第41話 牛との交渉決裂
小さな丘。
そこから丈二たちは荒野を見下ろしていた。
「丈二さん、あれが目標の群れだ」
西馬は遠くを指さす
その先には牛のモンスターたち。
カウシカだ。
大きさは普通の牛と同じくらいだろう。
玄米ご飯に黒ゴマを振りかけたように、カウシカたちがまばらに散らばっている。
「こんなに大きな群れを作るんですね。ご飯は足りてるんでしょうか」
丈二はカウシカの多さに驚いた。
パッと見た感じでは、50頭ぐらいは居るのではないだろうか。
エサが少ない荒野で、こんなに大きな群れを作れるとは。
「ウチでも最大級の群れだからな。飯に関してもなんとかなってるようだ。ダンジョンは植物の成長も早いし、アイツらも飯のある所に動いてるからな」
西馬は話しながら、懐から2つの双眼鏡を取り出した。
片方を丈二に渡してくる。
西馬はそれを覗き込んだ。
「群れの中央。特にデカい奴がいるのが分かるか?」
西馬にならって、丈二も双眼鏡を覗いた。
群れの中央。
そこには確かに大きなカウシカが居た。
通常サイズのぜんざいよりも、少し小さいくらいだろうか。
浮き上がった筋肉が肌の上からでも分かる。
頭には立派な角。まるで大樹の枝のようにそびえている。
「アイツが群れのリーダーだ……おっと、ちょうど良いな。群れの右側の方を見てくれ」
丈二は言われるままに視線を動かす。
そこにはカウシカ以外のモンスターが居た。
大きなトカゲのモンスターが4匹。
二足歩行に、鋭いかぎ爪。なんとかラプトル系の恐竜に似ている。
彼らは上体を低くして、口を大きく開けている。
威嚇をしているのだろう。遠すぎて声は聞こえないが。
小さなカウシカは必死に逃げようとしている。
それを守るように立派な角を生やしたカウシカが前に出る。
角を振り回して、ラプトルをけん制している。
だがラプトルたちも負けていない。
チョロチョロと動き回り、群れを混乱させようとしている。
混乱で飛び出した弱い個体を狙おうとしているのだろう。
しかし、思惑通りにはならなかった。
土煙が上がる。
その土煙はすごい勢いでラプトルたちに近づく。
リーダーのカウシカだ。
その巨体を揺らしながら、一気にラプトルたちに迫る。
慌て始めるラプトルたち。
それとは対照的にカウシカたちは落ち着きを取り戻している。
リーダーが来たことに安心しているのだろう。
リーダーはぶんぶんと角を振り回す。
凄い勢いだ。
当たればラプトルたちでは、ひとたまりもないだろう。
その勢いにラプトルたちも危険を感じたらしい。
ダッと息を合わせたように逃げ始めた。
「凄いですね。リーダーのカウシカが来たとたんに、群れが落ち着きを取り戻してました」
リーダーとしてのカリスマ性があるのだろう。
カウシカの群れからは、リーダーに任せれば大丈夫だという信頼のようなものを感じた気がした。
「そうだろう? あの調子だから、追い込もうとしても動かせねぇのよ」
たしかに、あの調子では群れを動かすのは難しいだろう。
どうしたものだろうか。
丈二は悩む。
そこにぜんざいが声をかけてきた。
「ぼふ!」
『私に任せておけ』ぜんざいは、やれやれと言った感じで目を細めている。
なにか策があるのだろうか。
その後、丈二たちはぜんざいに従ってカウシカの群れに近づいた。
西馬は置いてきている。
西馬は何度かリーダーと接触しているらしい。
顔を覚えられていたら、警戒されるだけだろう。
ぜんざいは堂々と群れに近づく。
丈二たちはその後ろに続く形だ。
最初は、群れのカウシカたちは怯えていた。
しかし、ぜんざいに敵意が無いことが分かると、怯えは困惑に変わった。
ドスドスと足音が聞こえる。
リーダーが近付いてきたのだ。
ぜんざいとリーダーは向かい合う。
ぜんざいの方が体は大きい。
しかしリーダーは臆することもなく、ぜんざいを睨みつけている。
なんとなく、不良がメンチを切っている感じに似ていた。
そう考えると、ぜんざいがヤクザの組長に見えてくる。
組長。ではなくぜんざいは諭すように鳴いた。
どうやら、説得する作戦のようだ。
「ガウ」
「ブモォォォ!!」
それに対してリーダーは威嚇。
ずいぶんと興奮している。
ぜんざいの言うことなんか、聞く気はないらしい。
しばらく、2匹の鳴き声が続いた。
静かに鳴くぜんざい。威嚇をするリーダー。
始めは熱心に説得しているぜんざいだった。
しかし、次第にその声に怒気がはらんでいく。
「ガルゥゥゥ!! ガウ!」
「ブモォォォ!!」
一触即発。
明らかに喧嘩になってきている。
どうして争ってしまうのか。
丈二は腕の中のおはぎを見る。
おはぎも呆れたような目でぜんざいを見ていた。
これはもう駄目だろう。
一度撤退だ。
丈二は2匹を止めに入る。
「ぜんざいさん! 落ち着いてください! 一旦帰りましょう」
「ガルゥゥゥ!!」
ぜんざいは丈二を睨む。
一瞬ドキリとしたが、ぜんざいはゆっくりと後ろに下がる。
分かってくれたらしい。
ぜんざいはリーダーから離れる。
丈二たちが離れるのを、リーダーはおとなしく見ていた。
戦ってもぜんざいには勝てない。
そのことを理解しているのだろう。
丈二たちは西馬の元に戻る。
戻ると西馬は電話をしていたようだ。
耳元からスマホを離して、ポケットにしまった。
丈二は肩を落としながら、西馬に近づく。
「すいません。上手くいきませんでした」
「いやいや、気にしないでくれ。いきなり上手くいくとは思ってねぇよ」
西馬はポンポンと丈二の背中を叩く。
そして悪友のようにニヤリと笑った。
「せっかく来たんだ。アイツらを観察しながら、キャンプでもしないか?」
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