第036話 意外な人物の助け
「お久しぶりですね。グレイ様」
「はい、お久しぶりです、イザナ社長。まさか帝国でも指折りの医療系ロボット製造企業、メディチインダストリアルの社長自ら起こしとは。それでお役に立てるとは一体……」
グレイさんとイザナ社長がお互いに挨拶をし合う。
「まずは中に入ってもよろしいかしら?」
「あ、はい、勿論です。こちらへどうぞ。アメリア、お茶を用意して来てくれ」
イザナ社長が首を傾げると、グレイは慌ててイザナ社長を案内し、アメリアに指示を出した。
「分かったわ」
アメリアが部屋の外に出ていき、俺たちはソファに腰を下ろす。
「キョウ様もお久しぶりですね」
「あ、はい。まさかそんな会社の偉い方だとは露知らず」
「いいえ、構いませんよ」
そう、俺は彼女には以前会ったことがある。なぜなら、彼女はテンタークの世話の依頼の依頼人だったからだ。
お金持ちだとは思っていたけど、そんなに大きな企業の社長だとは思わなかった。
「キョウも知ってるの?」
コレットが俺の横で不思議そうな顔をして尋ねてきた。
「ああ。俺が引き受けた依頼の依頼人なんだ」
「はい。キョウ様には私の家で飼っているペットのお世話をよく頼んでいるんですよ」
「へぇ~、そうだったんだ!!」
俺とイザナ社長の言葉に、感心するように頷くコレット。
「はい。それで今回私がやってきたのは、大変お世話になっているキョウ様のお役にたいと思いまして。あなた方がしようとしていることに助力できればと」
「俺たちが何をしようとしているのか分かるんですか?」
俺たちのやろうとしていることはほぼ誰も知らない。
それなのにいきなり現れたイザナ社長に疑問を持った。
「はい。三日前のここで出来事や、コレットさんの動画から推察いたしました。あなた方はあれらを利用して大金を稼ごうとしていた。小惑星をインゴットにするという不可思議な動画でインゴットにした惑星の数は到底コレットさんの船に収まるような量ではありませんでした。それに、あれだけ宙賊を集めて倒すのにも理由があるのではないかと考えました。以前船を修理する動画を上げておりましたね。あれでピンときました。そして、あなた方の最初から大量の物資を得ることを確信したような行動。それらをつなぎ合わせると、あなた方には大量の物資を運ぶ手段があるのではないかと推測しました」
「凄い洞察力ですね」
まさかそれだけの情報からここまで推理されるとは思わなかった。彼女は味方だからよかったけど、今後は気をつけないといけないかもしれない。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ちょうど一息ついたと所で、アメリアが戻ってきた。彼女は全員にお茶を出して空いている場所に腰を下ろす。
「これでも企業の社長ですので。それなりに観察眼は持っております。ただ、あまりに荒唐無稽な話なので、推測の域は出なかったのですが、間違っていないようですね?」
「はい、イザナ社長のおっしゃる通りです。私には大量の物資を運ぶ力があります」
彼女は俺の返事を聞いて確信したらしい。怖い人だ。
「やはりそうですか。それなら私が来た甲斐があるというものです。恐らくキョウ様が持ってきたインゴットと宙賊船のパーツ。全てを買い取るのはむずかしいのではないですか?」
イザナ社長がグレイさんの方に視線を向ける。
「そうです。私どもだけではこれだけの物を買い取ることは難しい」
「これは……確かに支部にこれだけの金額を一度に動かすのは難しいでしょう。マテリアルギルドで買い取れない分を弊社で買い取りたいと思いますが、いかがでしょうか?」
グレイさんが返事をしながら俺が持ってきた素材のリストをイザナ斜塔に渡すと、彼女はそれを見て目を丸くした。
おそらくここまでとは思っていなかったんだと思う。
それでも冷静さを保って話を続けるのは流石大企業の社長だと感心した。
「本当にいいんですか?」
「はい、勿論です。キョウ様には大変お世話になってますから。それに、あなたとは仲良くしておいた方がよさそうですし」
「そ、そうですか。ありがとうございます。ぜひお願いします」
俺の質問に流し目で答えるイザナ社長。俺はタジタジになりながら返事をする。
彼女は艶っぽいので、そういう仕草は止めていただきたい。
「分かりました。どのように分けるかはグレイ様とお話しさせていただきますね」
「よろしくお願いします」
「お任せください。コレットさん、良い殿方とお会いになりましたね?」
俺が頭を下げると、イザナ社長はニッコリと笑って引き受けた後、コレットに笑いかけた。
何の話だ?
「べ、別にキョウとはそんなんじゃ!!」
「そんなことを言っていると、誰かに取られてしまいますよ?」
「……」
狼狽えるコレットに、イザナ社長はにこやかな笑みを崩さないまま言い放つ。コレットは黙って俯いてしまった。
なんだ? 何が起こっているんだ?
俺は繰り広げられている光景が意味が分からず混乱してしてしまう。
「うふふふっ。少し揶揄いすぎてしまいましたね」
「それでは、私たちは別室で話を進めましょう」
「分かりました。キョウ様、それでは、また」
「はい、また」
そうしてイザナ社長はグレイさんと共に別室に去っていった。
「はぁ……凄い人だったわね」
アメリアはソファに背を預けてぐったりとする。
彼女でさえ気圧される雰囲気を持っているなんてイザナ社長はあなどれない。
「あぁ。流石あのペットを飼うだけあるな」
「それは……そうね……」
俺の言葉を聞いてアメリアは顔をしかめた。
テンタークのことを知っているからな、想像してしまったんだな。
SAN値が削れるから考えてはいけない。
「コレット、どうかしたのか?」
「う、ううん。なんでもないよ。私少し外の空気吸って来るね」
先程から反応がないコレットに話しかけると、彼女はそそくさと部屋を出ていく。
「あ、ああ。行ってらっしゃい」
俺は突然の行動に狼狽しながらその背中を見送った。
「コレットの奴、どうしたんだ?」
「はぁ……全く鈍感ね」
俺が首を捻っていると、アメリアが呆れた顔をして顔を横に振っている。
教室の空気を読みまくって溶け込んでいた男である俺が、鈍感なはずがないんだけどな。
「なんのことだ?」
「自分で考えなさい」
尋ねてみても彼女は俺を冷たく突き放した。
俺が一体何をしたっていうんだ……。
それから暫くすると、コレットとグレイさんが戻ってくる。グレイさんは無事に買い取りを終えたことを教えてくれた。そして、俺たちが受け取った金額は、目標金額である三億ユラを超えていた。
「やったぁ!!」
それを聞いたコレットは打って変わって両手を挙げて喜んだ。
「よし、ウィルの野郎の会社に乗り込むぞ!!」
「「おおー!!」」
俺とコレットは拳を突き上げて、ギルドを後にした。
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