第30話 友だち

 次の日。

 丈二たちは刑部おさかべと待ち合わせをしていた。

 おはぎとぶんぶくを遊ばせるためだ。


 本当はコラボ配信もしたかった。

 だが今は何者かに狙われているかもしれない。

 居場所を知らせるようなことは避けた方がいい。

 もう少し落ち着いてからにしようとなった。


 さっそく丈二たちはダンジョンへと向かった。

 クシナダ内にある、モンスターパークがあるダンジョンだ。

 しかし、中に入ると目に入る物がある。

 大きなステージだ。


「なにかイベントでもやるのかな?」


 たくさんのスタッフが、荷物を運んでいる。


「どうやら、ショーをするみたいですね」


 半蔵が説明してくれる。

 なんでも探索者をモチーフとしたヒーローショーらしい。

 言われてみれば、子供が多いような気がする。


 今日は祝日だ。

 親子連れで来ている人が多いのだろう。


「おはぎも興味あるかな?」


 おはぎは動画などを流していると、ジッと見ていることがある。

 内容を理解しているのかは分からない。

 だがおはぎは頭が良いので、理解していると丈二は思う。


「ぐるぅ?」


 ヒーローショーがなんなのか分からないようだ。

 見たことがないのだから当たり前だろう。

 試しに、始まるころに戻ってきて見せてみよう。


「始まるころに、また来てみようか」


 丈二たちはとりあえず待ち合わせ場所に向かうことにした。


 立ち去るとき。

 ぜんざいは何かを気にしたように、ステージを見つめた。

 しかし、すぐに目線を外す。


「ぼふ」


 『気のせいか……』ぜんざいはあっさりと丈二に付いてきた。




 

 モンスターパークの中。

 待ち合わせ場所に向かうと、すでに刑部たちが待っていた。


 芝生の上に座った刑部は、ぶんぶくのお腹をなでている。

 刑部は丈二たちに気づくと、空いている手を上げた、


「あっ、丈二さ――!!」


 刑部は丈二たちを見て、ハッと目を見開く。

 正確に言えば、丈二とその隣にいる半蔵を見て。


「くたびれたおっさんと、Sっぽいイケメンの組み合わせ……ぐへへ最高ですね」


 刑部はだらしのない笑みを浮かべて、ぐへぐへと笑っている。

 一人でトリップしてしまったらしい。


 半蔵は苦笑いを浮かべている。


「……なかなか癖の強い方ですね」

「なんかすいません」


 少し気まずい空気が流れた。

 刑部はケモノ系が好きな人だと思っていた。

 まさか生ものだけでも行けるとは……。


 とりあえず、刑部の意識を戻そう。

 丈二は声をかける。


「刑部さん! 戻って来てくれるかな!!」

「おっと、すいません」


 丈二が大きく声をかけると、刑部はあっさりと戻って来た。

 もしかするとよくある事なのかもしれない。


 飼い主たちが会話している間に、おはぎとぶんぶくは近寄っていた。

 ぶんぶくはおはぎの匂いをくんくんと確かめている。

 おはぎの方は見た目で分かっているようだ。

 だが、ぶんぶくは匂いで判断しているのかもしれない。


「きゅーん!」


 匂いでおはぎだと分かると、ぶんぶくは嬉しそうに鳴いた。

 そしておはぎの首元に体をこすりつけている。


「ぐるぅ!」


 おはぎも嬉しそうにしている。


「さて、今日は二匹のために、こんなおもちゃを持ってきました」


 刑部が取り出したのは太めのロープだ。

 モンスター用のおもちゃコーナーで見た気がする。

 刑部はそのロープを二匹の間に置く。

 ぶんぶくは遊んだことがあるようで、そのロープの端を噛んだ。


「ぐるぅ?」


 『こうするの?』おはぎも反対側を噛む。

 それを見ると、ぶんぶくはロープを引っ張り出した。

 おはぎも負けなように引っ張る。


 犬なんかがやる引っ張り合いの遊びだ。


「きゅん!」


 ぶんぶくは機敏に体を動かして、引っ張っている。

 それに対して、おはぎはどっしりとしている。

 さすがはドラゴン。

 地力が違うのだろう。


「きゅん!!」


 ぶんぶくはロープを引っ張りながら、おはぎの周りをまわる。

 おはぎはそれに合わせて体を回す。

 ぐるぐると何回転もする二匹。


「ぐ、ぐるぅ」


 なんと、おはぎは目が回って来たらしい。

 ふらふらとしている。

 これはぶんぶくの作戦なのか。

 だとしたら作戦勝ちだろう。


「おはぎちゃんも頑張って! 頑張った子にはおやつをあげるよ!」

「ぐ、ぐるぅ!」


 おはぎはおやつの言葉に反応する。

 そしてパタパタと背中の羽を動かした。

 ふわふわと浮いていくおはぎ。

 それに吊られるように、ぶんぶくも地面から足を離す。


「きゅん!?」


 まさか小さいぶんぶくちゃんとは言え、持ち上げることができるとは。

 丈二は驚いた。


「ぐるぅ!」


 『どうだ!』と言わんばかりにおはぎはパタパタと飛び回る。

 それに振られて、ぶんぶくもゆらゆらと揺れていた。


「きゅーん!」


 ぶんぶくはそれはそれで楽しそうにしていた。

 喜んでいるぶんぶくを見て、おはぎも嬉しそうに飛び回る。


「なんだか、勝負してたことなんて忘れたみたいですね」


 ふらふらと飛び回る二匹を見て、丈二は暖かい気持ちになった。

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