第44話 至高の野菜

 後日。

 どっさりと実った作物を収穫した丈二たち。

 彼らは西馬のダンジョンにやってきた。

 すぐ近くにはカウシカの群れ。

 例のデカくて強いボスが率いる群れだ。


「お疲れ様、ゴールドラッシュ」


 西馬がゴールドラッシュをなでる。

 ゴールドラッシュは荷馬車を引いている。

 そこには大量の作物。

 マンドラゴラたちが育てた作物だ。


 収穫のあと、丈二も味見してみた。

 とても美味しかった。


 この出来栄えなら、ボスを説得できるかもしれない。

 食べ物を上げる代わりに、牛乳や角を収穫させてくれと。

 だが、まずはボスに食べてみてもらわなければ、話にならない。


「ブモォォ!!」


 群れの中から、ボスが顔を出す。

 警戒している。

 突然やって来た丈二たちを不審に思っているようだ。


「ぐるぅ!」


 そこに、おはぎが近付いた。

 ぐるぐると話しかけている。

 たぶん、『野菜を食べて!』みたいな話をしているはず。


 だが、ボスの説得はあまり上手くはいってなさそうだ。

 ギロリとおはぎを睨んでいる。


「ブモォォォ!!」


 怒ったようなボスの鳴き声。

 交渉は失敗か!

 丈二はそう思ったが。


 作物の山から影が飛び出す。

 それはボスの前におどり出る。


「ほわぁ!!」


 短い腕を腰に当てて、仁王立ちをするように立っているのはマンドラゴラだ。

 それを追いかけるように、二匹のマンドラゴラが続く。

 今回は彼らも付いてきていた。

 自分たちが苦労して育てた作物。

 それがどうなるのか見送りたかったらしい。


「ほわぁ! ほわほわぁ!?」

「ほ、ほわぁ!」

「ほわほわぁー」


 三匹のマンドラゴラが何か言っている。

 どうやら、文句を言っているようだ。

 苦労して作った作物を、一口も食べようとしないのが気に入らないらしい。


 一晩中踊って作り上げた作物。

 それをいらないと言われたら、文句も言いたくなるだろう。


「ブモォ――」

「ほわぁぁぁぁぁ!!」

「ぶ、ぶもぉ」


 ボスは押され気味だ。

 なぜなら、マンドラゴラはアホほど声がデカい。

 それが三匹も集まると凄まじい。


 小さい体のドコから、あそこまでの声量が出るのか。

 とても不思議だ。


 ボスが反論しようとしても、大声でかき消される。

 そして至近距離で声を出されると、すごくうるさい。

 ボスもイヤそうにしている。


 だが暴力に訴えるわけにもいかない。

 こちらにはぜんざいが居る。

 ボスを睨むぜんざい。

 少しでも怪しい動きをしたら、すぐに取り押さえられるだろう。


「ぶ、ブモォ」


 ボスはしぶしぶと言った様子でうなづいた。

 そしてドスドスとこちらに近づいてくる。

 食べる気になったようだ。


「よし、じゃあ準備をしようか」


 丈二は布を広げると、そこに作物を並べていった。

 カウシカたちの好みが分からないので、好きなものを食べてもらえば良い。


 ボスはフンフンと鼻を鳴らしながら、作物を品定めしていく。

 そして目を付けたのはスイカだった。

 少し小ぶりのスイカ。食べやすいように半分に切ってある。

 バクリ!!

 皮ごとかぶりついた。

 ジャクジャクと粗食する。

 ごくん、と飲み込むと。


「ぶもぉぉぉぉ!!」


 天に向かって大きく鳴いた。

 美味しかったらしい。

 バクバクと夢中になってスイカを食べる。


 あっという間にスイカは無くなってしまった。

 そしてすぐ隣に置いてあった、にんじんも食べ始める。

 これも気に入ったらしい。


「ぶもぉ?」

「もぉう」


 そんなボスの様子が気になったのか、他のカウシカたちも食べにくる。

 作物の周りはカウシカでいっぱいになった。

 だが、しょせんは小さな畑で収穫した程度。

 あまり量は多くない。

 すぐに無くなってしまった。

 食べれてないカウシカも多いだろう。


「モウ?」


 もっとないのか。

 そんな感じの視線をボスが向けてくる。

 それに答えたのは西馬だった。


「俺に付いてきて貰えば、食い物は用意できる。その代わり、牛乳や角は収穫させてもらうがな」


 その言葉を聞いて、ボスはドスドスと近づいてきた。

 ジッと西馬とにらみ合う。

 二人の間で、何かしらの意思疎通が行われているのだろうか。

 数秒ほどにらみ合うと、スッとボスがうなずいた。

 話は付いたらしい。


 ボスは離れていく。

 それに従って、群れは離れようとした。

 だが、数匹の牛が残っている。

 一匹は、この間エサをあげた子牛だ。

 子牛は丈二に近づくと、鼻を押し付けてくる。


「もしかして、懐いたんじゃねぇか?」

「え……そうかもしれません」


 丈二が集中すると、うっすらと子牛との繋がりを感じる。

 子牛はくるりと振り返る。

 そして群れに向かって大きく鳴いた。


「もぉー!!」


 子牛から、ワクワクとした感情と、わずかな寂しさを感じる。

 思えば、丈二たちに近づいてきた子だ。

 好奇心が旺盛な子なのかもしれない。

 丈二たちとの生活を楽しみにしているのだろうか。


 子牛の鳴き声に、ボスが反応した。

 振り返ると、子牛を見た後に、ぜんざいの事を見つめる。

 しかし、すぐに前を向いて歩きだした。


「がう」


 『ヤツの子だ』ぜんざいはボスを見ていた。

 もしかして、この子牛はボスの子供。

 付いてきている牛は、世話役みたいなものなのだろうか。


「もしかして、ぜんざいさんになら子供を任せられると思った?」


 この子牛も、成長したらボスのようになるのだろうか。

 筋骨隆々の暴れ牛に。


「……ちゃんと世話できるかな」


 なんにしても、当初の願い通り。

 無事に牛を迎えることが出来た丈二たちだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る