第20話 狼って軽車両あつかいで良いの?

 「……どうしよう」


 丈二たちは、ぜんざいの飼育登録をするために役所に向かおうとしていた。

 しかし、それには一つ問題がある。


 どうやってぜんざいを連れていくか。


 丈二の家から役所は少し距離がある。

 歩くには微妙な距離だ。

 おはぎの時は、公共の交通機関を利用した。

 だがぜんざいを連れて、バスなりタクシーなりはムリがある。


 やはり頑張って歩くしかないだろうか。

 丈二がそんなことを考えていると。


「ぼふ」


 『私に乗れ』ぜんざいがそう言ってくる。

 たしかに、ぜんざいほどの体の大きさがあれば、丈二を乗せて走ることはたやすいだろう。

 

 だが、それはそれで問題がある。


「モンスターに乗って移動して良いんだろか……」


 丈二はスマホを取り出した。

 とりあえず検索してみる。

 

 どうやら、馬なんかは自転車と同じ、軽車両あつかいらしい。

 モンスターに関しての明確な法律は無い。

 だが馬と同じようなものだと解釈して、モンスターに乗って公道を走っている人がいるらしい。


 現状では、その人は捕まったりはしていないようだ。

 ならば、ぜんざいに乗って走っても問題ない。だろうか?


 悩んでいても仕方がない。

 ぜんざいに乗って走ってみたい気持ちもある。

 丈二は不安を振り切って、ぜんざいに乗って出かけることを決めた。


 丈二は出かける準備を済ませると、おはぎと一緒にぜんざいの背中に乗る。

 毛は少しだけごわついている。

 近くで見ると汚れが目立つ。帰ったら洗ってあげよう。


 乗ってみると、改めて丈二は疑問に思う。

 ぜんざいは本当に”軽”車両あつかいで良いのだろうか。

 下手な自動車よりも大きい。


 まぁ、車両のあつかいに関しては、原動機が付いているかどうからしいので、大きさは関係ないのだろうが。


「がう」


 『行くぞ』ぜんざいはテクテクと歩き出した。

 いきなりスピードを出すと危ない。

 人にぶつかったら大惨事だ。ぜんざいなら避けられるかもしれないが。

 なので、最初はゆっくり歩くように丈二がお願いしていた。


「向こうに行きましょう」


 丈二が誘導する。

 向かった先は土手沿いだ。


 今の時間帯なら出勤、通学、朝の散歩などを終えて人通りは少ない。

 少しくらい速度を出しても大丈夫だろう。


 ぜんざいは土手に上る。

 思った通り、見える範囲には人が居ない。


「ぜんざいさん、少しだけ走ってください」

「ぼふ」


 『分かった』ぜんざいは走り出す。

 たったったっ、と子気味のいい音を鳴らして。


 自転車を全力でこいでいるくらいの速度は出ている。

 暖かくなってきた春の空気が頬をなでる。


「ぐるぅ!」


 丈二の前に乗っているおはぎ。

 おはぎも気持ちよさそうに風を受けていた。


 これなら、あっという間に目的地に着きそうだ。





 役所での手続きを無事に済ませた後。

 丈二たちはおはぎを診てもらっている動物病院にやって来ていた。


 ぜんざいを病院の中に入れるのは難しかったため、駐車場に寝転がりながら診察されている。


「うん。問題はないようだね。傷は残ってない。食べ物も人間が食べれる程度の物なら問題無いよ」


 先生はそう言って、ぜんざいのお腹をなでた。


「おはぎちゃんのほうも、急激に成長したと言っていたけど身体に影響はない。いつも通りの健康体だ」


 先生はうんうんと、うなずいている。


「ありがとうございます。安心しました。それとすいません。頻繁に来てしまって」


 ちょっと頻繁に病院に来すぎかな。

 それは丈二が思っていた不安だ。

 あんまり来すぎると迷惑じゃないだろうか。


「心配なことがあったら、いつでも来ると良いよ。モンスターを診てくれる獣医なんて少ないだろうからね」


 先生は当たりまえのように言った。


 丈二は前々から疑問だったのだが、この先生は何者なのだろうか。


 丈二が初めて行った動物病院は別の場所だった。

 そこの獣医はモンスターの診察はやりたくなさそうな感じだった。

 単純に専門外。なにかあったときに責任が取れないためだろう。


 代わりに紹介されたのが、この先生だった。


「うん? 僕の顔になにか付いているかな?」

「いえ。なんでモンスターも診察できるのかと思って……」

「ああ、そのことか」


 先生は特に嫌な顔をするでもなく、淡々と答えた。


「僕はもともとモンスターの研究をしていたんだよ。大きな動物病院に勤めながらね。ただ、研究に没頭していたら、うっかり病院の政争に巻き込まれてしまってね。人間関係が嫌になって、自分で病院を開いたのさ」


 なるほど。丈二は納得する。

 そんな人が近場に動物病院を開いてくれていたのはラッキーだ。


 やはり、引っ越すにしてもあまり遠くに行くのは微妙かもしれない。

 この先生ほど信頼できる人が居るとは、丈二には思えなかった。


「こんにちは、丈二さん」


 聞き覚えのあるクールな声で呼ばれた。

 振り返ると、そこに居たのは半蔵だ。


「半蔵さん? どうされたんですか?」

「ギルドのお使いです。河津かわづ先生に用事がありまして」


 河津はおはぎたちを診てくれている先生の名前だ。

 病院の名前も、『河津動物病院』。


「ちょうど良かった。丈二さんにも見てもらいましょう」


 そう言って、半蔵は懐から小さな瓶を取り出す。

 それは何かの液体が満たされていた。

 そして液の中に、なにかがある。


 河津先生はそれをジッと見つめる。


「ナメクジに似ているよね」


 たしかに、見た目は青白く発光するナメクジだ。

 それがプカプカと浮かんでいる。


「先日倒した人狼。その死体から出てきたものです」

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