第57話 そんなおやつに釣られいぬー

 丈二はクーヘンと情報共有をした。


「なるほど、凶暴化したコボルトたちは廃墟の周辺に隠れてるんだな」


 凶暴化したコボルトたちは、廃ホテル周辺に隠れているらしい。

 その数は全部で23匹。

 彼らは、ひとまとめに行動してはいないらしい。

 散り散りになって隠れている。

 廃ホテルの大きさを考えると、あの中から23匹のコボルトを探すのは難しそうだ。


「しかし、群れの半数以上が凶暴化しちゃったんだな……」


 群れに残っているコボルトの数が21匹。

 実に半数以上が凶暴化して群れを出て行ってしまったらしい。

 しかも、群れに残っているものは子供も多い。

 子供の世話や、狩りの事を考えると、群れの存続自体が難しくなっている。


 なるべく早くどうにかしたいのだが、どうしたものか。

 廃墟に散っている、凶暴化したコボルトたちをまとめて治療したい。

 そのためには、なんとかして一か所におびき寄せたい。

 だが、どうやって集めるか。

 丈二たちは頭を悩ませるが、良い案は浮かばない。


「ぐるぅ……」


 『お腹空いた……』丈二の膝の上。そこにいたおはぎが顔を上げた。

 思えばもうお昼どき。

 悩んでいて気がつかなかったが、丈二もお腹が空っぽになっている。


 その様子を見ていたクーヘンが口を開いた。


「飯を出す」


 どうやら、ご馳走していただけるらしい。

 クーヘンは部屋の入り口に居たコボルトに目配せをした。

 コボルトが部屋を出て行く。

 少し待つと、コボルトたちが料理を運んできてくれた。


 焼いた肉に、生の果実。

 なんの肉と、なんの果実かは分からない。

 たぶんダンジョン産のもの。


 皿型土器の上に、それらが並べられていた。

 味付けは……期待しない方が良いだろう。


「いただきます」


 とりあえず食べてみることにした。

 まずは肉のほう。


 幸いなことに、多少の味付けはされていた。

 塩味と、ほんの少しの辛味。

 塩コショウだけで味付けした肉みたいな味だ。

 不味くはない。

 すごく美味しいともならないが。


 そして食感が不思議だ。

 鶏肉と魚を足して割った感じ。

 そこそこ弾力があって、淡白な味だ。


 果実の方にも手を出してみる。

 すっぱい。

 だが、ほんの少し甘さを感じる。

 品種改良されていない原始的なイチゴみたいな味だ。


 どちらも不味くはない。

 だが、牛巻の美味しい料理に慣れてしまった丈二には食べづらい味だ。

 一口食べるごとに飽きてくる。


 ぜんざいを見てみると、相変わらずガツガツと食べている。

 相変わらず食欲旺盛だ。

 寒天もいつも通り。体の中にふよふよと食べ物を浮かべている。


 おはぎは……少し食べづらそうにしている。

 丈二と同じように、味に慣れないのだろうか。

 

 丈二はふと考える。

 おはぎはまだ小さい。

 もしかすると、野生の経験が少ないのかもしれない。

 こういった野性的な食事よりも、人間の食事の方が慣れているのかも。


「そうだ。これでもつけてみるか?」


 丈二は自分のリュックをあさる。

 中から取り出したのは、犬用のおやつ。

 サブレが気に入っていた猫用のペースト状のおやつの、犬向けのものだ。

 猫用のものは、すでに猫族にあげてきた。

 だが、コボルトたちにあげたら喜ばれるかもと考え、犬用の物も持ってきていた。


 丈二はそのおやつを、おはぎの肉に塗った。

 これで、もうちょっと美味しく食べられるかもしれない。


「ぐるぅ!」


 おはぎは嬉しそうにガツガツと食べ始める。


 ふと、丈二は隣から視線を感じた。

 子供コボルトが、不思議そうにおはぎの皿を見ている。

 おやつが気になるのだろうか。


「君も食べてみるか?」


 おやつの袋を差し出す。

 子供コボルトは、こくりとうなずいた。

 おはぎと同じように、肉の上におやつを塗る。


「きゃん!」


 その肉を食べると、子供コボルトは嬉しそうに鳴いた。

 気に入ってくれたらしい。

 尻尾がブンブンと振り回されている。

 落ち込んでいたので、少しでも元気を出してくれて良かった。


「俺も欲しい」


 その様子を見ていてクーヘンが言ってきた。

 淡々とした物言いだったが、おやつが気になるらしい。

 クンクンと鼻を鳴らして、そわそわと尻尾が揺れている。


「どうぞ、まだまだ、たくさんありますから」


 丈二はクーヘンの肉にも、同じように塗り付けた。

 ぱくり。

 クーヘンが肉を口に含む。

 カッ!! とその目が見開いた。


「これだ!!」


 どれだ?

 クーヘンが叫んだが、意味が分からない。

 いきなりどうしたのだろうか。


「丈二、これでコボルトを集める」

「……これで?」


 このおやつで、凶暴化したコボルトたちをおびき出すということだろうか。

 そんな方法で上手くいくものだろうか。


「サブレ、通訳を頼む」

「了解にゃ!」


 日本に不慣れなクーヘン。

 その話をサブレが翻訳してくれるらしい。

 しばらくクーヘンとサブレで話した後。

 サブレが話をまとめてくれた。


「このおやつを食べれば、一口で病みつきになるにゃ。もうクーヘンはこのおやつ抜きでは生きていけない気がするらしいにゃ。僕も良く分かる感覚にゃ!」


 そんなに気に入ったのか。

 やっぱりヤバいものが入っているのでは?

 丈二は少し不安になる。


「まずは廃墟中に、このおやつをばらまくにゃ。そして凶暴化したコボルトたちに、このおやつの味と匂いを覚えさせるにゃ」


 ペースト状のおやつだけだと、食べ物だと認識されないかもしれない。

 今回のように肉に塗ったものを用意すると、食いつきやすいだろうか。


「後は、集めたい場所に多めのおやつを準備しておくにゃ。そうすれば匂いに釣られたコボルトたちが集まるはず。と言うことにゃ!」

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