第043話 置き土産
「あんたたち、ドゥーム星系にいきなさい」
「なんだよ、いきなり」
免許を取った俺はコレットと二人でアメリアと対峙していた。
彼女はソファに座りなり唐突に言う。俺は意味が分からず困惑した。
「何って、ここにいたらコレットの気が休まらないでしょ」
「そういうことか」
コレットがこの街に住んでいることは周知の事実。魔法に掛かっていない奴が来る可能性がある。それに、罪を犯したわけでない相手に洗脳のような魔法を何度も使うのは気が引ける。
別の場所に移動すれば、コレット自身に認識阻害の魔法を掛けて、彼女だと分からなくすることも可能だ。
そっちの方が彼女も気持ちが楽なはずだ。
「ええ。それにドゥーム星系はこの辺りで一番近い、宇宙船の製造の盛んな星系なのよ。そこに行けばキョウの欲しい船も見つかるかもしれないでしょ?」
「それはいいな」
アメリアの言う通りだ。
このコロニーにも勿論宇宙船のディーラーはあるし、それなりの船もあると思う。でも、ここで買って、別の星系に着いたときに買いなおすと、お金が勿体ないし、非効率的だ。
それなら最初から良い船を買ったほうがいいと思う。
俺は船に思いを馳せてワクワクしてきた。
「私の船、ワープエンジン積んでないから時間がかかるよ?」
「うちの船を貸すわ。ついでにあんたの船もワープエンジン積んできなさい。旅行だとでも思って行って来たらいいわ」
「それもそうだね」
コレットは時間のことを気にしていたけど、アメリアの言葉に納得して頷いた。
「あんたはずっと働き詰めだったんだから、少しくらい羽を伸ばした方がいいわ。幸い資金も潤沢なんだし」
「うん、そうするよ」
コレットはようやく毎日あくせく働くことから解放された。それに賠償金としてウィルが支払った金額を差し引いても、コレットに残った金額はかなり大きい。
それに未だに動画再生数によって収益が発生している。少しくらい使ったところで何も問題ない。
「あ、でも俺そんなにお金持ってないぞ?」
ただ、コレットとは逆に俺にはそれほどの資金がない。
勿論この二週間ずっと依頼を受け、コレットの手伝いをしてきたけど、今の資金だと良い船が買えるのか分からなかった。
「行く途中にでも採掘しながら、ここに転移して持ってきなさい。それで十分よ」
「なるほどな。その方が時間が節約できるな」
そうだ。俺はどこからだってここに戻ってこれる。ちょっとの間船を止めてもらえれば往復できるしな。アメリアの言う通り、採掘という名の別の何かをしながらドゥーム星系に向かうことにする。
「でしょ?」
「それくらい私が渡すのに。あのお金はほとんどキョウのおかげで稼げたものだし」
そうかもしれないけど、コレットのために稼いだ金だ。俺にくれるより彼女に使ってもらった方が嬉しい。
それに、欲しいものくらい自分で稼いだお金で買ってこそ一端の大人だと思う。
「いいんだよ、魔法を使えばそのくらい簡単だからな」
「そっか。分かった」
俺の言葉に納得したコレットは素直に引き下がる。俺たちはアメリアと別れ、準備をしてドゥーム星系に出発した。
俺たちは、マテリアルサーチで価値ある資源がないかを探しながら、ドゥーム星系目指してワープを繰り返す。
「うわぁ……これってオレイコスのインゴットだ。これだけで前のインゴットの何十倍もの価値があるよ」
「マジか。これがあれば船は買えそうだな」
その途中でサーチに珍しく緑色の光が引っかかった。中々お目に掛かれないくらいレアな金属だったらしい。
コレットは目を丸くしている。
「こんなに大きなオレイコスを見つけるなんて流石ね。高く買い取らせてもらうわ」
アメリアもホクホク顔で買い取ってくれたおかげで、ドゥーム星系に着く頃には俺の資金が潤沢なものになっていた。
ドゥーム星系は恒星ドゥームを中心として三つの星で成り立つ星系らしい。二つの惑星の内、一つは人が住むことができるようになっていて、帝国のお金持ちや支配階級が多く住んでいるとのこと。
俺たちが行くのはドゥーム星系の交易コロニーだ。
「コレットはここには来たことがあるのか?」
「んーん、私今回初めて星系の外に出たんだよね」
コレットに質問すると、彼女は首を振った。
「あ、そうか。そんな暇なかったもんな」
彼女はずっと借金を返すために働いていた。ワープエンジンを積んでいるのならまだしも、彼女の宇宙船にはない。だから遠出なんてできるわけがなかった。
「楽しみだな」
「うん、早くいこ!!」
「おう」
ワクワクした気持ちを抑えながら、俺たちはドゥーム星系コロニーに降り立った。
◆ ◆ ◆
――ガンガンッ
「有罪」
…
…
…
一人の男が宇宙牢獄行きの船に乗せられようとしていた。
整えられていた金髪は見る影もなく、その頬はこけて、目が窪んでいる。
「……」
その男は立ち止まってコロニータウンの方を振り返った。その目には暗い光が浮かんでいる。
「ほら早く歩け!!」
監視していた男に背中を押されて、船の中に足を踏み入れる男。
――カチリッ
「全部……全部壊してあげるよ……ふふふふっ」
ほんの僅かな音と共に、男が小さく呟いたのを誰も聞くことはなかった。
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