第33話 庭に木を

「やっぱり、わが家が一番だ」


 加賀を捕まえた後。

 丈二たちはホテルにもう一泊してから、家に帰っていた。


 外は暗い。

 だが空にはキレイな月が上っている。

 優し気な月明かりが庭を照らしていた。


「先輩はクシナダのホテルに行ってたんですよね」


 牛巻が晩御飯のからあげを持ってくる。

 じゅうじゅうと音を立てている。

 揚げたてだ。


「そうだ。牛巻は温泉に行ってたんだっけ?」

「そうですよ。先輩に貰ったお金を使って、護衛の人と一緒に行ってました」


 牛巻には、とりあえずお金を送金して避難して貰っていた。

 ついでに半蔵さんに頼んで、護衛の探索者も付けてもらっていた。


「なかなか良い休暇でしたよ」


 満喫したらしい。

 いつもより、肌がつやつやしている気がする。


「でも犯人が逮捕されるまでは、ずっと俺たちの心配してたって、護衛の人が言ってたぞ」


 牛巻の護衛の雇い主は丈二。

 最後に報告として、護衛中の様子を聞いていた。

 彼女によると、牛巻は丈二たちを心配してソワソワしていたらしい。


「な、あの子そんなこと言ったんですか!? 違いますからね。”おはぎちゃんたちを”、心配してたんです。先輩の事なんて気にしてません!」


 素直じゃない後輩だ。

 丈二は唐揚げをほおばる。

 

 丈二たちが話ている間も、おはぎたちはガツガツと食べている。

 そして、からあげを食べているぜんざいの隣には。


「しかし、おっきいスライムですね」


 ふわふわと体の中に唐揚げを浮かべているスライムが居た。

 ぼんやりと何処かを眺めている。

 なにを考えているのか、あるいは何も考えていないのか。


「この子の名前は何にするんですか?」

「……寒天?」

「やっぱり、そういう方向性なんですね」


 牛巻はあきれながら、ぽんぽんと寒天の頭を撫でた。

 ぷるんぷるんと寒天の体が震える。

 抵抗する様子もない。 


「……モンスターって、こんなにポンポン懐くものなんですか?」

「さぁ?」


 牛巻が疑問を口にするが、丈二にも分からない。

 丈二に特殊な才能があったのか。

 あるいは――丈二はおはぎを見る。


 おはぎの力。

 おはぎはナメクジを消し去ったりと、不思議な力があるような気がする。

 モンスターが懐くのも、おはぎのおかげだと考えたほうが自然な気がした。


「ぐる!?」


 ガツガツと唐揚げを食べていたおはぎ。

 しかし、バッと顔を上げた。

 そしてダダダっと縁側に走る。

 カリカリと窓を引っかいていた。


「ど、どうした? 外に出たいのか?」


 丈二が窓を開ける。

 おはぎは庭に飛び出すと、穴を掘りだした。

 そして、


「え、トイレ?」


 おはぎはトイレをしている時のような体勢をとる。

 もちろんトイレは中にもある。

 猫用の物を利用している。

 いつもはそこでしているのだが……。


「ぐるぅ♪」


 おはぎはスッキリした様子で、穴を埋める。

 

「……なんだったんだ?」

「そういう気分だったんじゃないですか?」


 のんびりとしている牛巻。

 外でトイレがしたい気分って、なんなんだ。


 おはぎは何事も無かったかのように家に入ると、再び唐揚げを食べ始めた。


「うーん」


 今まで見たことがない行動だ。

 もしかしたら、ドラゴン固有の生態だったりするんだろうか。

 丈二は首をかしげた。



 

 次の日の朝。

 ぴんぽーん!

 チャイム音で丈二は目を覚ました。


 時計を見ると、まだ朝の5時だ。

 こんな時間になんの用事なのか。

 丈二は重いまぶたを持ち上げながら、玄関へと向かう。


 がらがらと扉を開くと、そこに居たのは近所のおばあさんだ。

 たしか、朝早くから散歩に行く習慣のある人。


 おばあさんは慌てた様子で、庭の方を指さしている。


「あ、あんた、庭! 庭を見たかい!?」

「……庭ですか?」


 丈二は指さす方を向く。

 そこには――結晶のような透明な木。


 ダンジョンの入り口が生えていた。

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