第36話 畑仕事は甘くない

 数日後。

 丈二は寒天の飼育や、ダンジョンの管理に関する必要な申請を終えていた。


 ダンジョンに関しても簡単に申請は終わった。

 ギルドの人と探索者の護衛の人がやって来て、ダンジョン内を軽く見て回る。

 そして内部にモンスターが出現していないことを確認すると、簡単に管理許可がもらえた。

 普通は内部に出現するモンスターによって、ダンジョンの入り口の警備をしなければならないらしい。

 だが、今回はモンスターの出現が確認されなかったため、特に必要はないらしい。

 ギルドの人も、こんなことは初めてだと驚いていた。


 そして、無事にダンジョンを使う許可が出た今。

 丈二にはやりたいことがあった。


「スコップ、肥料、種。準備オッケーだな!」


 家庭菜園だ。

 

 田舎の大自然に囲まれて農作業。

 それは理想のスローライフ。


 本格的な農家は凄く大変だろう。

 あくまでも趣味程度。

 おはぎたちのご飯の足しにするため。

 美味しいところだけ楽しもう。


「ついでに動画も撮っておこう」


 丈二はカメラを回し始めた。




 次の日、動画が投稿された。

 ”おはぎたちとダンジョンに畑を作ります!”

 以下は公開直後の動画とリアルタイムチャットの様子。


 『ハイ! ジョージ。久しぶりの動画じゃないか』『数日ぶりやな』『クシナダで事件に巻き込まれたとか聞いたけど』『なんだこのタイトル?』『ダンジョン? 畑?』『モンスターに襲われながら畑でも作るの?』


 動画が始まる。

 画面の中央には、おはぎを抱いた丈二。その隣に寒天。後ろにはぜんざいが座っている。


『あれ、ジョージがちゃんと映ってるの初めてじゃない?』『いつも見切れてたからな』『え、なんか増えてない?』『なんだそのデカいスライム!?』『なにここ、ダンジョン?』


「皆様、お久しぶりです。まずは新しく懐いてくれた子を紹介します。スライムの寒天です」


 紹介された寒天は体をぐにょりと伸ばす。

 挨拶をしているようだ。


『また増えてる……』『なんでそんな懐くの?』『もうジョージを研究したほうが良いのでは?』『スライム可愛い!!』『ぼんやりしてる感じが良いよなwww』


「それと、ここは庭に生えてきたダンジョンです」


『生えてきた?』『マジで!?』『実は庭にダンジョンが生えるのは、たまにある話だぞ』『俺も庭にダンジョン生えてきて引っ越したことあるわ……』『普通に災害みたいなもんだよな』


「しかも、モンスターが出てこないみたいなんですよ」


『それは聞いたことない……』『クシナダのダンジョンでさえ、弱めのモンスターは出るんやろ?』『土地の資産価値爆上がりしてそう』


「というわけで!」


 丈二が動くとそれに合わせてカメラも動いた。

 そちらには、農具や肥料が置かれていた。


「ここに家庭菜園を作ってみようと思います!」


『家庭菜園www』『もっと土地を有効活用しろwww』『広い土地が手に入ったで……せや、家庭菜園作ったろ!』『そうはならんやろwww』


「そして、こんかい活躍してくれるのが、寒天です!」


 カメラが寒天に向かう。

 寒天は5体に分裂すると、子供の形に変わる。

 そして、スライムの体を変形させてクワを作りだした。


『5人分の人手に変わった!?』『スライムって、その辺を動いて糞とか食っているイメージしかなかった……』『ダンジョンの掃除屋だからな』『ここまで器用に変化するスライムって珍しいよな?』『上位のスライムだと思う』


「それでは、まずは土を耕して柔らかくしていこうと思います」


 丈二はクワを持って、土を耕す。


「ぐるぅ!」


 おはぎも真似をして、土を掘りだした。

 しかし、その小さな手ではあまり効率はよくなさそうだ。


 分裂した寒天も5人分の力で土を耕す。

 ざくざくと一気に耕される姿は見てて心地が良い。


 ちなみに、ぜんざいはその様子をのんびりと眺めている。

 ぜんざいの大きさでは細かい作業は苦手だろうと、丈二が待機をお願いしていた。


 少しの間、無言でザクザクと進める丈二たち。

 しかし、しばらく作業を進めていると。


「こ、これは、思った以上に大変だな……」


 思った以上に土が固い。

 それに根っこが絡まっていて、掘りづらい。

 早くも丈二の足腰は悲鳴を上げ始めていた。


「ぐるぅ!」


 おはぎが励ますように鳴いた。


「そうだな。自分で始めたことなんだから、もうちょっと頑張らないとな!」


 丈二は奮起した。

 そして再びクワを土に振り下ろしたのだが。

 取れ高が無かったため、無慈悲なカットだ。


「疲れたぁーー!!」

「ぐるぅ!」


 カットされると、一軒家の駐車場ほどのサイズの土地が耕されていた。

 丈二はその脇にどさりと倒れる。

 おはぎはまだまだ元気そう。

 倒れこんだ丈二の背中に飛び乗る。


『頑張ったやん!』『これくらいの面積でも土地によっては大変だからな』『草生えてるから、根っこが絡まってヤバそう』『お疲れジョージwww』


「寒天も休憩にしよう!」


 寒天は一つにまとまると、ずるずると丈二たちに近づく。

 丈二のそばには、麦茶と、山盛りのおにぎりが用意されていた。


「働いた後のおにぎりって美味しいんだな……」


 丈二の胃に塩おにぎりが染み渡った。

 となりでは、おはぎとぜんざいがバクバクとおにぎりを食べている。


「はい、寒天」


 丈二は新しいおにぎりを寒天に投げる。

 寒天は体を伸ばして、器用におにぎりを取り込んだ。

 ぷかぷかと体に米粒が浮かぶ。


「休憩が終わったら、こんどは土をふるいにかけないとな!」


 その後も丈二たちは畑仕事を続けた。

 最終的には大根の種を植えて、今回の動画は終わった。

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