたモンスターは、手懐けた人の所有物になる。
丈二が手懐けて管理していることにすれば、彼らが害されることはない。
だが、数が問題だ。
猫族とコボルト、凶暴化しているものも含めて。
全員を合わせるとその数は80匹を超えている。
手懐けたと言い張るのであれば、丈二のもとで管理しなければならない。
住む場所は、おはぎダンジョンになんとか入りきるだろうか。
「まぁ、治療が終わったら相談してみるか」
丈二が勝手に、彼らの今後を案じても仕方がない。
もしもの時に手を貸せばいい。
「ぐがーにゃー」
気がつけば、サブレが丈二の膝を枕にして眠っていた。
ピンと背筋を伸ばした寝相は、とても猫とは思えない。
片手にはギュッと、おやつの空袋が握られていた。
無防備なふわふわとしたお腹を撫でたくなるが、勝手に触るのは失礼だろう。
丈二はグッと我慢した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます