第42話 リンゴをください

 その日の夜。

 カウシカたちの群れが見える場所で、丈二たちはキャンプをしていた。


「うおー、キレイだなぁ」


 空を見上げれば満天の星空。

 うっすらと青みがかった夜空に、キラキラと星が輝いている。


 都会の夜空とは全く違う。 

 心が洗われるような気分だ。


「丈二さん、これなんか食べごろだぜ」

「あ、ありがとうございます」


 西馬がトングで挟んだ肉を差し出してくる。

 ジュージューとした音。香ばしい匂い。

 焼きたてだ。

 丈二たちは星空の下でバーベキューをしている。


「おはぎたちのために焼いてやるのも良いけど、自分でも食わないともったいないぜ」


 丈二は先ほどから、あまり食べられていない。

 おはぎやぜんざいが、次々に食べたがるためだ。


「喜ばれると、ついあげちゃうんですよね」


 ただ、あるていど満足したらしい。

 おはぎに関しては、寒天の上で眠そうにしている。

 ぜんざいは、まだまだ食べる気のようだが。


「しかし、モンスターのために料理するのも大変だな。ゴールドラッシュは生食の方が好きだから楽だけどよ」


 ゴールドラッシュはトレイに山盛りにされた食材を食べている。

 ニンジンやリンゴ、パンなどが置かれていた。

 特にリンゴが好きらしい。

 食べやすいようにカットされたリンゴを、シャクシャクと食べている。


「馬って――まぁモンスターですけど、パンなんかも食べるんですね」


 丈二としては、馬と言えばニンジンなイメージだった。

 リンゴまでは理解できるが、パンまでも食べるとは思わなかった。


「意外と甘いものが好きなんだぜ。砂糖なんかも食うし。まぁ、あくまでもオヤツだけどな。主食は草だ」


 西馬の話によると、馬用のクッキーなんかもあるらしい。

 たまにあげると、喜んでボリボリ食べるとか。


 丈二と西馬はペット談議に花を咲かせる。

 しばらく話していると、ザッと足音が聞こえた。

 何者か。

 バッと丈二たちが振り向くと。


「もぉ」


 そこ居たのは、まだ子供のカウシカだ。

 好奇心からだろう。

 群れからはぐれてやって来たらしい。


 ふんふんと鼻を鳴らしながら、ゴールドラッシュのエサに近づく。

 食べたいのだろうか。


「あげてみても良いですか?」

「かまわないぜ」


 丈二はゴールドラッシュ用のリンゴを一つ手に取る。

 もうすでに切られていて食べやすい大きさだ。

 それをカウシカに差し出した。


「もぅ」


 ぱくり。

 カウシカはリンゴを食べる。

 シャクシャクと音が鳴り、ごくりと飲み込んだ。


「もお!」


 喜んでくれたらしい。

 カウシカは嬉しそうに鳴くと、ぺろりと丈二の手を舐めた。

 ざらざらしている。

 猫の舌みたいな感じだ。


「もっと食べたいかい?」


 丈二はもう一つリンゴを手に取って、あげようとした。

 しかし、西馬に止められる。


「いや、丈二さん、ちょっと待ってくれ!」


 ドスン!

 大きな足音が近くで響いた。


「ブモォォ!!」


 気がつけば、すぐ近くにカウシカが居た。

 群れのボスだ。

 ギロリと丈二を睨みつけている。


「もぅ」


 その視線をさえぎるように、子カウシカが間に入る。

 なにやら、もぅもぅと鳴いていた。

 なにを話しているのだろうか。

 子カウシカが鳴き終わると、ボスはリンゴを見た。


「た、食べるかい?」

「ブモォ!」


 くるりと背を向ける。

 『そんな物いらねぇ!』と言っているようだ。

 そして、ドスドスと群れへと帰っていく。


「もぅ」


 子カウシカも、その後を追う。

 少し名残惜しそうに、丈二たちの方を振り向きながら。


「び、びっくりした……」


 いきなり群れのボスがやってくるとは思わなかった。

 しかし、今の接触は悪くなかった。


「もしかして、意外と食べ物で釣れたりしますかね」


 子供のカウシカは、美味しそうにリンゴを食べていた。

 ボスカウシカも、リンゴに興味を示したように見えた。

 しかし、食べることは無かった。

 だがそれはボスとしてのプライドから断ったように、丈二には見えた。

 『他人のほどこしは受けねぇぜ!』みたいな。


「……可能性はあるな。この荒野じゃ食うものも少ないし、美味いものには目がねぇかも」


 だが、食べ物で釣る作戦にも問題点がある。

 やはりあのボスだ。

 プライドが高いようで、簡単には釣られてくれないだろう。

 ボスのプライドを突き崩せるほどの何かを用意しないとならない。


「なにか、モンスターが気に入るような、特別な食べ物を……あっ!」


 丈二は思いつく。

 マンドラゴラたちが育てた野菜ならどうだろうか。

 彼らが育てた野菜が、特別に美味しいかはまだ分からない。


 だが、彼らは植物のスペシャリスト。

 その野菜も、特別美味しい可能性が高いんじゃないだろうか。


 しかも、マンドラゴラは植物を成長させる魔法が使えたはずだ。

 そんな話を河津先生から聞いた気がする。

 

「なにか、思いついたのか?」

「まだ不確かな作戦ですけど――」

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