第15話 ダンジョン配信

「ふぅ、ちょっと緊張するな……」


 丈二はつぶやいた。

 ちなみに、丈二はしっかりと探索者らしい装備をしてきた。


 片手には機械の杖。これは魔法の威力を高めてくれる。

 軽い金属製の胸板などを付けた。

 そして背中には大きなリュックを背負っている。


 そのリュックから丈二は配信用の機材を取り出した。

 いつも使っている球体にレンズが着いたカメラだ。


「初めての配信だ。失敗しないようにしないと」


 今まではずっと、動画の形で投稿してきた。

 だが、ダンジョン探索は生配信の方が面白い。そう牛巻に言われた。


 だけど、配信は失敗しても編集ができない。

 視聴者の人たちに、面白いと言ってもらえるようなものが撮影できるのか、不安だ。


「ぐるぅ?」


 丈二の緊張を感じたのだろう。

 『どうした?』とおはぎが見つめてきた。

 こてんと首をかしげる姿はとてもかわいい。


「……そうだよな。俺が気負わなくても、おはぎは可愛いからな」


 おはぎの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた。


 なにも気張る必要はない。

 主役はおはぎだ。

 そのサポートしっかりとしよう。

 丈二は深く息を吐いた。


「よし、始めようか」


 カメラを起動すると、その上に半透明の板が映される。

 そこを操作して、配信画面を表示した。 


『うひょー! おはぎちゃんの初めてのダンジョン探索か!』『わくわく』


 コメント欄はそこそこの勢いがある。

 少しびっくりする。

 こんなに見ている人が居るのか……。

 丈二は少しためらいながらも、えいっと配信開始ボタンを押した。


「えっと、皆さま今日は来ていただきありがとうございます。今日はおはぎと一緒にダンジョンの探索をおこないたいと思います」


『固いよ!www』『もっとリラックスしてwww』『飼い主さんお疲れ様です!』『ところで主はなんて呼べば良いの?』


 丈二はコメントを見て気づく。

 そういえば、しっかりと名乗ったことが無かった。

 自分の名前くらいは言っておいた方が良いだろうと、丈二は考える。


「名乗ってませんでしたね。丈二じょうじって呼んでください」


『よろしくジョージ』『おはぎちゃんを飼えるジョージが羨ましい……』


「それと、今回は護衛として探索者の方に付いてきてもらってます」


 半蔵を見る。

 挨拶をするかと思ったが、半蔵は軽く首を振った。

 出たくはないらしい。


「あまり目立ちたくはないらしいので、護衛の方の紹介は止めておきますね」


『護衛雇ってるのか』『まぁジョージもおはぎちゃんも初めてらしいしね』『おはぎちゃんに何かあったら大変だからな』


「ぐるる!」


 『早く行こう!』とおはぎがソワソワとしていた。

 長々と挨拶しているのに待ちきれないのだろう。


「そうだな。はやく行こうか」


『おはぎちゃんwww』『やっぱドラゴンなんやね』『身体は闘争を求める』


 おはぎを先頭にして、丈二たちは森の中を歩く。

 上を見上げる。

 木々の間から青い空が見えている。

 ぽかぽかとした空気が肌を優しくなでる。


 なんだかピクニックに来たような気分だ。

 丈二がのんびりと辺りを見回していると、おはぎが止まった。


「グルルゥ!」


 低い唸り声だ。

 森の奥を警戒している。

 モンスターだろうか。


 そっと半蔵が耳打ちしてきた。


「気配からすると狼型のモンスターです。数は3体、気を付けてください」


 丈二はグッと杖を握る。

 せめておはぎの足を引っ張らないように気を付けなくては。


 ガサガサと草をかき分ける音が響く。

 バッと狼たちが飛び出してきた。

 半蔵の言う通り、数は3体。


 先ほど出会った狼よりも体が大きい。

 強そうだ。


「ガルルルゥ!!」

「ぐるぅぅ!」


『ワイルドなおはぎちゃんだ……』『がんばれおはぎちゃん!』『ひぇぇ。おはぎちゃんがケガしないか心配だ……』


 おはぎと、狼たちはにらみ合っている。

 今のうちにできることをしよう。

 丈二は杖をかかげた。


「おはぎ、バフ魔法をかけるぞ!」


 おはぎの体が淡く光る。


 丈二は最近、動画を見ながら魔法の練習をしていた。

 その中で覚えたのが、バフ魔法。


 体内の精霊に働きかけて、身体能力を上げることができるらしい。

 実際に自分に使ってみた時は、体が軽く感じた。

 おはぎにもしっかりと効果があるはずだ。


「ぐる!」


 『ありがとう!』とおはぎは軽く鳴いた。

 そして、ザっと地面を蹴って飛び出す。

 弾丸のような速度で狼たちに迫る。

 その一体ののど元に食らいついた。


「がる!」


 勢いのままに食いちぎると、ばたりと狼が倒れた。


『おはぎちゃん強ええぇぇぇ!?』『さすおは!』『ドラゴンは怖いイメージだったけど、味方になるとこんなに頼もしいんだな』


「ガルル!!」


 だが狼たちだって黙っていない。

 着地したおはぎに飛び掛かる。だが――


「シェル!」


 丈二が杖を構えて、魔法を使った。

 おはぎの周りに、半透明の壁が生まれる。

 狼たちはそれに勢いよくぶつかる。反動で隙が生まれた。


「おはぎ、ビーム!」


 おはぎが光線を放つ。

 それに合わせて、丈二も壁を解いた。


 おはぎのビームが、残った二匹の狼を貫いた。


『やるやん!!』『おはぎちゃんとジョージの連携もばっちりだな!』『これは安心して見てられる』


 これで狼は倒したはずだ。

 おはぎが駆け寄ってくる。


「おはぎ、ケガとかしてないか?」

「ぐるぅ!」


 『大丈夫!』と元気よく鳴いた。

 よしよしと撫でてあげる。

 これで戦闘は終わりだと、丈二は思ったのだが――。


「ぐるぅ」


 おはぎは、なにやら森の奥の方を気にしている。


 なにかあるのだろうか?

 丈二も同じ方向を見るが、なにも見えない。

 ただ、木々が繁っているだけだ。


「行ってみますか?」


 半蔵が声をかけてくる。

 ふと見ると、いつの間にかモンスターの死体は回収されていた。

 なんとも仕事が早い。


「ぐるぅ!」


 『行こう!』とおはぎが言っているように感じる。

 これは、おはぎに付いて行ってみるべきだろうか。


「そうですね。おはぎに任せましょう」


『なんだなんだ?』『おはぎちゃんが何かを感じ取ってる?』『野生の勘かな?』


 丈二たちはおはぎに任せて進んで行く。

 途中で、半蔵がびくりと何かを感じ取った。


「なにか、強い気配を感じます。気を付けてください」


 強い気配。

 そう言われて丈二は心配になる。

 

 おはぎを見てみるが、警戒している様子はない。

 強い。だけど脅威ではないのだろうか?


「いや、これは……弱っている?」


 半蔵はさらに呟いた。

 強い何者かが弱っているのか。

 おはぎはそれに向かって歩いているのだろう。


 さらに進んで行くと、開けた場所に出た。


「これは……」


 木々がなぎ倒されている。

 バキバキとした断面から、無理やりちぎられたことが分かる。

 そして、その中心には……。


「デカい狼……だけどケガしてるのか?」


 大きな狼だ。 

 6人乗りの自動車くらいのサイズ。


 弱弱しい目元。パサパサとした毛並み。

 ずいぶんと年老いているように見える。


 その体中にじんわりと血がにじんでいた。

 特にお腹のあたりには、大きな爪で裂かれたような傷が見える。


「ぐるぅ?」


 『どうする?』とおはぎが見上げてきた。

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