第50話 ちゃお

 ダンジョンに行くことを決めた丈二たち。

 だが、いきなり向かうわけにもいかない。

 サブレは先ほどまで怪我をしていたため、体力を回復する時間も必要だ。

 出発は明日の朝にするべきだろう。


 そう決めた丈二たちは、今日のところはいつも通りに過ごすことにした。

 おはぎたちの動画を撮影した後。

 午後3時ごろには、おやつを食べる時間にしている。


 おはぎたちもそれを分かっている。

 その時間帯になると、居間でおやつを待っていた。


「いやー、楽しみですにゃー」


 サブレも同じように待っている。

 おはぎにおやつがもらえると、教えてもらったらしい。

 その様子を見ていた丈二はふと思い出す。


「そういえば、アレが余ってたな」


 丈二は台所の戸棚を開ける。

 そこには透明な収納ボックス。

 おはぎたちのおやつがぎっしりと詰まっていた。


 丈二は底のほうをかき回して、目当てのおやつを探し当てる。

 それは有名な猫用のおやつ。

 やたらと猫が食いつく、ペースト状のおやつだ。

 

 おはぎが来たばかりのころに買っていたのだが、おはぎの好みからはズレていた。

 そのため食べられることもなく底に沈んでいたのだ。


 だが、サブレなら気に入ってくれるかもしれない。

 見た目的には、二足歩行の猫。

 味覚も一緒かもしれない。


 丈二はおはぎたちにおやつを配る。

 ちなみに、おはぎは肉っぽい味の物ならだいたい気に入ってくれる。

 ぜんざいはジャーキー系。

 寒天は炭酸ジュースが好きだ。頭からぶっかけると、しゅわしゅわと音を立てながら体に取り込んでいく。

 サブレにも、封を切ったおやつを渡した。


「サブレはこれを食べてみてくれ、猫が好きなおやつなんだよ」

「にゃるほど」


 サブレは両手で袋を持つ。

 にゅるっとペースト状のおやつがはみ出た。

 ぺろりとそれを舐めると、ハッと目を見開いた。

 

 まるで全てを理解したような顔だ。

 背景に宇宙と数式が流れているのが見えてくる。

 ずいぶんと感激しているらしい。

 砂漠で干からびそうになっている時に水を見つけても、ここまでの感動はできないだろう。


「……ここが、理想郷アルカディア


 どこでそんな単語を覚えてきたのか。丈二は思わず突っ込みたくなる。

 ともかく気に入ってくれたらしい。

 大切そうに、ぺろり、ぺろりと舐めていく。


 そして食べ終わった後には、手を合わせて何かに祈っていた。


「世界樹様、この出会いに感謝しますにゃ」


 その後に、丈二に深々と頭を下げた。


「丈二さん、とても美味しかったにゃ。ありがとうございますにゃ。そして、お願いがありますにゃ。この感動を仲間たちにも分けてあげたいのにゃ」

「ああ、うん、余ってるから持っていくよ」


 彼らにとっては、そこまで美味しいものなのか。

 丈二はおやつの袋を見つめる。


「……そんなに美味しいの?」

「生きている意味を感じたにゃ」


 一昔前に噂があった。

 このおやつには、なにかヤバい物が入っているのではないか。

 そこまでいかなくても、マタタビが入ってる、塩分過多、健康に悪い。そんな噂が流れていた。

 だが実際にはおかしな物は入っていないし、特別健康に悪い物ではないらしい。

 もちろん、あげすぎは問題だが。

 しかし、ここまで食いついているのを見ると、なにか特別な秘密があるのではないかと勘繰ってしまう気持ちも分かる。


「まぁ、喜んでもらえるなら良いか。追加で買っておこう」


 サブレの話によると、ダンジョンにはそこそこの数の猫族が居るらしい。

 ちょっとした村が出来ているとか。

 せっかく彼らを訪問するなら、手土産として持って行ってあげよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る