第43話 ほわほわ踊り

 次の日。

 さっそく家に帰った丈二は、おはぎダンジョンに向かった。

 マンドラゴラたちに会うためだ。


「ほわぁ?」


 畑に近づくと、土に埋まっていたマンドラゴラたちが顔を出す。

 『どうした?』と体をひねっている。


「牛に会ってきたんだけど――」


 丈二は事情を説明する。

 カウシカたちに美味しいご飯を提供すれば、仲良くなれるかもしれない。

 そのために、マンドラゴラたちの力を借りたいことを。


「だから、早めに作物を成長させてくれないか? あんまり、のんびり育つのを待ってられないんだよ」


 丈二はマンドラゴラたちにお願いする。

 だが、マンドラゴラたちは丈二の言葉を聞くと、プイッとそっぽを向いてしまった。


「ほわ!」


 『イヤだ!』もそもそと土の中に潜り始めてしまう。

 ふて寝する子供みたいだ。

 なにが嫌なのだろうか。

 肥料のためなのに。


「どうしたんだ? 顔を出してくれよ」

「がう」


 ふらっとぜんざいが近付いてきた。

 『疲れるらしい』ぜんざいはあまり興味もなさそうに、説明してくれた。

 ぽりぽりと後ろ脚で頭をかいている。


 疲れる。

 マンドラゴラたちが作物を成長させるのは疲れるらしい。

 具体的にどんなことをするのか、丈二には分からない。

 だが、そこをなんとかやってもらえないだろうか。


「ここで頑張ってくれたら、きっと美味しい肥料が作れるからさ!」

「ほわぁ……」


 もそもそと一匹のマンドラゴラが出てくる。

 一番臆病な子だ。

 少し申し訳なさそうに、丈二の足元にやってくる。

 自分から頼んだことのため、あまり強くイヤとも言えないのかもしれない。


「もしかしたら、カウシカが畑づくりも手伝ってくれるかもしれない。楽に畑が広げられるかもしれないぞ!」


 実際に手伝ってくれるかは分からない。

 ただ、牛が畑仕事を手伝っているような動画を、なにかで見た気がする。


「ほわぁー」


 あくびでもするように、一匹のマンドラゴラが体を伸ばした。

 のんびりとした子だ。

 のそのそと土から出ると、丈二の足元に寝転がった。

 楽になるというワードに引っかかったのかもしれない。


「ほら、他の子たちは手伝ってくれるってよ。リーダーの君が付いてないと駄目じゃないかなぁ」

「ほわ!」


 ずぼっと最後の一匹が土から飛び出た。

 自己主張の激しい子だ。

 率先してマンドラゴラたちの意見を言ってくる子でもある。

 三匹のリーダーポジション。


「ほわぁ!!」


 少し不服そうにしながらも、手伝ってくれる気になったようだ。

 丈二の前で仁王立ちしている。


 三匹がそろったところで、丈二はこの後の予定を話す。


「それじゃあ、俺は植える作物の苗を用意する。とりあえず君たちは新しい畑を準備しててくれないかい?」


 現状の丈二畑にあるのはだいこんのみ。

 だがカウシカたちの好みは分からない。

 さまざまな野菜を準備したほうが良いだろう。

 そのために、丈二は苗を買ってくる。


 マンドラゴラや寒天には、その苗を植えるための畑を準備してもらう。


「ほわぁ!」

「ほわほわ」

「ほわぁ……」


 三匹とも返事はしてくれた。

 さっそく、丈二たちは準備に取り掛かることにした。





 その日の夜。


「腰が痛い……明日は筋肉痛かもしれない」


 牛巻にシップは貼ってもらった。

 だが丈二くらいの年になると、筋肉痛は辛い。

 数日たってから思い出したように痛くなったり、数日間に渡って痛くなるのだ。


「でも、なんとか畑はできたな」


 なんとか畑を作り終えて、苗も植えた。

 苗には季節外れなものも交じっている。

 マンドラゴラパワーで育つかもしれないと思ったからだ。


「ほわぁ!」


 そして、マンドラゴラたちの魔法が始まろうとしていた。

 三匹は畑を取り囲むと、ほわほわと鳴いている。

 星明りに照らされて、彼らの影が薄っすらと見える。


 グルグルと、畑の周囲を周り始めた。

 これがマンドラゴラたちの魔法なのだろうか。

 なんとなく、踊っているようにも見える。

 あやしい儀式のようだ。


「ほわぁ! ほわぁ! ほわぁ!」


 ぐるぐると周る。

 畑を取り囲んで周る。

 ぐるぐるぐる。

 ほわほわほわほわ。

 ずっと周り続ける。


「……これ、いつまで続くの?」


 最初は物珍しさから眺めていた丈二だが、さすがに飽きてきた。

 おはぎなどは丈二の膝の上で寝息を立てている。

 隣ではぜんざいが爆睡していた。

 寒天だけは丈二のソファー代わりになってくれている。


「もしかして、一晩中とか……」


 嫌な予感がしてくる。

 もしかして、とんでもなく時間がかかるんじゃないだろうか。

 だからマンドラゴラたちは嫌がっていたのかも。

 だが、丈二がお願いした手前、無視して帰るわけにもいかない。

 終わるのを見届けたほうが良いだろう。


「……コーヒーいれるか」


 丈二は徹夜の覚悟を決めた。

 少しでも元気を取り戻すため。

 コーヒーをいれにキッチンへと向かった。





「ほわぁ!!」


 顔をはたかれた。

 丈二はその衝撃で目を覚ます。

 いつの間にか寝てしまっていた。

 明け方くらいまでは頑張っていたはず。

 ぼんやりとだが、記憶が残っている。

 寝ていた時間は、そう長くないはずだ。


「ほわぁ!?」


 『なんで寝てるんだ!?』丈二の胸の上で、マンドラゴラが怒った表情をしている。

 振り上げられた腕を見るに、マンドラゴラにはたき起こされたらしい。


「ご、ごめんごめん。寝ちゃってたよ」

「ほわぁ!」


 マンドラゴラが腕で指し示す。

 それに従って、丈二が畑を見ると。


「うおぉ!? 凄いな……」


 その畑には、色とりどりの野菜が実っていた。

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