第14話 初めてのダンジョン

「ぐるぅ?」


 『なんだこれは?』とおはぎが首をかしげている。


「ここにダンジョンへの入り口があるみたいだよ」


 丈二とおはぎは倉庫のような建物の前に居た。

 がっしりとした作りで、そう簡単に壊れることはないだろう。


 前面には重苦しい鉄の扉がついている。現在は開け放たれているが。

 二重扉になっているらしく、さらに奥にはシャッターが付けられていた。


 ここにダンジョンへの入り口が収容されている。

 これから丈二たちは、初めてのダンジョン探索に挑む。


 丈二の隣には一人の男性が居た。


「シャッターの奥に改札があります。探索許可証は持ってきましたか?」


 どことなく忍者っぽい。黒い格好をした青年だ。


 彼とは『ギルド』で会った。

 おはぎとの握手会に並んでいた一人だ。


 名は『黒子半蔵くろこはんぞう』。

 丈二たちが護衛を探していることを言ったら、名乗りを上げてくれた。

 撮影に映りこまない自信があるらしい。


「ええ、持ってきてますよ」


 丈二は許可証を取り出す。

 見た目は交通系のICカードみたいだ。


「駅の改札を通る時と同じように、それをかざせば通れます」


 さっそく、丈二たちはシャッターに近づく。

 おはぎは丈二の隣をテクテクとついて行く。


 丈二たちが近づくと、シャッターは自動で上がる。

 その奥には、駅のものにそっくりな改札があった。

 機械は流用しているのかもしれない。


 駅を通るように、自然な動作でカードをかざす。

 ピッという音と共に、改札が開く。


「これで、どの探索者がどれくらいダンジョンに潜っているかを計測しています。現在の丈二さんですと、一日も出てこなかったら救助が送られることになりますから。気を付けてください」


 探索者は1から10の等級に分けられている。

 等級次第でさまざまな恩恵や、制限がある。

 活動を続けて、功績を積み上げていけば上がるらしい。


 現在の丈二は最低ランクの10級。

 ダンジョンに潜っていられる時間が制限されている。


「はい。間違っても時間がオーバーしないように気を付けます」


 以前、ネットニュースで見たことがある。


 ダンジョンの奥へ奥へと進んだ青年がいた。

 自分ならもっとやれると考えて、無謀な挑戦をしてしまったらしい。

 結果として遭難。

 最終的に救助隊が送り込まれ、青年は救助された。


 その費用は国が負担してくれた。

 だが、ネットで物議をかもした。


 明らかに無理な挑戦。

 さらに救助後の青年の態度が悪かった。


 挑戦が失敗したことに、悔しさと恥ずかしさがあったのだろう。

 助けが来なくても、一人で帰れたと言い張っていた。


 それがネットでは大炎上。

 税金を使って馬鹿を助けるなと、さんざんに叩かれていた。


 同じような目にあってはたまらない。

 時間管理はしっかりしようと、丈二は心に決める。

 

 丈二たちは奥に進んで行く。

 そこには半透明の木があった。

 アレがダンジョンへの入り口だ。


「あの木に触れれれば、ダンジョンに入れます。私が先に入りますね」


 半蔵が木に近づく。

 木に触れると、一瞬で半蔵の姿が消えてしまった。


「生で見ると驚きだな」


 丈二はそれに驚く。


 だがおはぎは違うらしい。

 考えてみれば、おはぎはダンジョンから外に出てきているのだ。

 すでに通った道。

 驚くことはないのだろう。


「ぐるぅ!」


 だがソワソワしている。

 無意味に足を動かしたり、くるりと回ってみたり。

 喜んでいる犬みたいだ。


 戦えることが楽しみなのだろうか。


「よし、じゃあ一緒に行ってみようか」


 丈二はおはぎを抱き上げる。

 ぶんぶんと揺れる尻尾が、丈二のお腹に当たる。

 そして、おっかなびっくりと木に触れた。


 パッと景色が変わった。

 足元には低い草。

 周りにはわさわさと木が生えている。


「森だ」


 一瞬で森の中に転移していた。


「丈二さん。早速ですが、モンスターが近づいています」


 びくりと後ろを振り向くと、そこに半蔵がいた。

 その目線は森の奥を見つめている。


「ぐるぅ!!」


 おはぎも同じ方向を見た。

 ふんふんと鼻息が荒い。

 やる気でいっぱいだ。


 バッと木々の奥から、影が飛び出してきた。


「ガルルァ!!」


 それは狼型のモンスターだ。

 おはぎと初めて出会ったときのと似ている。


「ぐるるるぅ!!」


 おはぎと狼はにらみ合う。


「おはぎちゃんにお願いしますか?」


 半蔵が聞いてきた。

 

 どうするべきか。

 体格だけならおはぎに勝ち目はなさそうに見える。

 子犬と虎ぐらいに違う。


 だがおはぎはドラゴンだし、最悪ビームを放てば勝てるはず。

 ここはおはぎを信じてみるべきか……。

 丈二は考える。


「おはぎ、行けるか?」

「ぐるぅ!」


 『もちろん!』と力強く返事をした。


「よし、おはぎ行け!」

「ぐるぅぅ!!」


 飛び出すおはぎ。

 迎撃しようと、狼が爪を振るった。

 おはぎはひらりと避ける。

 そして狼の脇腹に、勢いよく頭突きを決めた。


 ズドン!!

 吹っ飛ばされた狼は木にぶつかる。


 今だ。

 丈二はレーザーポインターを取り出す。

 そして狼ののど元に光を当てた。


「おはぎ! ビーム!」


 ビュン!!

 おはぎの口からビームが飛び出す。

 それは狼ののどを正確に貫く。


 ……無事に倒せたようだ。


「なるほど……レーザーポインターで指示を出すとは、お見事です」

「いやいや、おはぎが賢いおかげですよ」


 おはぎはタッタッタッと丈二に駆け寄ってきた。


「ぐるぅ♪」


 『さぁ褒めてくれ』とばかりに、丈二の足元にまとわりつく。


「よーし、おはぎ。偉いぞー」


 おはぎを捕まえると、その頭をわしゃわしゃと撫でた。

 ぐるぐると嬉しそうに喉を鳴らしている。


「モンスターの死体は私の方で回収しておきますね」


 半蔵はモンスターの死体に近づく。

 そして四角いキューブのようなものを当てると、パッと死体が消えた。


「アイテムボックスです。ミミックというモンスターの素材から作られた道具で、中に物が収納できるんですよ」

「話には聞いたことがありますけど……便利なものですね」


 どれくらいの物を中に収納できるのだろうか。

 自分も欲しいな。

 バッグ代わりに使えるかもしれない。

 丈二がアイテムボックスを見つめていると。


「まぁ、なんでも入るわけじゃないですよ。精霊が宿っていること。生きていないこと。この二つの条件を満たさないと物は入れられません。なので生きている動物や、普通の道具などは入れられませんね」


 なんでも入るわけではないのか。

 バッグ代わりに使おうかと思っていた丈二の思惑が壊れる。


「精霊が宿っていれば無機物でも入るらしいですが、そもそも無機物に精霊を宿すのが大変らしいです。コスト的にまだ実用化は難しいとか」


 そう上手くはいかないものだ。

 だが、どのみち探索者として活動するならあったほうが良いだろう。

 丈二は購入を検討しながら、おはぎの頭を撫でる。


「それじゃあ、そろそろ配信を始めような」

「ぐるぅ!」


 おはぎは『まかせとけ!』と力強く鳴いてくれた。

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