第22話 複合施設とおやつ

「ここが『クシナダ』かー」


 丈二は、駅前に建てられた大きなデパートを見上げる。

 その手には二本のリード。

 リードの先にはライオンくらいの大きさに縮まったぜんざいと、その背中に乗ったおはぎが居る。


「ぐるぅ?」


 『ここは何?』とおはぎが丈二を見上げた。

 

「ここに、おはぎたちが遊べる場所があるんだって」


 河津先生に勧められてここに来た。

 ここにはモンスターたちを遊ばせられる、ドッグランのような場所があるらしい。

 

 そこでおはぎが遊べる友だちを見つける。

 さらにモンスターを飼育している先輩たちとも知り合える。

 モンスターの飼育に関して、気軽に相談できる相手が出来たら心強い。


「さっそく入ってみようか」


 丈二が足を進めると、二匹が付いてくる。

 中は普通のデパートだ。

 ずいぶんと規模は大きいが。


 だが特殊な点が一つある。

 店の中央。

 吹き抜けとなった場所に、大きな木が生えている。


 結晶で作られたような半透明の木。

 ダンジョンの入り口だ。


「本当に店の中にダンジョンがあるんだなぁ」


 あのダンジョンは、非常に珍しい安全なダンジョンらしい。

 中には弱いモンスターしか出現しないとか。 


 そんな理由もあって、ダンジョンの入り口は自由に解放されている。

 さきほどから、私服姿の観光客らしき人々が出入りしているのが見える。

 内部には警備があるが、わりと自由に見て回れるらしい。


 あの中に探索者向けの訓練場や、おはぎたちが遊べる場所もあるとか。


「どうしようか、さっそく入っても良いが……少し買い物しようか」


 デパートの内部には、探索者向けの店も多い。

 モンスター向けのおやつ、おもちゃ等も売っていたはずだ。


「おやつでも買いに行くか?」

「ばう!」


 『行こうか!』ぜんざいがブンブンと尻尾を振る。

 ぜんざいの食への探求心はすさまじい。

 なんなら、おはぎよりも食い意地が張っているかもしれない。


「そ、それじゃあ行ってみようか」


 丈二はスマホで案内図を見ながらデパートを進んで行く。

 ときおりスマホを向けられているのが分かる。

 おはぎのファンか、あるいは大きな狼であるぜんざいが珍しいのか。


 勝手に撮られるのは、いい気分ではない。

 だがペットに肖像権はないため、あまり強くも言えない。

 有名税と思って我慢するしかないだろう。


「ん、ここみたいだね」


 その店には、スライムの看板がかかげられていた。

 ぷるぷるとした感触が表現されている。

 やはり、モンスターと言えばスライムのイメージなのだろうか。


 店内にはおやつやおもちゃが並べられている。

 どちらも、普通のペットには見られないような大きさの物も見える。


「ぼふ!」


 ぜんざいはずかずかと進んで行く。

 それに引っ張られるように、丈二も店に入った。


 まっすぐに向かたのはおやつコーナー。

 ジャーキーや骨ガムのようなものが並べられている。

 ぜんざいはクンクンと鼻を鳴らしながら、それらを物色していく。


「ぐるぅ」


 おはぎはパタパタと羽を動かして、高い位置から店内を眺める。

 おもちゃコーナーが気になるようだ。


「おもちゃも後で見に行こうか、先におやつを選んじゃおう」

「ぐるぅ!」


 『分かった!』おはぎはぜんざいと一緒におやつを見た。


 最終的に、ぜんざいは高級なビーフジャーキー。

 おはぎはマグロ味のペースト状のおやつを選んでいた。


 続いて向かったのはおもちゃコーナー。


「ぐるぅ」


 おはぎは真剣な目つきでおもちゃを眺める。

 いっぽうのぜんざいは、興味なさそうにあくびをしていた。


 こちらでは室内用のおもちゃを数点。

 それとこのあと使う用に、フリスビーも選んだ。


 選んだものをレジに持っていく。

 レジに立っていた高校生くらいの女の子は、キラキラした目でおはぎたちを見ていた。


「いらっしゃいませ! おはぎちゃん達に来ていただけるなんて! とっても嬉しいです!」

「あはは、そう言っていただけると、こちらも嬉しいです」


 どうやらおはぎたちのことを知っているようだ。

 かごを乗せると、女の子は商品をレジに通しながら話す。


「あの、良ければおはぎちゃんの手形を取らせていただけませんか?」

「手形ですか?」

「はい、サインみたいな感じで。手にインクを付けてペタッと」


 なるほど、赤ちゃんの手形を取るようなものか。

 サイン代わりにおはぎたちの物が欲しいのだろう。

 それくらいなら良いだろうか。


「おはぎ、ちょっと手が汚れるけど良いか?」

「ぐるぅ」


 『良いよ』と返事をする。

 ちょっと上の空。

 それよりも、遊びに行くことに意識が向いているようだ。


「良いみたいです」

「ありがとうございます! おまけにおやつ付けておきますね」


 おやつと聞いて、ぜんざいの耳がピクリと動いていた。

 無事に購入が済んだ後。

 女の子は色紙と、スタンプ用のインクを持ってきた。


 それを床に置く。


「ぐるぅ?」


 丈二はおはぎの手を取って、インクを付ける。

 そのまま色紙にぺたりと押し付けた。


 綺麗な足跡が色紙に付いている。

 汚れたおはぎの手を軽く拭く。


 すると、ぜんざいも手を伸ばして、自身の肉球にインクを付けた。

 そして、おはぎの足跡の邪魔にならないように、自身の足跡を付けた。


 二人の足跡が並ぶ。


「がう」


 『礼だ』ぜんざいは前足を丈二に差し出す。

 おやつのお礼のつもりなのだろう。

 丈二はぜんざいの前足も拭いた。


「ありがとうございます! お店に飾りますね!」


 女の子は色紙を持って、嬉しそうに笑っていた。

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