第18話 新しい家族と疑問

「ぐるぅぅぅ!!」


 おはぎはバサバサと翼をはばたかせて、ゆっくりと着地した。


「うお、風圧がすごいな」

「ぐるぅ」


 大きくなったままのおはぎは、その顔を丈二にこすりつけてくる。

 鼻先をなでると、嬉しそうに喉を鳴らしていた。


『デカくてかっこいいドラゴンが甘えてるの可愛い!』『大きくなってもおはぎは最高や!』


「よしよし……これ、戻るんだよな?」


 大きいままじゃ家にも入れない。

 本当に元に戻ってくれるのか、丈二が不安に思っていると。


「ばう」


 『じきに戻る』と大狼が鳴いた。

 その言葉の通り。

 ぼふんと黒い煙をまき散らすと、おはぎの姿が戻った。


「ぐる? ぐるぅ……」


 おはぎは残念そうにしている。

 大きくて強いことに憧れているのだろうか。


『戻った!』『おはぎちゃん、元気出して』『そもそも、なんでデカくなったの? ジョージが何かしてたのは分かるけど』『カメラに映ってないから分かんないな』

『まぁ、あんまり深掘りするもんでもないやろ。他人様のスキルや魔法を聞き出そうとするのはマナー違反や』


 丈二は、うなだれているおはぎの頭を撫でる。


「大丈夫だ。すぐにおはぎは大きくなる」

「ぐる!」


 丈二がなぐさめると、おはぎは『うん!』と元気良く鳴いた。

 

 そして、丈二は大狼の方を向いた。

 大狼のは優し気な瞳で、丈二たちを見つめている。


「狼さん、先ほどはありがとうございました」

「ぼふ!」


 『気にするな』と鳴いた。


『やっぱり、これ手懐けてるよね?』『ドラゴンに続いて、でかい狼まで……』『ジョージにはモンスターを手懐ける才能があるのかもな』『俺も手懐ける才能が欲しいです……』


「ところで、この後はどうするんですか? 良ければ、俺たちに付いてきて欲しいんですけど……」


 このまま大狼がダンジョンに居たら、他のモンスターと同じように倒されてしまうかもしれない。

 丈二に付いてきてもらうのが、一番いいのだが。


「ばう」


 『ぜひとも世話になりたい』。大狼は小さくうなづいた。


 良かった。

 丈二はホッと息を吐く。

 問題は、家に入るかなのだが……大狼なら小さくなる魔法とか使えるのだろうか。


「ぐるぅ!」


 おはぎは、大狼が家に来ると聞いて喜ぶ。

 そして勢いよく大狼に突撃した。

 もふん。

 大狼のもふもふした毛の中に隠れてしまった。


『おはぎちゃん羨ましい……』『俺ももふもふに包まれたい!』『たぶん、普通に臭いぞ』


 こうして、初のダンジョン配信は、なんとか無事に終わった。





 配信を止めた後。

 丈二たちはダンジョンの出口へと歩いていた。


「半蔵さん、今日はありがとうございました。危険な中でも守っていただいて、本当に助かりました」

「いえ、危険な状況になったのは、私がダンジョン選びを間違えたせいもあります。むしろ申し訳ありませんでした」


 丈二たちがやってきていたダンジョンは、最近できたばかりの物だ。

 丈二の家からも近く、弱めの獣系モンスターしか出ないと聞いていた。


 だが、実際には大狼や人狼が現れ、狼のモンスターにも強いのが混じっていた。

 ダンジョンのモンスターの強さは、常に一定というわけではない。

 だが、ここまで変化が起きるのも珍しい。


「がう」


 『私が狩っていた』そう大狼が鳴いた。

 大狼からは、おはぎと比べて複雑な意思が伝わってくる。

 丈二にはそんな気がする。

 これも大狼の年の功なのだろう。


 ちなみにおはぎは、大狼の背中で寝息をたてている。

 巨大化の影響で疲れたのだろう。


「どうやら、狼さんが狩っていたから、弱いモンスターが多かったようです」

「なるほど、そこに人狼のモンスターが現れたのですね」

「がう」


 『そうだ』と大狼が鳴いた。

 丈二はそれを伝える。

 半蔵はアゴに手を当てる。

 なにか疑問に思ったらしい。


「ですが、大狼殿がそう簡単に人狼に負けたとは思えません」


 半蔵なら、なんとなくモンスターの強さが分かるのだろう。

 その冒険者の勘から言えば、大狼が人狼に負けるとは思えないらしい。


「がう」「ぐる」「ぼふ」「がるる」「ぐるる」


 『他にも敵がいた』『ここには居ない』『ここに来る前』『襲われた』『傷が残っていた』

 大狼から伝わってきた意思を半蔵に伝える。


「なるほど、他にも敵がいたようですね。ですがダンジョンに現れたのは人狼のみ。とりあえずこのダンジョンは安全そうですが、念のためギルドに報告しておきます」

「お願いします」


 先ほどまでの出来事が異常だったらしい。

 しかし大狼が居なくなることで、強いモンスターを狩る存在が居なくなる。

 ダンジョンの難易度は少し上がるかもしれない。

 

 しかし、大狼から伝わってきた意思で、丈二には気になる部分があった。

 ”ここに来る前”。

 つまり、大狼たちモンスターは他のドコかで生活していたのが、ダンジョンにやってきたのかもしれない。


 こことは異なる世界があるのだろうか。

 だとすれば、ぜひともその世界の話を聞いてみたい。

 丈二は少しワクワクする。


 だが、現状では複雑な意思疎通を取るのは難しい。

 まぁ少しずつ話を聞いて行けばいいだろう。

 仲良くなれば、もっとスムーズに話ができるようになるかもしれない。


 丈二はそう考えながら、歩みを進めた。

 

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