第35話 おはぎダンジョン

 とりあえず、河津先生を呼んでみた。

 えてきたダンジョンと、おはぎの関係性を知りたかったからだ。


 幸いなことに午前中に時間を作ってくれた。


 河津先生はバンに乗ってやって来た。

 河津動物病院の名前が書かれた大きな車だ。

 いくつもの機材が積んであるらしい。

 それらを使って、おはぎやダンジョンの木を検査していた。


 ごろんとお腹を見せるおはぎ。

 そのお腹に、ペタペタと何やら貼り付けて調べていた。

 河津先生はひとしきり調べると、ノートパソコンに何かを入力していた。 


「驚きだね。おはぎちゃんとダンジョンの魔力は、ほぼ一致しているよ。このダンジョンは間違いなくおはぎちゃんに関係するものだね」


 いつもはのんびりしている河津先生。

 しかし、今回はさすがに驚いたらしい。

 いつもより喋る速度が速い。


 そして河津先生が言うには、おはぎとダンジョンの入り口である木の魔力は、ほぼ一致。

 おはぎに関係があるのは間違いないらしい。


「しかも、この木は他のダンジョンとは違う魔力を持っている」

「違う魔力ですか?」


 丈二は首をひねる。

 なにがどう違うのだろうか。

 河津先生はすぐに答えてくれた。


「『世界中に存在するダンジョンの入り口』。あれらの木は、すべて同じ魔力を持っているんだ」


 それは丈二も初めて聞いた話だった。

 ダンジョンの入り口である透明な木。

 それらは同じ魔力を持っているらしい。

 だが、丈二家に生えたダンジョンの木だけは、違う魔力を持っているらしい。


「改めて『おはぎちゃんの魔力』と、『世界中に生えているダンジョンの魔力』を比べてみると、とても類似点が多い。これは親子ぐらいの違いだよ。こんなことは前例がない」


 親子。

 そういえば、おはぎの親はどこにいるのだろうか。

 

 普通のドラゴンは卵生。

 巣で育てられて、あるていど大きくなったら独り立ちする。

 おはぎのような小さな状態で放置されているのは前例がないらしい。


 モンスターはダンジョンで繁殖しているものも居る。

 だが、どこからか突然に現れるものも多い。

 おはぎは後者なのかもしれない。


 生まれた直後に、どこからかダンジョンに連れてこられたのかも。


「おはぎちゃんとダンジョンに、なにか重要な繋がりがある可能性は高いと思うね。昨晩あったというおはぎちゃんの異常行動。それによって、このダンジョンが生まれた可能性も高い」


 おはぎの親ドラゴン。

 ダンジョンの木。

 そこにどんな関係があるのか。

 丈二が考えても、答えは出なかった。


「ところで、どうして急にダンジョンを生んだんですかね?」

「それに関しては、一つ仮説があるよ。丈二くんが寒天ちゃんを手懐けたことが原因じゃないかな」

「寒天が?」


 河津先生はノートパソコンを見せてきた。

 そこにはグラフが表示されている。


 横軸は日付。

 縦軸は……おはぎの魔力量らしい。


 しかし、その魔力量の増え方が異常だ。

 特定の日付で、二回ほど大きく増えている。

 その日付は。


「丈二くんが新しいモンスターを手懐けるたびに、おはぎちゃんの魔力量が増えているね」


 それぞれの日付は、ぜんざいと出会った日の直後。

 そして寒天と出会った後。つまりは今日。

 この二回で大きくねていた。


「この魔力量の増加によって、ダンジョンを生めるようになったんじゃないかな」

「なるほど」


 ちなみに寒天を手懐けても、ぜんざいの魔力量は変わっていないらしい。

 あくまでも、おはぎ固有の能力のようだ。

 もしかすると、おはぎは思ってた以上に凄いドラゴンなのかもしれない。





 丈二はおはぎが生んだダンジョン『おはぎダンジョン』の中を歩いていた。

 近くにはおはぎたちも居る。

 こうして歩き回って分かったことが二つある。


 まず、このダンジョン内にはモンスターが出現していない。


 二つ目に、このダンジョンは見た目ほど大きくない。

 ある程度進むと、いつの間にか入り口に戻されている。

 RPGなんかで地図の端っこに出ると、反対側から出てくるような場合がある。

 それと同じような感じだ。


 だが見た目ほど広くないだけで、決して狭くはない。

 ちょっとした遊び場を作ったり、家庭菜園をするぐらいには十分な広さだ。


「ふぅ、ちょっと歩き疲れたな……」


 丈二はダンジョン出口のあたりで座り込む。

 だが、おはぎはまだまだ元気らしい。

 丈二の周りを走り回っている。

 遊んで欲しいのだろう。


「ま、待ってくれ。今は休憩したいから」


 そこに寒天がやってきた。

 寒天はおはぎに近づく。

 

「ぐるぅ?」


 『なぁに?』おはぎは寒天を見あげる。

 寒天は自分の体の一部をちぎる。

 すると、その欠片はおはぎを模した形へと変化していった。

 色などは変わっていないが、形だけならそっくりな、おはぎ人形だ。


 そのおはぎ人形はダッと走り出す。


「ぐるぅ!」


 本物のおはぎも、それを追って走り出した。

 凄い。ちょうど良い遊び相手だ。


 さらに寒天は丈二に近づくと、その腰に自分の体を巻き付けた。


「ど、どうした?」


 丈二を持ち上げると、その下に入り込んで椅子のような形に変化した。


「お、おお、ありがとう」


 しっかりしていて安定感がある。

 座っていて不安定な感じはしない。

 体の硬さを変化させられるのだろう。


 おはぎの人形、椅子、さまざまな形に変われる寒天は凄いな。

 丈二は感心する。

 そして、ふと思いついた。


「寒天、ちょっと来てくれるか」

「?」


 寒天をダンジョンの外に連れていく。

 そしてとある動画を見せた。


「これに変身できるか?」


 ぷるぷると震える寒天。

 たぶん肯定している。


 ダンジョンに戻ると、さっそく寒天が体を変化させた。

 長いアーム。その先に大きなバケット。本体は四角形。

 ショベルカーそっくりな姿に変化した。

 スライムときよりも体積が大きくなっている。

 もしかすると、多少は体の大きさを変えられるのだろうか。


「ぐるぅ?」


 おはぎが不思議そうに首をかしげる。

 隣ではおはぎ人形も同じ動作をしていた。


「試しに、この辺を掘ってみてくれるか?」


 ザザザザ!!

 バケットが地面に食い込んで、一気に地面を掘り返す。

 あっという間に小さな穴が掘られた。


「凄い! 寒天が手伝ってくれたら家庭菜園も簡単にできるぞ!」


 褒められた寒天は嬉しそうにプルプルと震えていた。

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