第53話 コボルトたち
「僕をいじめてきた人たちですにゃ」
いじめてきた人たち。
サブレは不良たちにいじめられていたところを、子供たちに助けられていたはずだ。
野球ボールを投げつけられていたらしい。
丈二のもとに連れてこられた時には、体中にあざが出来ていた。
それをやったのが、先ほどの不良たち。
そう言えば、サブレはいじめられている時にスマホを向けられていたと言っていた。
先ほどの彼らもスマホを構えていた。撮影していたのだろう。
やはりサブレをいじめたのも動画のため。
しかし、サブレには逃げられてしまった。
他の動画のネタとして、この廃墟に出現するモンスターらしきものに目を付けたのかもしれない。
「そうか……この廃墟に出るモンスターっていうのには心当たりはあるか?」
サブレに、先ほどの不良たちが言っていたことを聞く。
この廃墟にモンスターが出る。
サブレなら何か分かるかもしれない。
「コボルトかもしれないにゃ。猫族はあんまりダンジョンの外に出ないようにしているはずにゃ」
サブレもコボルトたちだと思うらしい。
やはり早めに事態を解決する必要がありそうだ。
先ほどの彼らにコボルトが見つかったら、ろくなことにならないだろう。
動画のために猫をいじめるような奴らだ。
コボルトを見つけたら、なにをしでかすか分からない。
だが、コボルトたちが具体的にドコに居るのか分からない。
廃墟に隠れているのか。
あるいは普段は森の中に隠れて、ときどき廃墟の方まで来ているのか。
「とりあえず、ダンジョンに向かおうか。猫族たちに話を聞こう。サブレが出てきた時とは状況が変わってるかもしれない」
「分かりましたにゃ」
今は情報が欲しい。
あてになるのは猫族くらいだろう。
丈二たちはダンジョンに向かうことにした。
丈二たちは廃墟の横を通り過ぎて、森の中へと入っていく。
サブレが先導して獣道に入っていく。
かろうじて道になっているような場所だ。
ずんずんと進んで行くと、サブレは一本の木の前で止まった。
ダンジョンの木とは違う。
透明な結晶で作られたようなものじゃない。
なんてこと無い普通の木に見える。
「ここですにゃ」
サブレが木に触れると、ふっと消えてしまった。
どうやら本当にダンジョンの入り口らしい。
たしか、サブレは魔法をかけて入り口を隠していると言っていた。
普通の木に似せてカモフラージュしているのだろう。見事に景色に紛れている。
丈二も木に触れる。一瞬で視界に変化が起こる。
出た場所は木で作られた小さな部屋だった。
「他のモンスターが外に出ないようにしてるんですにゃ」
猫族が作った部屋なのだろう。
モンスターが外に出て、それが見つかったら騒ぎになる。
そうなるとモンスターが出てきたダンジョンが捜索されてしまう。
そう言った事態を防ぐために、入り口の周りを囲って対策をしたのだろう。
サブレがドアを開けて外に出る。
丈二もそれを追いかけて、外を覗いた。
そこは密林だった。
太く高い木が天に伸びている。
空は枝葉でおおわれていた。
かろうじて隙間から入ってくる光が、うっすらと視界を照らしている。
「ジャングルって感じだなぁ。迷わないように気を付けないと」
丈二に続いて、おはぎ、ぜんざい、寒天たちも入ってくる。
サブレは全員が入って来たことを確認すると声をあげた。
「猫族の村はこっちですにゃ」
丈二たちはサブレに続く。
足元が悪くて歩きづらい。
根っこが生えてボコボコして、湿気が多いのか少しぬかるんでいる。
サブレやぜんざいはひょいひょいと歩いている。
野性経験が長い二匹にはなんてことないのだろう。
おはぎはパタパタと翼を動かして飛んでいた。
何とも羨ましい。
「歩くだけでも大変だな……ん?」
なにか足元に引っかかった気がした。
ツルか何かが伸びていたのだろうか。
そう思った瞬間。
「どぅわぁ!?」
ギュッと足元が縛られる。
グイッと足元から持ち上げられて、宙づりになってしまう。
1メートルほど下に地面が見える。
冒険映画なんかで、原住民が仕掛けているような罠だ。
まさか、自分がかかる日が来るとは丈二も思っていなかった。
「ぐるぅ?」
『だいじょうぶ?』パタパタとおはぎが近付いてくる。
逆さになったおはぎの顔が目の前に。
いや、逆さになっているのは丈二だ。
頭に血が上る。
「アオォォン!!」
遠吠えが聞こえた。
とっさにぜんざいを見たが違う。
ザザっと草をかき分けて、木々の隙間から影が飛び出した。
出てきたのは二足歩行をする犬のようなモンスター。
アレがコボルトなのだろう。
それが5匹ほど。手に持った石槍を丈二たちに突き付けている。
ナメクジによって凶暴化している感じはしない。
あくまでも理性的に見える。
まだ凶暴化していないコボルトなのだろうか。
しかし、歓迎はされていないらしい。
「――――!」
サブレが何やら叫んでいた。
鳴き声とは違う。
外国語みたいな感じだ。
なにかしら意味のある言語のように聞こえるが、具体的に何を言っているのかは分からない。
サブレが必死に話している。
だが、コボルトたちの態度は変わらない。
警戒した目で丈二たちを睨みつけている。
しかし、コボルトたちの中でも大きな個体がサブレの前に進み出た。
「――」
「――――」
なにか話している。
しばらく二人が言い合ったあと、大きなコボルトは丈二に近づいてきた。
「にんげん、コボルト、救う?」
カタコトだが、こちらの言葉が分かるらしい。
「そのつもりだ。だから下ろして貰えないか?」
そろそろ限界だ。
丈二はずっと逆さ吊りにされている。
気持ち悪くなってきた。
コボルトは石槍を構えると、ビュッと投げた。
足を縛り付けていたヒモが切られる。
しかし、いきなり落とされるとは思っていなかった。
突然の浮遊感。
頭から落っこちそうになる。
「いや、これ死――!!」
ボヨン!!
寒天が受け止めてくれた。
「あ、ありがとう」
危うく死にかけるところだった。
下ろすときにはひと声かけて欲しかった。
「にんげん、信じられない。問題起きたら、猫族のせい」
「それで良いにゃ」
残念ながら、コボルトたちには信用してもらえなかったらしい。
しかしこの場は見逃して貰えるようだ。
コボルトたちは離れていく。
「……彼らは?」
「まだ話が通じてるコボルトたちですにゃ。彼らみたいなのは、あんまり多く無いにゃ」
まだ凶暴化していないコボルトたちらしい。しかし、その数はあまり多くない。
できるならば、彼らからも話を聞きたい。
しかし今すぐは無理だろう。
なにかしら信頼してもらえるきっかけを作らなければならない。
「今は猫族の村に行こうか」
丈二たちは再び歩き始めた。
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