第044話 ディーラーと緊急連絡

「へぇ~、同じコロニーでも全然違うんだな」

「本当だね」


 俺たちは都会にやってきたお上りさんのごとくあちこちに視線を移す。ドゥームのコロニーはメディチよりも背の高い建物が多くて都会感がある。


「すぐディーラーの所に行ってみるか?」

「そうだね。他にすることないし、行ってみよ」


 俺たちはマップを参考にしながらディーラーが集まっている区画を目指して無人タクシーに乗った。


「うわぁ……なんか場違いあるね」

「それな」


 俺たちはタクシーを降りて歩き始める。ただ、俺たちは肩身が狭い。なぜなら、どう見ても店構えが高級感が溢れているところばかりだからだ。


 なんていうんだろう。高級車を扱うディーラーばかりあるところを歩いているような気分になる。庶民の俺はそう言う場所にいると恐縮してしまうんだ。


「どうしよっか」

「とりあえず何処かの店に入ってみよう」

「そうだね」


 俺たちは区画を一通り歩いてめぼしい店をチェックして入ってみることにした。


「いらっしゃいませー!!」


 一件目は内装からして高そうな雰囲気を醸し出しているお店。


 店員もいて、煌びやかなスーツを身に纏い、髪型もバシッと決めて、身だしなみもしっかりと整えられていた。


「船を見せてもらいたいんだけど」

「おっと、すみません。ここはお客様のような方がいらっしゃるお店ではないかと」


 用件を告げると、彼は俺たちの姿を見た途端態度を豹変させて、俺たちを見下すような目で見ながら話し始める。


「どういう意味だ?」

「ここは最高級の船を扱っている店ですからね。お客様のようにあまり裕福ではない方には購入できませんよ」


 店員は俺たちの服を見て俺たちをバカにした。


 まぁ、俺たちの服は見た目はそれほど高そうじゃないからな。俺の装備は最高の耐久性と性能を誇っているんだけど、この世界の人には分からないだろうし。


「なんだってぇ!?」

「コレット落ち着いて。そうか、分かったよ。邪魔したな」


 店員の余りに余りな口ぶりに、コレットが今にも殴り掛かりそうな剣幕だったので、宥めてその店を後にした。


 後悔するのはこの店だ。俺たちはここに展示されているようなホログラムの船を普通に買えるだけの資金がある。


 今後、この系列の店で船を飼うことはないと思う。この後、どれだけ態度改めたとしても買いものをしたいとは思わないからな。


「二度とこないでくださいねぇ~」


 その男は、ハンカチのような物をヒラヒラとさせながらふざけた調子で俺たちを見送る。


 言われなくてもそうするさ。


「スリップッ」

「うぇええ!?」


 ただ、その顔が凄くイラっとしたので、あいつの立っている場所の摩擦力をゼロにしてやった。店員はその場でステンっと倒れ、何度起き上がろうとしても摩擦がなくて立ち上がることさえできなかった。


 周りを歩く人に滅茶苦茶笑われていた。


 いい気味だな。


「キョウ?」

「あれくらいならいいだろ?」

「うん、スッとしちゃった!!」


 俺の仕業だろという視線で顔を除き込むコレットに、俺は口角を吊り上げる。彼女釣られるように頬を緩ませてスッキリとした表情になった。


「うーん、どこも似たようなところばかりだね」

「そうだな」


 俺たちはちょっとがっかりしていた。まさかどの店も見た目で判断するような店ばかりだとは思わなかった。

 勿論見た目が大事なのも分かるけどさ。それだけじゃないじゃん。


「とりあえず、次の店もあんまり期待せずに入ってみよう」

「そうだね」


 俺たちはすぐに追い出されてもいい心構えで店内に足を踏み入れた。店内は豪華と言うよりは落ち着いた雰囲気で、他の店よりも居心地が悪くない。


 いやいや、このくらいで期待したら駄目だ。


「いらっしゃいませ」


 俺たちが入るなり、店員が深々とお辞儀をして俺たちを出向える。ここまで丁寧に対応されたのは初めてだ。


「船が欲しいんだが」

「どのような船をお探しですか?」

「そうだな。カッコよくて、居住性に優れていて、乗り心地の良い船かな」

「ふふふっ。お客様は欲張りですね」


 俺の要望に嫌な顔一つしない店員さん。

 少しだけ期待してもいいかもしれないと思い始める。


「ははははっ。やっぱりいい船に乗りたくてね」

「分かりました。おすすめの船をご案内しますね」

「よろしく頼む」


 店員さんはニッコリと笑ってくれたので、彼女に任せることにした。


「そちらのお客様はご用件はございませんか?」

「船に積んでる小型船のエンジンをワープエンジンに乗せ換えてもらいたいの」

「そうでしたか。それでは、こちらのスタッフとお話を進めてください」


 店員さんはコレットにも話を振り、彼女が答えるなり別の店員がやってくる。ここのお店の人は教育が行き届いているように見える。


「分かりました」


 コレットは別のスタッフと敷居の無い応接室のようなところに移動した。


「それでは、船の説明をさせていただきますね」

「よろしく頼む」


 俺たちも同じような場所に移動して、彼女の会社で扱っている船をホログラムを目の前に表示させながら説明してもらう。


 凄くいい船ばかりだったんだけど、こっちを立たせれば、あっちが立たないみたいな部分があって、なかなか購入するのに踏ん切りがつかなかった。


「今までの船でお気に召さないとなると、値は張りますがオーダーメイド、という手段もございます」


 おお、そんなことまでできるの?

 金額次第では考えなくもない。


「いくらくらいだ?」

「そうですねぇ……お客様にご提示した船の価格を考えますと、ざっと見積もって三千万ユラ程度でしょうか」


 店員さんは、少し考え込んだ末に金額を提示する。

 俺が思っていたよりも安かった。一億ユラくらい行くかもしれないと身構えていたからな。


「なんだ、そんなもんか。じゃあ、それで頼む」

「え?」


 俺が頼んだら、店員さんがギョッとした目で俺を見つめてきた。

 多分そんな大金を持っているとは思わなかったんだろうな。


「オーダーメイドで船を作って欲しい」

「いいんですか?」


 俺の言葉に「本当に大丈夫ですか?」という顔で問い返す店員さん。


「構わないよ」

「承知しました。資料をお持ちしますので、少々お待ちください」

「分かった」


 俺はもう一度頷くと、店員さんと設計から何からを一から話し合い、最終的に満足のいく内容に落とし込んだ。


「おっ」


 気づかないうちに隣でコレットがソファに座り、眠りこけていた。外はすっかり暗くなってしまった。


 かなり長い時間話し込んでしまったみたいだな。コレットには退屈な思いをさせてしまったな。後で埋め合わせしないと。


「それじゃあ、宜しく頼むよ」

「畏まりました」


 俺はコレットを起こさないように抱きかかえたまま、頭金を支払って船に戻った。


 ――プルルルッ


 彼女をベッドに寝かせると、俺の腰の端末が震える。


「こんな時間に一体誰だ?」


 俺は通信に出た。


「キョウ!! お願い、今すぐ戻ってきて!!」


 嫌味の一つでも言ってやろうと思ったけど、端末から聞こえてきたそれは、アメリアからの切羽詰まった叫びだった。

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