第45話 肥料の温もり

 丈二は牛が居る生活にも慣れてきた。

 おはぎダンジョンにやって来たカウシカは、全部で5匹。

 新しい環境にも慣れてきたようで、のんびりと暮らしている。


 無事に牛糞も採れるようになった。

 肥料を作る材料のもみ殻は通販で買った。

 これらを混ぜて肥料にするための、コンポスターも合わせて購入。

 コンポスターは四角いゴミ箱のようなもの。

 生ごみとその他必要なものを突っ込んで、混ぜると肥料ができるやつだ。


 なんとなくの作り方も調べた。

 これで準備はバッチリ。

 さぁ、作るぞ!

 と丈二は思ったのだが、気がつけばマンドラゴラたちが作業を終わらせていた。

 知らないうちに寒天と協力してやったらしい。

 なんとなく、のけ者にされた気分を丈二は味わった。


 マンドラゴラたちが、どこから肥料の作り方を知ったのかは分からない。

 野性の勘だろうか。

 そういえば、作り方の動画を見ていた時。

 寒天も一緒に見ていた。

 彼が作り方を理解していたのか。

 どっちも、という可能性もある。


「スゴイ、本当に暖かいな!」


 コンポスターを触ると生暖かい。

 中で発酵が起こり、熱を発するらしい。

 この発酵がしっかりと完了すれば、肥料として使えるようになるとか。

 肥料になるには時間がかかる。1か月くらいはかかるのだろう。

 あとは気長に待つしかない。

 微生物たちの働きに期待しよう。


「ほわぁ!」


 コンポスターをいじっている丈二。

 そこにマンドラゴラたちが走って来た。


 『僕のだぞ!』マンドラゴラにペシリと手を叩かれた。

 勝手に持ってかれると思ったのだろう。

 マンドラゴラたちからすると、肥料は寝かせているワインみたいなものだ。

 珠玉の逸品を盗られてはたまらないのだろう。


「いや、盗ろうとしたわけじゃないからな?」


 当たり前だが、丈二は肥料を盗もうとしていたわけではない。

 盗んだところでどうしようもない。

 だが、食べ物の恨みは恐ろしい。

 あまり刺激するのはよくない。

 ここはおとなしくコンポスターから離れておこう。


「ほわぁ!」


 ヒシっとコンポスターに抱きつくマンドラゴラ。

 気が強くてリーダー気質の子だ。

 丈二は『隊長』と呼んでいる。


「ほわ……」


 そんな隊長と丈二を見比べて、おろおろしているマンドラゴラ。

 彼のことは『こわがり』と呼んでいる。

 こわがりは、丈二が怒ると思っているようだ。


「そんなに怖がるなよ。別に気にしてないから」

「ほわぁ……」


 丈二が頭のあたりをなでると、安心したらしい。

 こわがりは気の抜けた声をあげた。


 そんな丈二の腕に寄りかかってくるマンドラゴラが居た。


「ほわぁー」


 大きなあくびをしている。

 いつも眠たそうにしているマンドラゴラだ。

 彼のことは『ねぼすけ』と呼んでいる。


「おっと、俺の腕で寝ないでくれよ。この後、用事があるから」


 ねぼすけをこわがりに預ける。

 こわがりは引きずるように畑へと戻っていった。

 ねぼすけは歩くのさえ面倒くさいらしい。


 少しずつだが、マンドラゴラたちとも仲良くなっている。

 彼らはおはぎと遊びまわっていることもある。

 なかなか良い関係を築けているはずだ。


 丈二はふらふらと散歩をしながら、おはぎダンジョンを見渡す。

 畑やコンポスターなどは増えたが、まだまだ殺風景。

 カウシカたちの施設くらいは作ってあげたい。


「流石に雨ざらしは可哀そうだしな……」


 牛舎は作りたい。

 それと牛糞を置いておくトイレのようなものも欲しいかもしれない。

 現在はちょっとした穴を掘って、そこでしてもらっているだけだ。


(自分で作るのは……難しいか)


 動画のネタとして、DIYをしてみるのも考えた

 寒天たちの力を借りれば、作るまでは行けるだろう。

 しかし、クオリティーが問題だ。

 見栄えはともかく、倒壊の危険性がある。

 カウシカたちがケガをしたら大変だ。


 プロに頼むとして、どんなレイアウトで作ってもらうか。

 丈二がダンジョンを見ながら、考えていると。


「ぶもぉぉぉ!!」

「がう!」


 視界にぜんざいと、子牛が入って来た。

 子牛はぜんざいに突撃して、それをぜんざいがあしらう。

 彼らは暇があると、ああして戦っている。

 戦闘訓練みたいなものだ。

 群れの立派なボスになるため、ぜんざいに鍛えてもらっているらしい。


(そのうち、お父さんみたいになるのだろうか……今の状態からだと想像もできないけど)


 子牛は、少しずつ角が伸びてきている。

 だが、まだまだ子供だ。

 あんな、ムキムキモンスターになった姿が想像できない。


 そういえば、子牛にはまだ名前をつけていない。

 丈二はずっと子牛と呼んでいる。

 名前を付けてあげたほうが良いだろうか。


「牛、牛乳、バター、ヨーグルト、黒っぽいし『カフェオレ』とか……」


 などと丈二が考えていると。

 誰かがダンジョンに入ってくる。

 牛巻だ。

 牛巻は、入り口から手を振っている。


「せんぱーい! お客さんですよー!」

「もうそんな時間か……分かった! 今行く!」


 待っていたお客さんが来た。

 カウシカたちが来てから楽しみにしていた日だ。


「動画用の機材も準備しておかないとな」

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