第042話 試験監督は見た!!(別視点)
■とある傭兵視点
「ちっ……めんどくせぇな」
思わず舌打ちをしながら呟いてしまう。
俺は傭兵ギルドに登録している傭兵で、この道二十年のベテランだ。ちょっとしたへまをやらかして、今日は宇宙船の船舶免許試験を受けに来た受験者たちの試験監督を務めることになった。
来るやつらはどいつもこいつも甘ちゃんそうなやつばかり。こんな奴らのお守りをしなければならないと思うと舌打ちしてしまうのも仕方ないよな。
しかし、そんな試験でも例外は居る。
「おっ」
今受験会場に入ってきた奴はそれなりに使えそうだ。覇気があり、筋骨隆々で戦闘技術もそれなりにあるのが見受けられる。
こういう奴を他のライバルたちに先んじて見ておけるのは、試験監督を受けることになって唯一良かった点かもしれない。
「全員集まったか?」
もうすぐ試験開始時間。もう全員揃っているかどうかを確認する。
「いや、一人来てないな」
座っている奴らと今日の受験者リストを照らし合わせながら俺は呟いた。
「よし、ギリギリセーフ!! 間に合った!!」
次の瞬間、バタバタと走ってくる音が聞こえて、部屋に駆け込んできた男、いや少年と言った方がいい容姿の人物。
その少年はリストに載っていた。
「お前がキョウ・クロスゲートか?」
「そうだけど? あんたが試験監督?」
「ああ。もうすぐ時間だ。早く席に座れ」
「了解」
俺に物怖じすることもなく、平然とした顔で受け答えするキョウ。
これでもこれまで幾度も新人傭兵たちを泣かせてきた鬼と呼ばれている。ひょろひょろの見た目に反して、度胸だけは一丁前らしい。
「よし、今日は午前中に学科試験、午後が実技試験だ。学科試験で落ちた奴は実技試験は受けられない。以上だ。すぐに学科試験を始める」
全員揃ったところで今日の予定を説明し、試験問題用のタブレットを配った。
「それでは学科試験の制限時間は六十分だ。準備はいいか? よーい、スタート」
俺は受験者たちがいつでも始められる様子を見て試験を開始した。全員のタブレットに問題が表示される。
各々が勢いよくタッチペンを使って問題を解き始める。
だが、開始十分。一人の人物の行動が変化した。
あいつは何やっているんだ?
俺が見ているのはギリギリに到着したキョウ・クロスゲートだった。あいつは机に突っ伏して居眠りを始めやがった。
まさか最初からあきらめていたのか?
俺は席を立ち、キョウのところに行くと、タブレットが横に置いてあって、そのままにされていた。
「こ、これは……!?」
俺はそのタブレットを持って内容を確認すると、驚愕するほかなかった。なぜなら、たった十分で全ての回答が埋められていたからだ。
そして、その全てが完璧なほどに正解だった。
この試験は長年続いているが、合格点をとるやつは多くとも、満点を取る奴はそう多くない。それなのに、こいつはたったの十分でそれを成し遂げてしまった。
今までこんな奴は見たことがない。
もしかしたら、凄い奴なのかもしれない。
「zzz……」
「いや、まさかな……」
しかし、俺はすぐ横でグースカ寝ているこいつをみて頭を横に振った。こんなひょろひょろの見た目の少年が、船の操縦まで上手いわけがないだろう。たまたま、勉強ができる奴だっただけだ。
俺は監督席に戻った。
「よーし、お前ら、学科試験は終了だ!! 結果発表まで少し待て!!」
時間になってタブレットを回収した後、俺はその結果を確認する。案の定、満点を取ったのはキョウだけだった。
八割は合格、残りの二割が脱落して帰っていく。
「よし、残った奴らは俺についてこい」
俺はVRシミュレーターがある部屋に受験者たちを連れていった。これはVR空間に完全に没入して船の操縦をさせることで、よりリアルに近い感覚で実技試験を行う装置だ。
「それじゃあ、各々の受験番号がついているシミュレーターに入ってくれ」
彼らにはそれに入ってもらう。全員の準備が整ったところでテストを開始した。
俺は監督席に座り、各々試験風景を見る。
「ん? な、なんだこれは!?」
一見、全員何も問題ないと思っていたが、一人だけおかしい奴がいた。それはさっき学科試験を満点で通過したキョウ・クロスゲートだった。
試験は基本操作から目的に着くまでの一連の捜査をこなさせる内容だ。こいつはすでに合格ラインを越えていて、エクストラモードに突入していた。
エクストラモードは、一般的な航行に加えて宙賊や敵対生物と遭遇した時の対処方法まで問われるエキシビションみたいなものだ。
キョウは、次々とクリアしていき、上級、最上級の難しさまでも完全に攻略してみせた。
「スコア九九九九九九九……」
それは歴代最高、かつ実技試験の上限の点数だった。
こいつは化け物だ……!!
俺は画面に映る少年を見て戦慄する。
傭兵になったら、すさまじい戦功をあげていずれ必ず最高ランクであるダイヤモンドランクに到達すると俺の感が囁いていた。
そして、画面の中の少年がふいに俺の方を見てニヤリと笑った。俺はその顔を見た瞬間、体がブルリと震えてしまう。
なんで、俺が見ているのがバレたんだ?
俺はありえないはずの現象にただただ呆然とする他なかった。
「ふぅ……俺もうかうかしてらんねぇな」
俺は無理だと思いつつも、新人に追い抜かれないように自分に気合を入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます