第34話 モンスター牧場

 とりあえずおばあさんには帰ってもらった。

 丈二はダンジョンの入り口の前に立つ。


 その場所には覚えがある。

 昨日の夜。おはぎがトイレをしていた場所だ。

 もしかすると、あれはトイレじゃなかったのかもしれない。

 ダンジョンを生んでいたとか……。

 いや、モンスターがダンジョンを生む話など聞いたことがない。

 丈二はぶんぶんと頭を振った。


 落ち着いて見ると、それは他のダンジョンの入り口とは若干様子が違う。


 普通のダンジョンの入り口は、枯れ木のような見た目だ。

 葉っぱや花のようなものは生えていない。

 冬場の寂しげな枯れ木のよう。


 一方で、このダンジョンは若木のようだ。

 数は少ないが、葉っぱのような物が生えている。

 普通のダンジョンのような寂しい感じはしない。


「ぐるぅ?」


 のそのそとおはぎが歩いてきた。

 眠たげにまばたきを繰り返している。

 その後ろには、ぜんざいと寒天も付いてきていた。


「ぐるぅ!」


 おはぎはダンジョンの入り口を見つけると、目を見開いた。

 そして嬉しそうに丈二に走り寄る。


「ぐるぐるぅ!」


 そして丈二のズボンの裾を引っ張った。

 まるでダンジョンへと連れて行こうとするように。


「ど、どうしたおはぎ、ダンジョンに入りたいのか?」


 丈二はおはぎを抱き上げた。

 ばたばたとせわしなく尻尾を振っている。


 どのみち、ダンジョンの調査はしないといけないかもしれない。

 だがもう少し準備してからでも……。

 などと丈二が考えている間に、ぜんざいがダンジョンに近づく。


「ぜんざいさん!?」


 ぜんざいは一匹でダンジョンに入ってしまった。

 丈二も慌てて後を追いかける。


 ダンジョンの中は広い平原。

 だが遠くの方には森も見える。

 近くには小さな川も流れていた。


 ぜんざいは体を元の大きさに戻して、のんびりと横たわっている。

 おはぎは丈二の手を離れると、パタパタと飛び回り始めた。


 ぜんざいもおはぎものんびりとしている。

 もしかして安全なのだろうか。

 だが、せめて周りを見渡したい。

 丈二がそんなことを考えていると、後ろから腰のあたりを掴まれた。


「うお!?」


 振り向くと、そこに居たのは寒天。

 寒天は体を変形させて、丈二の腰のあたりをロープを回すように掴んでいる。

 そして、ふわりと丈二の体が浮かんだ。


「え、もしかして、このまま上に持ってくのか!?」


 ぷるぷると揺れる寒天。

 それは肯定なのだろうか。

 ぐんぐんと丈二の体は持ち上げられていく。

 2メートルほど持ち上げられた。寒天の体の方がこれ以上は無理らしい。

 そこから見渡す限り。モンスターなどは見当たらない。


「か、寒天。もう下ろしてくれるか?」


 ぷるぷると腰を掴んでいる体が震えた。

 その返事は不安定な感じがして怖いから止めて欲しい。

 しゅるしゅると地面に近づいていく。

 無事に着地できたときには、地面のありがた味を感じた。


「持ち上げてくれたありがとうな」


 寒天の額のあたりをなでる。

 ぷるんと震えた。

 なんとなく、喜んでいる気はする。


「とりあえず、安全みたいだけど……」


 どうした物だろうか……。

 まさか庭にダンジョンが生えるなんて思ってもいなかった。


 こういった場合はどうしたら良いのだろうか。

 いったんダンジョンから外に出る。

 スマホで調べてみようと思ったが、電波が通じていなかった。

 ダンジョン内部で電波を使うには、ダンジョンの入り口に専用の設備を設置しなければできない。

 できたばかりのダンジョンには、そんなものはない。


 スマホで検索をしてみる。

 個人の所有地にダンジョンが生えるのは良くある話らしい。

 まぁ、日本中が誰かの土地なのだから当たり前か。


 その場合、ダンジョンの所有権は土地の所有者にあるらしい。

 ただし、ダンジョンを所有するのであれば、そのダンジョンからモンスターが出て来ないように管理する必要がある。


 丈二の家に生えたダンジョンに関しては、今のところモンスターは居ない。

 この点に関しては問題はなさそうだ。


 所有する土地にダンジョンが生えてしまった場合は、その土地ごと国に譲る。

 もしくは、ダンジョンの核を壊せば、ダンジョン自体が消滅するらしい。

 そのどちらかを選択する場合がほとんどらしい。


 丈二は縁側に座って考える。

 このダンジョンをどうするべきか。


「……このダンジョン、凄くありがたいんじゃないか?」


 モンスターが居る様子もない。

 つまりは安全だ。

 中は十分に広く、おはぎたちの遊び場として丁度いい。

 このダンジョンがあれば、わざわざ引っ越す必要もない。


「そうだ。どうせだったら」


 丈二はモンスターパークを思い出す。

 たくさんのモンスターが集まって遊べる場所。

 あんな雰囲気を目指して、中を整備していきたい。

 もちろん、今すぐには難しいだろうけど。

 たくさんの友だちを呼べるようになれば、おはぎも喜んでくれるかも。


「よし、モンスターパーク、だと被るから……」


 丈二は空を見上げる。

 朝日が輝いていた。


「モンスター牧場でも目指してみるか!」

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