第37話 逃げた大根

 種まきを終えた次の日。

 朝早くから丈二とおはぎは畑の様子を見に行った。

 

 まだ変化は起こっていないだろうと思っていた。

 だが畑のところどころに、小さな緑色の葉っぱが見える。

 全部で三つ。

 たぶん、大根の芽だ。


「……いや、早くないか?」


 だが、大根の芽は早くて2,3日で発芽するらしい。

 1日で発芽する場合も……あるのだろうか?


「ぐるぅ♪」


 一緒に来ていたおはぎは、嬉しそうに芽に走り寄る。

 くんくんとその芽を嗅いでいた。


 まぁ、発芽してくれたのならそれで良い。

 丈二は特に気にしないことにした。



 さらに次の日。

 やはり朝早くから畑の様子を見に行った。

 他の芽も出ているだろうか。

 ワクワクしながら畑に行った丈二。


 しかし新しい芽は出ていない。

 むしろ、昨日は生えていたはずの芽さえなくなっている。

 どこへ行ってしまったのかと見渡すと。


「あれ、なんだあの穴?」


 三か所ほど、小さな穴が開いている。

 よく思い出すと、あの辺は昨日のうちに芽吹いていた大根が埋まっていた場所のはず。


 まさか泥棒か。

 ダンジョン内に畑泥棒が入ったのではないか。

 しかし、まだ芽が出たばかり。

 盗んだところで価値はないはずだ。

 いったいドコへ行ってしまったのか、丈二は首をかしげる。


「ぐるぅ?」


 おはぎも不思議そうに穴に近づく。

 クンクンと臭いを嗅ぐと。


「ぐるぅ!」

「え、どうした!?」


 『こっち!』どこかに向かって走り出した。

 丈二も急いでそのあとを追う。

 向かった先は、川の近く。

 そのあたりに、一部だけ土の色が違う場所がある。

 なんと、そこから大根のような葉っぱが生えていた。

 ちらりと白い肌も見える。


「え、なんでもう成長してるんだ……」


 目の前にあるのは成長した大根。

 いくらなんでも早すぎる。

 そもそも、なぜこんなところに埋まっているのか。


「ぐるぅ」


 おはぎは大根らしき葉っぱに近づくと、ちょいちょいっとパンチする。

 猫パンチのような動作だ。


「うぉ!」


 わさわさ!

 大根? の葉っぱが強く揺れた。

 ぼこりと、その周りの土が盛り上がる。

 現れたのは短い根っこ。

 それを手のように使って、よっこいしょと大根が顔を出す。


「ほわぁぁ!!」


 現れたのは顔のようなものが付いた大根。

 短い手足も生えている。

 それは悲鳴にも似た鳴き声を上げる。

 寝ていたのだろうか。ちょっとおはぎに怒っている感じがする。


「ほわぁぁ!?」

「ほわぁ?」


 その声に反応して、残り二つの大根も顔を出した。

 一匹は『どうした!?」と慌てた感じ。

 もう一匹はあくびでもするように鳴いていた。


「な、なんだ? マンドラゴラって奴か?」


 マンドラゴラ。

 植物の根っこが変化したモンスターだ。

 だが、育てた植物がマンドラゴラなったと聞いたことはない。

 まさか、ダンジョンで大根を育てたからこうなったのだろうか。


 マンドラゴラは、のそのそと土からい出る。

 そして、その短い腕でおはぎを差して、なにやら言っている。

 文句を言っているような雰囲気だ。


「ほわぁ! ほわほわぁ! ほわぁ!?」

「ぐるぅ。ぐるるぅ」


 なにやら話している。

 いったい何の話をしているのだろうか。

 ほわほわ、ぐるぐると鳴き声が続く。


 しばらく話していると、マンドラゴラは何かを理解したらしい。

 今度は丈二の方にやってくる。


「ほわぁ!」


 マンドラゴラは丈二の方を。いや、その先を差し示して、なにか怒っている。

 そして、今度は自分たちが入っていた土を指さす。


「……なにが言いたいんだ?」


 丈二はマンドラゴラが差した方角を見る。

 そっちにあるのはダンジョンの出口。

 あとは畑ぐらいだ。


 もしかして、畑が気に入らなかったのだろうか。

 だからこっちの方に引っ越してきた?


「もしかして、畑が気に入らないのか?」

「ほわぁ」


 うんうんとマンドラゴラたちはうなずく。

 やはり、畑がダメだったらしい。


 丈二は初めて畑を作った。

 初めてにしてはよくやったほうだと思う。

 だが野菜目線で見ると、気に入らない部分も多かったようだ。

 どうしたものかと、悩む丈二。


 しかしふと思いつく。

 マンドラゴラは畑を気に入らない。

 それなら、今度はマンドラゴラにアドバイスを貰って作ってみよう。

 本人たちにアドバイスを貰えば、良い感じの畑ができるかもしれない。


「じゃあ、君たちが畑の作り方を教えてくれないか?」

「ほわぁ?」


 その答えは予想外だったのだろうか。

 マンドラゴラは体をかたむける。人間が首をかしげるような動作だ。

 そして三匹で集まった。

 そしてしばらくの間、ほわほわと話し合っていた。


「ほわぁ!」


 三匹は丈二の方を向くと、大きくうなずいた。

 どうやら手伝ってくれるらしい。





 後日。”家庭菜園の大根に怒られたので、畑を改良します”というタイトルの動画が公開された。


『なんだこのタイトル?』『なんだ大根に怒られたってwww』『俺も大根に怒られたい』『どんな性癖だよ……』『大根にニーソックスとか履かせてそう』


 動画が始める。

 中央には寒天。その頭の上に白いマンドラゴラたちが三匹乗っている。


『マンドラゴラ!?』『また手懐けたのか!?』『ドラゴンとか、クソデカ狼よりは現実的やん?』『なお三匹も居る模様』


「皆さんこんにちは。前回作った畑から、このマンドラゴラたちが生えてきました」


『畑から生えてきたのかよwww』『うちの畑の野菜もマンドラゴラに!?』『普通はならんから安心しろ』『これは色白美人』


「ただ、彼らは前回作った畑に不満があるようです。なので、今回は彼らと一緒に畑の改良をしていきます」

「ほわぁぁ!!」


 三匹のマンドラゴラが『やるぞ!』と言うように手を上げる。

 そしてマンドラゴラたちが寒天から降りる。


 すると寒天の体が三つに分裂した。

 そしてそれぞれが人型に変わる。

 しかし普通の人型ではなく、コックピットのような物が付いている。

 そこにマンドラゴラたちが乗りこんだ。


「ほわぁ!」


 マンドラゴラの動きに合わせて、スライム人形が動く。

 これぞマンドラゴラ用農業スライムスーツだ。


『なんだそれwww』『あれは、スライムとマンドラゴラの合わせ技!』『知っているのか!?』『いや、知らん』


 マンドラゴラの小さな体では、大きな畑仕事をするのは不便。

 そのため、寒天に手伝ってもらうことにした。


 マンドラゴラたちはザクザクと土を掘って、ふるいにかけていく。

 ちなみに、植えてあった大根は一時的にプランターに逃がしてある。


 ふるいにかけて、石などは取り除く作業は丈二たちもやっていた。

 だが、まだ足りなかったらしい。

 マンドラゴラたちいわく、『小石が当たって痛い』らしい。


 マンドラゴラたちはじゃんじゃん土を掘っていく。

 丈二よりも手際が良い。


「……やっぱ俺がやるより早いな」


 調べたところ、マンドラゴラたちは簡単な土魔法が使えるらしい。

 それを使って土を掘りやすくしているのかもしれない。

 ひぃひぃ言いながらやっていた作業を、サクサクと進められると敗北感がある。

 大根にここまでの敗北感を覚えたのは、丈二が人類初ではなかろうか。


 一通り、土をふるいにかけ終わったようだ。

 丈二は肥料を用意する。

 

 前回はてきとうに買ってきた肥料をてきとうに混ぜただけ。

 それでは良くなかったらしい。

 何種類か買ってきた肥料。

 それを小皿に分けて、マンドラゴラたちの前に出す。


「ほわぁ」


 マンドラゴラたちはそれぞれの肥料を口に運ぶ。

 味見をしているらしい。

 そして、ほわほわと話し合い始めてた。

 どの肥料が一番良かったか話し合っているのだろう。


『話し合ってるの可愛いなwww』『まるで肥料ソムリエだな』『これ、選ばれた肥料が売れそうじゃない?』『選ばれたのは綾鷲あやわしでした』『お茶を畑にまくな』


「ほわぁ!」


 マンドラゴラたちが肥料を選ぶ。

 その肥料が入った大きな袋を渡すと、畑に混ぜ始めた。

 丈二から見るとてきとうに混ぜているだけだが、あれにもコツがあるのだろう。


 肥料を混ぜ終わると、いよいよ苗を戻し始めた。

 これもマンドラゴラたちがやってくれている。


 手を貸そうとしたら怒られた。

 もはや丈二の畑はマンドラゴラたちの管理下なのだ。


「ほわぁ!!」


 『完成!』とマンドラゴラたちは手を広げた。

 そして、そそくさと畑の中に潜っていく。

 できた畑をさっそく試したいのだろう。


「……と言うわけで、マンドラゴラたちの畑改良でした!」


『完全に丈二の畑奪われとるやんwww』『これ、本当に大根が生えてくるんだろうか……』『増殖するマンドラゴラ』『大根が生えてきたとして、収穫させてもらえるのか?www』『収穫の時のお楽しみやなwww』

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