第40話 荒野の競争

 「ダンジョンがあるのはこっちだ」


 話した後。

 西馬に案内されるまま、丈二たちは店の一階に戻った。

 そこから店の奥へと通される。


 奥には、建物にぐるりと囲まれた中庭になっている場所があった。

 綺麗に手入れされた庭だ。

 短く刈られた芝。小さな池。端っこには花壇。

 その真ん中に透明な木が生えている。

 ダンジョンの入り口だ。


 まさか店の中にあるとは思わなかった。


 西馬がダンジョンに入っていく。

 それに続いて、丈二たちもダンジョンに入った。


 コンクリートに囲まれた部屋に出る。

 頑丈そうな部屋だ。

 外に続く道には分厚い鉄扉。

 その隣に付けられたパネルを西馬が操作する。


 ガガガガ!!

 重苦しい音と共に、扉がゆっくりとスライドする。

 ふすまのように両側に開いた。


 丈二たちは外に出る。

 そこは見渡す限りの荒野だった。


「ここが俺のダンジョンだ」

「凄いですね。まるで海外に来たみたいです」


 赤茶けた大地。

 ごつごつした岩。茶色い山。

 低い植物がまばらに生えている。


 日本では見られない風景だろう。

 丈二は、ぽかんと口を開けてしまう。


 カラカラに乾燥した空気が口に入る。

 少し砂っぽい。

 じゃりじゃりとした感触が口に入った。


「ぺっ! 砂が凄いですね」

「あんまり、ぼんやり口を開けない方が良いぜ。すぐに乾いちまうからな」


 西馬は外に付いていたパネルを操作して、扉を閉める。

 その後、西馬は入り口があった建物の横に向かう。

 そこには木製の建物があった。

 なんの建物なのか。不思議に思った丈二だが、答えはすぐに分かった。


「ブルゥゥ!」

「う、馬小屋か」


 そこに居たのは茶色の馬。

 どっしりとした体形だ。

 ところどころに岩の鎧のようなものをまとっている。

 頭には岩の兜。

 角のように伸びた形が特徴的だ。


「こいつは俺が手懐けている『ロックホース』ってモンスターだ。名前は『ゴールドラッシュ』。鈍重そうな見た目だが、なかなか早い」

 

 西馬はゴールドラッシュに飛び乗る。

 少し荒っぽい乗り方に見えたが、ゴールドラッシュは動じていない。

 見た目通りの頑丈さなのだろう。


「目的地までは少し遠い。俺はコイツに乗っていくが、丈二さんはその狼に乗るんだろう?」

「そうですね。ぜんざいさん、お願いします」

「ぼふ」


 ぜんざいの体が大きくなる。

 元の姿に戻った。


 ぷるんと寒天が動いた。

 ぜんざいの体にまとわりつくと、座席とハンドルを作ってくれる。

 バイクみたいな感じだ。

 寒天が来てくれてから、ずいぶんと乗りやすくなった。


 さらに寒天は余った体で乗り込むための台まで作ってくれる。


「ありがとう」


 丈二はおはぎを抱えて、ぜんざいに乗った。

 ほどよく柔らかい。


 丈二の座席とハンドルの間に、おはぎの座席もある。

 シートベルト付きだ。

 おはぎがふせの体勢をとると、お腹のあたりを寒天の体で固定してくれる。

 

「クールじゃないか。まさかスライムを馬具にするとはな」


 パカパカと足音を鳴らして、西馬たちが近付いてきた。


「それじゃあ、付いてきてくれ」


 パカラ! パカラ!

 子気味の良い足音を鳴らして、ゴールドラッシュが走り出した。

 ぜんざいもその後を追って走り出す。


 ぜんざいは速度を上げると、ゴールドラッシュの隣を並走する。

 ゴールドラッシュはチラリとぜんざいを見ると、速度を上げた。

 ぜんざいよりも前を走ろうとする。

 しかし、難なくそれに追いつくぜんざい。


「おいおい、あんま飛ばすと、ばてちまうぞ?」

「バウ!」


 『問題ない』ぜんざいはむしろ速度を上げていく。

 以前なら出していなかった速度だ。

 乗っている丈二の方が持たないから。

 しかし、寒天が来てくれた今。

 ある程度は速度を上げても、丈二たちへの負担は少ない。


「ブルヒィィィン!!」

「心配するなって?」


 ゴールドラッシュも、なにやら言っているようだ。

 どうやら二匹のやる気に火をつけてしまったらしい。

 

「仕方がねぇ。丈二さん、ひとっ走り付き合ってくれ!」

「分かりました!」


 二人の会話を聞くと、二匹はさらに速度を上げた。

 風の圧が強くなる。

 頬が風に引っ張られるようだ。

 ちょっと怖い。


「ぐるぅ!」


 おはぎは楽しそうだ。

 ジェットコースターみたいな気分なのかもしれない。


「ブルゥヒィィィィン!!」


 ゴールドラッシュがいななきを上げた。

 それと同時に西馬が慌て始める。


「バカ! それは止め――うぉぉぉ!!?」


 ドン! ドン! ドン!

 先ほどまで軽快だったゴールドラッシュの足音。

 それが鈍重なものに変わる。


 同時に一気に速度を上げた。

 ゴールドラッシュの走った足跡を見る。

 そこの土が盛り上がっていた。

 地面の土を操作して、自身の体を突き上げるようにして速度を上げているのだろう。

 ゴールドラッシュはぜんざいを引き離していく。


「バウ!」


 『掴まっていろ』ぜんざいの声と同時に、風が止んだ。

 今だ走っているはずなのに、空気が丈二たちの元へ流れ込んでこない。

 いったい何なのか。

 考える暇もなかった。


「どうわぁぁぁぁ!!?」 


 ガッ!

 丈二の体が後ろに持っていかれそうになった。

 急加速したことによる慣性だ。

 吹っ飛びそうになったところで、寒天が体を押さえてくれた。


 速度が上がっても風は強くならない。

 よく見れば、ぜんざいの前で風が避けている。

 舞った砂ぼこりでその様子が分かりやすい。


 一気にゴールドラッシュに追いつくぜんざい。

 現状の速度はほぼ互角。

 ここからどうなるのか。丈二は息をのんだ。


 しかし、この走りに音を上げた人がいた。


「止めろゴールドラッシュ!! この走り方は止めてくれ!」


 西馬は必死の形相で叫んだ。


「俺のケツが死ぬ!」


 ドカンドカンと下から突き上げられる西馬。

 ……あれは確かに痛そうだ。


 二匹の勝負は流れることになった。

 

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