第037話 晴天の霹靂(第三者視点)
■第三者視点
「ふはははっ。あと少しでコレットは僕の物だ」
ウィルは借金の金額を言った時の事を思い出して一人で高笑いする。
すでにあれから三日が経過していた。
キョウが生きていたのは誤算だったが、コレットにはもう宇宙船がない。彼女が三日間で三億ユラなんて金額を稼ぎ出すことは無理だ。
もうコレットは自分の提案を受け入れる以外に選択肢はない。そして、ウィルはその時を仕事を処理してウキウキしながら、今か今かと待ち構えていた。
「ウィル様、こちらを」
「ん、なんだ?」
部下がウィルにタブレット端末を手渡す。その画面には動画が停止状態で表示されていた。
『皆さん、こんにちは!! コレットのマジカルチャンネルにようこそ!! 今日も皆さんに不思議な世界をお見せしちゃいます。今日は昨日よりも凄いかも!! 今日お見せするのはなんと!! 小惑星をインゴットにしちゃうマジックだよ!!』
その誰かとは、コレットの当人のこと。そこには彼女がピッチピチの宇宙服を着てこちらに語り掛けている姿が写っていた。
しかし、それはありえないはず。
「これはどういうことだ!? コレットの宇宙船は僕の指示で壊したはず。なんでコレットが宇宙にいる!?」
ウィルはその映像を見て一人狼狽えた。
そう。コレットは宇宙への移動手段をもたないはずなのに。なぜか宇宙で活動している。その理由がウィルには分からなかった。
「それは一つ前の動画を見ていただければ分かるかと」
「なに?」
部下の返答を聞いたウィルは、一つ前の配信動画をクリックして数倍速で再生する。
「そんなバカな……!?」
ウィルはその動画の最後で目を疑った。なぜなら、そこにはコレットが次々と物を直す様子が写っていて、最後にはバラバラになった彼女の船を直してしまったからだ。
それが手品だと言うのは簡単だ。しかし、今配信されている動画には、彼女の船が時折写っていて、その姿は壊す前の状態を取り戻していた。
十中八九コレットの船は本当に直ったとみていい。
しかし、確かに三日前までは船は壊れていたはずだ。それがほんの僅かな時間で修理して、すぐに宇宙に出るなんて不可能だ。
「いや、まさか……一瞬で修理をするという話は聞いた覚えがあるな」
「はい。おそらくキョウ・クロスゲートがそういう技術を持っているのはないかと」
「そういうことか。それであの自信か……」
手段は分からないが、そこでコレットの船を直したのがキョウだということに気がついた。
ウィルはキョウにそこまで優れた技術があるということまでは聞いていない。
「しかし、これでも三億ユラなど到底行くわけあるまい?」
だからと言って、そのくらいでコレットの借金がどうにかなるはずがない。
「続きを見ていただければ」
「分かった……」
部下に勧められて、ウィルは最初の動画に画面を戻して、また数倍速でその先を閲覧し始める。
「これはなんだ!? なにが起こっている!?」
次にウィルが見たのは、コレットの数万倍の体積はあるであろう小惑星が数秒ごとに小さくなって、最後に金属だけの綺麗な立方体になってしまう映像だった。
それは余りにも荒唐無稽な光景で船の時と同様にすぐに否定したくなる。
しかし、もし本当なら驚異的だ。たった数十秒であれだけの大きさのインゴットが作られてしまうのだから。
安くても数十万ユラはくだらない。百個あれば数千万ユラ。それ以上ならそれだけで億に到達してしまうの想像に難くない。
コレットの船にそれほどの量を積むことはできないが、もう何が起こっても不思議はない状態だった。
「一体なんなんだ……どうなっているんだ……僕は何を見せられているんだ?」
しかも、さらに次の動画があり、そこには襲い掛かってくる宙賊を次々と破壊するコレットの姿が写っている。
コレットにそんな力があるはずがない。でも現実には目の前で宙賊の船が本当に破壊されていっている。これが生配信だったというのだから疑いようがない。
「懸賞金が掛かった賞金首も多く打ち取られている模様です」
「今すぐにマテリアルギルドに素材の買取をさせないように働きかけろ。そして、コレットが戻ってくるのを邪魔するんだ」
動画が公開されてから時間が経てば経つほど、対策が難しくなる。一刻も早く動いてコレットがお金を作るのを阻止する必要があった。
「それは難しいかと」
しかし、部下はウィルの命令に首を振った。
「なんだと?」
「動画は昨日公開されたもので、本日すでにコレット様はお戻りになってマテリアルギルドに着いているので」
「くそっ。今からでもその交渉を潰しに行くぞ」
部下の答えに自分が出遅れたことを確信してソファから立ち上がるウィル。
――ポーンッ
しかし、ウィルの行動を遮るように、社長室の呼び出し音が鳴る。
「どうした?」
ウィルはその通信に出た。
『コレット様ご一行がいらっしゃいました。いかがいたしますか?』
「分かった。通せ……」
聞こえてきたのは無情な報告。
ウィルの願いも虚しくすでにコレットは彼の会社に辿り着いていた。
「ふふふふっ。まだ大丈夫だ。証明する手段がないからな」
ウィルはコレットを通させると、焦りながらも考えを巡らせた。
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