死の淵にて、再会
イグニスの爆発するブレスに焼かれ、ボクの意識も焼かれたと思った。
気が遠くなる程痛かった火傷や裂傷も、いつの間にか感じなくなっていて、体が浮かんでしまいそうなほど軽く感じた。
嗚呼、このままボクは結局なにも出来ずに死んでしまうのか。
この感覚が嫌だった。諦めたくないのに、諦めざるを得ないという理不尽な状況に全身の力が抜けていく感覚がたまらなく嫌だった。
それは絶望だ。
頑張って勉強して、働いて、それでも将来に希望が見いだせなくなって……。
何もかも嫌になる事だって何度もあった。
働かず、学校や塾で勉強だけして、空いた時間で遊んでいる同級生達を見送ってアルバイトへ向かう惨めさに何度涙したか分からない。
それでも頑張って生きていればいつか報われる時が来ると、そう信じて来たのに。あんな死に方なんてあんまりだ。
今の状況もそうだ。
ボクは女の子ひとりも守る事が出来ずに死ぬんだ。
なんて無様なんだ。
なんて理不尽なんだ。
こんなのって、こんなのってないよ。
目頭が熱くなる。指先がチリチリして、足が震えた。
その時気が付いた。
意識が遠のいていった筈なのに、また意識や体の感覚が戻って来ている事に。
『やはり、戻ってきてしまいましたか』
聞いたことのある声がした。
ゆっくりとまぶたを開ける。そこは一度見たけど見慣れることはないだろう空間だった。
どこまでも白い空間。ボクはいつの間にか立っていて、目の前にドゥクスさんが立っていた。
「ドゥクスさん。ここは、ボクは死んでしまったんですか?」
よく見ると、ドゥクスさんの姿は半透明で、まるでガラスに映っているかのようだ。ここにいてここにいないような。
ドゥクスさんは首を横に振った。
『あなたに謝らなければなりません』
「え……?」
『あなたに与えた力。あれは、何の効果もないものだったのです』
「え、でも、ボクは竜との戦いで確かに力を使って勝利を……」
トラバミラは目に見える超強力な魔法とかではなく、勝つ為に運命を変えるような、奇跡を引き寄せるようなものだと思っていた。
ドゥクスさんは申し訳ないといった苦々しい表情のまま頭を下げた。
『それは、あなた自身の頑張りで掴み取ったものです』
何故だろう。
与えられた力なんて無かった。そう言われたのに。
怒りが湧かない。悔しくもない。なんなら、嬉しいと思った。
「そっか、ボクは、ボクたちの力だけで勝てたんだ。他人から与えられた力だけじゃなくて……」
『期待させてごめんなさい』
「ありがとう」
『えっ?』
ドゥクスさんが驚きの声をあげたその時、ボクの背後から涼しい風が吹いてきた。それと同時に声が聞こえた。
「シノブ……シノブ……!」
「ヒサメ……?」
『あなたはまだ死んでいません。さあ、戻るのです』
弱い追い風が次の瞬間向かい風に変わる。吸い込まれているみたいだった。後ろに向かって体が吸い込まれ、体が浮かび、ドゥクスさんが遠ざかっていく。
ボクは聞こえるように声を振り絞った。
「ドゥクスさん! ありがとう! ボクはこれからも頑張り続けます!」
声が届いたかはわからない。
けど、最後に見たドゥクスさんは微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます