第56話 コボルトの村

「よし、これで大丈夫だな」


 筋肉コボルトが逃げて行ったあと、丈二は子供コボルトのケガを治療した。

 不良たちに痛めつけれられたときにできたものだ。

 治療は問題なく終わったのだが。


「くぅん」


 コボルトは悲しそうにしている。

 先ほどからずっとこの調子だ。

 どうして落ち込んでいるのか、サブレに話を聞いてもらっていた。


「さっき逃げたコボルトは、この子のお父さんみたいですにゃ」


 丈二は猫族の長老が言っていたことを思い出す。

 狂ったコボルトは群れを離れているらしい。

 この子の親も、自分が凶暴化していることを自覚して群れから出て行ったのだろう。

 先ほど逃げて行ったのも、この子を傷つけないため。

 苦しそうにしていたのは、自分の凶暴性を押さえつけようとしていたのではないだろうか。


「この子はお父さんを探して飛び出してきたみたいですにゃ」


 なんとも辛い話だ。

 父を追ってきた子供と、その子を傷つけないために逃げる父親。

 本当は二人とも平穏に暮らしていたのだろうに。

 丈二はコボルトの頭を撫でる。

 

 カシャカシャと音が聞こえてきた。

 爪で引っかくような足音だ。

 それがたくさん。

 階段から複数のコボルトが飛び出してきた。

 その中には、ダンジョンで出会ったコボルトの姿も見える。

 子供コボルトを追ってきた群れだろう。


「――――!」


 コボルトたち子供に駆け寄る。

 そして、なにやら話している。

 なにがあったか確認しているのだろう。

 子供と話し終わると、大きなコボルトが丈二の方を向いた。

 ダンジョンでも喋った個体だ。


「にんげん、この子、助けた。ありがとう」

「気にしないでくれ。俺が勝手にやったことだ」


 コボルトはジッと丈二を見つめる。

 そして、なにかに納得したようにうなずいた。


「にんげん、お礼したい。村、付いてくる」


 どうやら、コボルトたちの村に招待されているらしい。

 それはありがたい話だ。

 凶暴化したコボルトたちをどうにかするためにも、彼らとは詳しく話がしたい。

 丈二はうなずいた。


「分かった。喜んで付いて行く」



 〇



 コボルトたちに連れられて、丈二たちは再びダンジョンに戻った。

 ダンジョン内をずんずんと進んで行き、たどり着いたのは山。

 ジャングルの中に現れた、盛り上がった大地。

 そこに、ぽっかりと穴が開いていた。


「コボルトは洞窟に住んでるのか」

「彼らは穴掘りが得意なんですにゃ。天然の洞窟を広げてるらしいにゃ」


 コボルトに導かれるまま、丈二たちは穴の奥に入っていく。

 中は意外と広い。

 洞窟の壁には、光る石のようなものが飾られている。

 照明替わりなのだろう。

 それのおかげで、洞窟内は十分に明るい。


 しばらく進むと、広い空洞に出た。

 ところどころに枯草が敷かれている。

 座布団のような感じだ。

 コボルトは一番奥に進むと、そこに敷かれていた枯草にドカリと座った。


「座れ」


 そう言って、コボルトは手を広げる。

 丈二たちにも座るように、うながしているのだろう。

 丈二も枯草の上であぐらをかく。

 少しチクチクするが、意外と柔らかい。


「ぐるぅ」


 丈二の足の上に、おはぎが乗って来た。

 ここが良いらしい。

 ぜんざいや寒天も、思い思いにくつろいでいる。


 丈二の隣には子供コボルトが座った。

 放っておくと、また父親を捜しに行くかもしれない。

 そのため目立つところに置いておきたいらしい。


「俺、今のリーダー」


 先ほどから丈二たちと喋っているコボルトが口を開いた。

 彼が現在のコボルトたちのリーダーらしい。

 黒と茶色の毛。シェパードのような凛々しい顔つきのコボルトだ。


「名前、クーヘン」


 クーヘンはスッと頭を下げる。


「人間、コボルト、助けて欲しい。猫族、話、信じる」


 猫族の話。

 どういう意味かと、サブレを見る。


「丈二さんが捕まって喋ったときに、丈二さんがコボルトたちを助けてくれる話をしましたにゃ」


 サブレの言葉を聞いて、クーヘンもうんうんとうなずいた。

 どうやら、あの時点でなんとなくの話はしていたらしい。


「とりあえず、今回の件は俺たちで何とかできそうな感じではある。やっぱり、コボルトたちが凶暴化した理由はナメクジにあると思う」


 筋肉もりもりの凶暴化したコボルト。

 彼に回復魔法を使ったときの反応を見るに、やはりナメクジが原因なのだろう。

 それであれば、おはぎの力で何とかできる。


「できれば、凶暴化したコボルトたちを一か所に集めて一気に治療したい。なにかいい方法はないかな」


 治療を始めた時に、コボルトたちがどんな行動をとるか分からない。


 彼らには薄っすらと理性が残っているような気がする。

 群れの仲間や、子供コボルトを傷つけないために逃げた様子を見る限り。

 もしかすると、他のコボルトが治療されたのを見て丈二たちに近づいてくる可能性もある。


 だが逆に、治療されているのを認識したナメクジが、コボルトたちの行動を操るかもしれない。

 宿主の行動を操る寄生虫なんてありがちな話だ。

 そうなると、逆に遠くへと逃げ出してしまう可能性もある。


 無駄な危険性を排除するため。

 できれば一気に治療したい。


「集める、方法……」


 クーヘンが頭をひねる。

 思いつくには少し時間がかかるかもしれない。

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