第24話 モンスター友だち

「腕が痛い……」


 しばらく遊んだ後。

 丈二は腕の筋肉をもみほぐしながら呟いた。


 結局、何十回とフリスビーを投げ続けた。

 丈二がこんなに運動したのは久しぶり。

 すぐにへとへとになる体に、少しだけ加齢を感じていた。


「ぐるぅ」


 さすがのおはぎも満足したのか、今はぜんざいの隣で丸くなっている。

 ダンジョン内は天気も良い。

 のんびりと昼寝をするのも良いだろう。


「あ、やっぱりここでしたか!」


 そんな事を考えていた丈二に声がかかった。

 そこにいたのは、おやつを買ったお店の女の子。

 店の制服は脱いで私服姿だ。

 ちょっとフリフリした女の子らしい感じ。

 だが派手というわけではなく、図書館で本でも読んでそうな落ち着いた雰囲気だ。


 その足元には大きめのタヌキが付いてきていた。

 モンスターだろう。

 丈二は、そのタヌキをどこかで見たような気がした。


「さっきの店員さんですよね。どうかしましたか?」

「ここに来るんだろうなと思って。良かったら、おはぎちゃんにこの子と遊んでもらえませんか?」


 女の子が足元のタヌキに目を向ける。

 タヌキはくんくんと鼻を鳴らしながら、おはぎに近づいた。

 おはぎもそれに気づいて、同じように相手の匂いを確認している。


 大丈夫だろうか。喧嘩にならなければいいが。

 丈二は二匹の動向に注意する。

 しかし、そんな心配はいらなかったようだ。


 二匹は鼻を軽く触れさせる。


「きゅーん」


 タヌキが甲高い鳴き声を上げる。

 敵対的な感じではない。


「ぐるぅ」


 おはぎも嬉しそうに鳴いた。

 どうやら仲良くやれそうだ。


「きゅんきゅーん!」

「ぐるぅ!」


 タヌキが走り出すと、それを追いかけておはぎも走り出した。

 追いかけっこだろう。

 とりあえず、二匹で楽しく遊べそうだ。


「仲良くしてくれて、ありがとうございます」

「こちらこそありがとうございます。おはぎには友だちがいないので、本当にありがたいですよ」


 女の子がハッと何かに気づく。


「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね!」


 女の子はぺこりと頭を下げた。


「私は丈二さんと同じくペット系の動画投稿をしている『茶釜ちゃがま』です。本名は『刑部茶々おさかべちゃちゃ』。好きなように呼んでください」


 茶釜という名前を聞いて、丈二は思い出した。

 おはぎの動画投稿始める前。

 まだ社畜として厳しい毎日を送っていたころ。

 たまに覗いていた動画の投稿者さんだ。


 だから刑部が連れているタヌキを見た時に、既視感があったのかと丈二は納得した。


「じゃああの子が『ぶんぶく』ちゃんですか!」

「あ、私の動画見てくれてるんですね。ありがとうございます!」


 丈二はぶんぶくを見る。

 ぶんぶくとおはぎは、ぜんざいの体によじ登りながら追いかけっこをしている。

 いつも画面の向こうで見ていた存在が目の前に居るのは、不思議な感覚だ。


「あの、おはぎちゃん達の写真を撮ってもいいですか?」

「写真ですか? 良いですよ」

「ありがとうございます!」


 刑部はさっそくスマホを構えると、カシャカシャとおはぎたちを撮りだした。

 その眼は見開かれている。

 徹夜明けのギンギンとした感じ。


「ぐへへ、純真ショタも俺様系おじいちゃんも良いですね……さすがに絡ませるのはムリがありそうですけど」


 なにやらブツブツと言っているが、丈二には聞こえない。

 聞こえないったら聞こえない。

 時には耳を閉ざすことも大事なのだ。


 刑部の目が、チラリと丈二を見る。

 その目は腐っていた。


「……でも丈二さんとなら」


 ヤバい照準が丈二を捕らえた。

 このままでは刑部の発酵はっこう餌食えじきだ。

 意識をそらさねば。


「……あの、ところでお店の方は大丈夫なんですか?」


 まさか経営者と言うことはないだろう。

 だが先ほど行った時点では、店を回していたのは彼女だけだった。

 離れていても大丈夫なのだろうか。


「あの店は私のお父さんが経営してるんです。さきほど、お父さんも帰って来たので」


 なるほど、お父さんの手伝いをしていたのか。

 丈二は納得する。


「偉いですね。お家の手伝いなんて」

「そんなことないですよ。ちょっとレジ打ちするくらいですから」


 丈二と刑部が話をしていると。


「ばう!」


 『どうにかしろ!』ぜんざいが大きく鳴いた。

 おはぎとぶんぶくが、ぜんざいの顔のあたりでじゃれあっている。

 わちゃわちゃとして、ぜんざいはうっとおしそうにしていた。

 お腹のあたりはともかく、顔の付近で遊ばれると気になるならしい。


「ぜんざいさん、すいません。おはぎ、こっちで遊ぼうな」

「ほら、ぶんぶくも」


 二人は二匹をぜんざいから下ろす。

 二匹は再びじゃれあい始めた。


「そういえば、ぜんざいさんはちょっと汚れてますね」

「そうなんですよね……家で洗おうと思っても、この大きさだとなかなか……」


 この大きさでは丈二一人で洗うのは骨が折れる。

 そう考えると、なかなか洗えないでいた。


「それだったら、ここのペットサロン使うと良いですよ。これくらいの大きさなら何とかなるはずです」

「おお、それはありがたいですね!」


 大きさ的に断られると決めつけていた。

 なんとかなりそうなら、行ってみよう。

 丈二たちはペットサロンに向かうことにした。

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