第23話 モンスターパーク

 買い物を終えた丈二たちは、ダンジョンの入り口に向かった。

 デパートの中央。半透明の木へと近づく。


 丈二がダンジョンに入るのはこれで二回目。

 まだ少し緊張するが、さすがに初回ほどの緊張感はない。

 

 丈二が木に触れる。

 景色が変わった。


 空には太陽らしきものが浮かんでいる。

 ぽかぽかと丈二たちを照らす。


 そこは自然公園のような場所だった。

 芝生におおわれた地面。

 まばらに木々が生えている。


 少し広めの場所には人工物があった。

 東屋やベンチ。

 木製の遊具まで置いてある。


 少し異常な点としては、遠くに見える壁だ。

 周辺をぐるりと囲んでいる。

 コンクリートと、大きな窓ガラスの壁。


「まさに公園って感じだ。ぜんざいさん、ここなら元に戻っても大丈夫ですよ」

「ぼふ」


 『そうさせてもらう』ぜんざいの体がみるみるうちに大きくなる。

 元々の大型の乗用車くらいの大きさに戻った。


 物珍しそうにぜんざいを見ていた人々は、それを見てぽかんと口を開けていた。

 それはそうだ。

 ただでさえ大きかった狼が、さらに巨大化したら驚くだろう。


「ぐるぅ?」


 『遊ぶの?』おはぎが尻尾を振る。

 早く遊びたいのだろう。

 だが、ここでは一般の利用者もいるため危険がある。


「もうちょっとだけ待ってね」


 丈二はおはぎを抱き上げる。

 

 ドッグランのように、モンスターを遊ばせる場所があるはずだ。

 近くにあった案内図を見て、丈二は進んで行く。


 公園の端っこ。

 壁の近くに、人だかりができている。

 壁に付いた大きな窓から、壁の外を眺めているらしい。


 そのあたりには大きなゲートがある。

 そこから中を覗く。

 中には様々なモンスターが歩いているのが見える。

 あそこが目的地だ。


「うぉ! デケェ!?」「おっきいワンワン!」「ドラゴンだよ!?」「すごいわねー」


 壁の近くの人々は、おはぎたちを見て興奮していた。

 モンスターを見に来た人々なのだろう。


 ゲートに近づくと、そこには警備員らしきお兄さんが居た。

 腰には剣をさしている。

 お兄さんは人当たりの良い笑顔を浮かべた。

 遊園地のキャストさんみたいだ。


「いらっしゃいませ。『クシナダ・モンスターパーク』のご利用は初めてですか?」

「はい。初めてです」

「それでは、簡単に当施設の説明をさせていただきます」


 お兄さんはパンフレットを使って説明をしてくれた。

 パークの利用は無料。

 その代わり、一般の来場者がモンスターを観覧することに同意すること。


 なんでも来場者がモンスターを観覧できる通路があるらしい。

 そちらは有料。

 その費用がパークの運営費として使われているとか。


 パーク内にはモンスターと遊べる広場の他にも施設がある。

 トリミングサロン、訓練場などがあるらしい。

 それらも全て無料。


 安全にモンスターが見れるところなんて限られている。

 それだけ儲かっているのだろう。


「分かりました。利用規約に同意します」

「それでは、こちらに記入をお願いします」

 

 お兄さんがタブレット端末を渡してくる。

 丈二は住所や氏名、規約への同意をする。

 タブレットを返却した後、少しだけ待つとICカードを手渡された。


「次回ご利用の際には、そちらのカードを提示してください」

「分かりました」

「それでは、どうぞお楽しみください」


 丈二たちはゲートの中に入っていく。


 中には様々なモンスターが居た。

 大型犬くらいのトカゲ、わたあめのように丸々とした羊、でっかいハムスター、少し大きめのフクロウなどなど。

 多種多様なモンスターたちが遊びまわっている。


「ぐるぅ?」


 おはぎも目を真ん丸にして、周りを見渡している。

 たくさんのモンスターに驚いているようだ。


 おはぎと遊んでくれる子がいないかと、少し歩いてみたのだが。


「に、逃げられる……」


 おはぎが、と言うよりもぜんざいが近付くと、ササッと逃げられてしまう。

 ぜんざいほど巨大なモンスターは他に居ない。

 威圧感を与えてしまっているのだろうか。


 ぜんざいを放って、おはぎと歩き回るのも良くないだろう。


「仕方ない。俺と遊ぼうか」

「ぐる!」


 おはぎが嬉しそうに鳴いた。

 友だちが出来ないのは可哀そう。

 そう思ったが、おはぎは特に気にしていないようだ。


 丈二はフリスビーを取り出す。


「おはぎ、これを取ってくるんだよ?」

「ぐる!」


 『分かった!』おはぎは元気よく鳴いた。

 

 丈二はフリスビーを構えて勢いよく飛ばす。


「ぐるぅ!」


 ダッ!

 おはぎは勢いよく駆け出した。

 たったったっと軽やかに走り抜けると、ぴょんとフリスビーに飛びつく。

 器用に口でフリスビーをキャッチすると、嬉しそうに丈二のもとに帰って来た。


「流石だなおはぎー」


 丈二はフリスビーを受け取る。

 そしてよしよしとおはぎの頭を撫でた。


「ぐるぅ!」


 『もっと!』おはぎは丈二の膝にしがみつく。

 尻尾はぶんぶんと振られている。

 なかなか楽しいようだ。


「よし、もう一回だな!」


 丈二はもう一度フリスビーを構えて投げる。

 同じようにおはぎが走り出す。


 二人の様子を見ていたぜんざい。

 くぁーと大きなあくびをすると、ドテンとその場に横たわる。


 老犬はフリスビー遊びには興味がないらしい。

 のんびりと日向ぼっこをはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る