第29話 お風呂

「まさか、本当に走って追いつくとは……」


 クシナダの前へとやって来た丈二たち。

 半蔵は本当に走ってぜんざいに追いついていた。


 しかも二人に息が上がったような様子はない。

 体力を温存して走っていたのだろう。

 ぜんざいは乗っている丈二とおはぎに配慮していたのもあるかもしれない。


 半蔵はどこか清々しい顔をしている。


「ぜんざいさんは流石ですね」

「ばう」


 『お前もな』ぜんざいと半蔵はお互いを認め合うように顔を合わせた。

 新しい友情が生まれている。


「とりあえず、ホテルに荷物を置いてきましょうか」


 ぜんざいの背中には、丈二の着替えや、おはぎたちのおやつなどが入った荷物がせられていた。

 その荷物を置くためにも、丈二たちはホテルに向かう。


 ホテルはなかなかの大きさ。

 内装も豪華だった。

 だがその割には安めの部屋も多く、丈二はぜんざいが寝れる程度には広い部屋を予約していた。


 問題なくチェックイン。

 丈二たちは部屋へと案内された。

 ちなみに半蔵は隣室を予約。


「ぐるぅ?」


 『これはなに?』部屋に入ると、おはぎは不思議そうにベッドを見る。

 丈二の家では敷布団だ。

 初めて見るベッドに興味を示している。


「これは寝る場所だよ。ちょっと乗ってみるかい?」


 丈二はおはぎの足を塗れタオルで軽く拭く。

 それからベッドの上に乗せた。


「ぐるぅ」


 ベッドのふかふかとした触感が不思議なようだ。

 なんども足踏みをしてその感触を確かめている。


「ぜんざいさん用のベッドもあるのか」


 隣には低いベッドが用意されていた。

 犬用のベッドを巨大にしたような感じだ。


「ぼふ」


 『悪くない』ぜんざいはベッドに横たわる。

 ぎりぎり体が収まっていないが、なんとか眠れるだろう。


 どうせならモンスターパークに遊びに行こうかと思っていた。

 だが二匹とものんびりモードに入っている。

 今日のところはゆっくりするかと、丈二は思った。


「どうせなら、お風呂にでも行きますか?」


 部屋に付いているお風呂の事じゃない。


 このホテルには大浴場がある。

 そこもモンスターと利用して良いらしい。

 広いためぜんざいでも問題なく入れる。


 まだ時刻は夕方。

 今なら利用者も少ないだろうから、いている。

 今のうちに入るのも良いだろう。


「ぼふ!」


 『行こうか!』ぜんざいが飛び起きる。


「ぐるぅ」


 おはぎもパタパタと羽を動かして、丈二の腕へと飛んできた。





 浴場へと向かうと、思った通り人は居なかった。

 貸し切り状態だ。

 ちなみに半蔵は何か用事があるらしく、どこかに行っている。


 丈二はぜんざいやおはぎの体を流して、さっそく湯船に入る。


「がるるぁ」


 体の中の疲れを吐き出すように、ぜんざいが鳴いた。


「ぐるぅ!」


 おはぎの方は大きなお風呂に大興奮だ。

 パシャパシャと犬かきで泳ぎ回っている。


 少しの間、のんびりと湯船につかる。

 静かな空間に、水音とおはぎの泳ぐ音だけが響いていた。

 

「ぼふ?」


 『あれはなんだ?』ぜんざいが何かに興味を示していた。

 その目線を追うと、そこにあったのはジェットバス。

 ぶくぶくと泡があふれている。


「あれはジェットバスですよ。あの泡が気持ちいんです」

「ばう」


 『入ってみる』ぜんざいはのそのそと風呂から出ると、ジェットバスに近づいた。

 丈二もおはぎを抱き上げて、そちらに向かう


「ぼふ!」


 『これも良いな!』ぜんざいは一足先にジェットバスにつかる。

 ジェットバスは、噴出される空気が軽いマッサージ効果を生んでいたはずだ。

 ぜんざいは気持ちよさそうに目を細める。


「俺たちも入ろうか」


 丈二はおはぎを連れてジェットバスに入った。

 噴き出る空気が体をほぐしてくれる。

 気持ちが良い。


「ぐるぅ?」


 おはぎは丈二に抱っこされたまま、水面を見る。

 噴き出る泡が気になるようだ。

 ボコボコと動く水面を、ぺしぺしと叩いていた。


 その後も丈二たちは、いくつも種類があるお風呂を巡っていく。

 結局、一時間ほどゆっくりとしてから撤収することにした。


「ぜんざいさん、待ってください」

「がう?」


 浴場から出る前。

 体を振るわせようとしたぜんざいを、丈二は止めた。


「そのままだと、周りに水が飛び散りますから」


 丈二は魔法を使うと、ぜんざいの周りにバリアを張った。

 そしてぜんざいはぶるぶると体を震わせる。

 ばしゃばしゃと飛び散る水は、バリアに当たって留まった。


「これで良いですね」

 

 丈二はバリアを解く。


 そして、ぜんざいは自身に向かって魔法を使う。

 ぜんざいの周りに風が巻き起こり、少しずつ毛が乾いていく。


 シャンプーをしてもらった後に、考えた方法だ。

 ぜんざいの魔法を使えば、多少時間はかかるが一人でも毛を乾かせる。


「シャンプーは無理でも、水浴びくらいならできそうですね」

「ぼふ!」 


 ぜんざいは嬉しそうに鳴いた。

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